呼吸器疾患治療の要となる病院に
御坊医療圏において一般診療に加え、医療必要度の高い重症心身障害児(者)や神経難病患者を対象としたセーフティーネット医療を担う和歌山病院。南方良章院長は、自身の専門の呼吸器疾患への取り組みにも力を入れている。
◎セーフティーネット医療を担う
診療の大きな特徴の一つはセーフティーネット医療として、重症心身障害、神経難病、結核に対応していることです。
重症心身障害児(者)を対象にした病棟(160床)を設置。当院の全病床310床の半分以上を占めています。160床という数は、県内最大。県内各地から重症の患者さんを受け入れています。
また、ALS(筋萎縮性側索硬化症)など、神経難病の患者さんの治療にも積極的です。最近ではパーキンソン病の患者さんで、在宅で診るのは難しいという方にも対応します。
和歌山県は2014年に「神経難病医療ネットワーク」を設立。神経難病の患者さんを支えるための連携システムを構築しています。
和歌山県立医大と当院の2病院が基幹病院で、これに23の病院と、17の診療所が加わっています。診断は主に大学。入院、在宅のサポートは地域で対応するという役割分担です。
「自宅に近い病院に入院したい」という患者さんや家族の要望も少なくありません。しかし、重症度が高い場合は、地域の病院では対応するのが難しいケースも多く、その場合は当院が受け入れます。
当院には、神経内科の専門医が勤務しています。加えて、ALSなどの場合、人工呼吸器の患者さんも多数います。このため、呼吸器内科医がその管理などで協力をしながら治療を進めます。
◎役割広がる呼吸器センター
診療で特に力を入れているのが呼吸器疾患です。もともと、当院は結核療養所から始まったということもあり、呼吸器は強みの一つでした。
呼吸器疾患に関しては、外科と内科を統一して「呼吸器センター」として統合しています。カンファレンスはセンター全体で実施します。呼吸器内科医は全部で6人、うち呼吸器専門医が3人ですが、来年は4人に増える予定です。呼吸器外科の専門医も1人います。
大学から初期研修医の呼吸器疾患の実習を積極的に受け入れていることも特徴です。和歌山県立医大では、医学部生を早い段階から見学など地域の医療施設に行かせています。当院は私が着任してからは学生の受け入れに注力しています。中でも当院の強みである呼吸器専門医の育成に力を入れています。
現在、和歌山県では、呼吸器の専門医の数が大変少ないことが問題となっています。その大半が県北部の和歌山市内に集中。しかも、集中していると言われるその和歌山市であっても、呼吸器の専門医を複数人抱えている病院は数えるほどしかありません。
県中・南部の人口は約35万人ですが、このエリアの呼吸器専門医も足りません。地域を支える医師を育てていくことも当院の重要な役割だと考えています。
◎ICTを活用地域を支える遠隔診療
県ではへき地に対する遠隔医療に力を入れています。当院もこれに協力するため、へき地の診療所とICTを活用したシステムを模索しています。
2017年10月からはICTを使って、呼吸器疾患に対する診療のサポートを試験的に進めています。現在、県内の12の公的病院と5診療所が当院と電話回線でネットワーク化。来年度は新たに6診療所も加わります。その回線を通して診療所から患者さんのデータや検査画像などを送信してもらい当院が受信。それらの情報を両者が一緒に見ながらディスカッションできるようなシステムを目指しています。
将来的には、診療所に受診に来た患者さんを、カメラを通して同時に診察したいですね。
実際に稼働すると、おそらくさまざまな問題も出てくるでしょう。「画像が見えにくい」「時間がかかる」など...。
しかし、本県は山間地域が多い県ですから、このようなシステムはかなり有効だと思います。例えば、地域枠などで入学し、その後へき地に派遣される若い医師は他の医師に相談する機会がなかなかありません。現在へき地にある診療所の医師も同様で、専門医にアドバイスを受ける機会がほとんどありません。
そこで、この遠隔診療システムを通じて、「今のところは様子を見ていてもいいですよ」「専門医に受診させてください」といった判断をわれわれ専門医がすることができれば、へき地の診療所の医師たちはずいぶん安心すると思います。
これまで、遠方の病院に行かなければならなかった患者さんは移動がなくなりますので、心理的にも肉体的にも負担が減らせるのではないかと思います。
◎結核治療に注力
当院は県内唯一の結核入院患者受け入れ施設であるため、2年前に、近畿初の「拠点型結核相談支援センター」を設置し、結核に関する電話相談窓口を開設しました。月曜日から金曜日の、毎日午後1時から4時まで患者さんや家族、そして保健師や医師からの相談を受け付けています。徐々に相談は増えています。
また、結核に対する直接服薬確認療法(DOTS・ドッツ)の県全体での会議も毎月1回当院で開かれています。
DOTSは、結核患者が、抗結核薬をきちんと服薬をしたか、地域の保健師が患者さんに電話や訪問をして直接確認するという方法です。
結核の治療で大切なのは、途中で薬を止めずに根治すること。海外では、このDOTSが高い効果を挙げました。
アメリカや中国など世界各国で推奨されており、日本でも2004年に取り入れられました。日本では保健師などが患者本人に電話をして確認、情報を管理する方法が実施されています。
県内の担当者が当院で毎月情報共有などの会議を実施。県全体で今後も力を入れていかなければならない分野だと考えています。
◎災害支援病院機能津波避難ビルに指定も
南海トラフ地震などの巨大地震が発生した場合、当院がある美浜町の沿岸部には、高さ13㍍の津波が到達すると予測されています。
]2016年4月に開設した新病棟は海抜8m。建物は鉄筋コンクリートで4階建てですが、1階部分は高さ5mの柱だけにしました。津波が起こった場合、水は1階部分を通過する仕組みで、建物への被害を最小限にできるはずです。
4階の屋上部分の広さは約3200㎡。約1600人が避難できる広さがあります。当院は災害支援病院であり、美浜町指定の「津波避難ビル」でもあります。
住民の避難場所としての役割を担うことによって地域に貢献したいと考えています。
独立行政法人 国立病院機構 和歌山病院
和歌山県日高郡美浜町和田1138
TEL:0738-22-3256
http://wakayama-hosp.jp/