29の診療科で挑む 集学的小児医療の実践
1970年に日本で2番目の小児専門病院として開設された「兵庫県立こども病院」。ポートアイランドに移転して2年目を迎える来春には、隣接する神戸陽子線センターで小児がんに対する陽子線治療が始まる。
―ポートアイランドに移転して1年が経ちました
1970年に県政100周年を記念して、日本で2番目の小児専門病院として開設されました。1995年に起きた阪神淡路大震災でも倒壊することなく稼働してきましたが、老朽化などにより移転を決断。神戸市は人工島ポートアイランドにおいて「神戸医療産業都市」を掲げ、高度専門病院群の集積(メディカルクラスター)の形成を進めています。当院もその一角であるこの地に2016年5月に移転してきました。
移転を決めた際は、東日本大震災の時に多くの被害者を出した津波の影響を懸念する人も多く、反対意見も少なくありませんでした。
当院では、建築や災害など各専門分野における有識者からの客観的な意見も交えながら、地盤の強化や建物の免震化、災害時の電源確保などを計画。南海トラフ地震で想定される規模の災害でも病院の機能が十分に保持できることを確認し、またエントランスホールや2階の講堂を広く造ることで、災害時に多くの被災者やけが人を収容できる体制を備えています。
―病院の特徴を教えて下さい。
院内は「そら」「うみ」「みどり」と三つのテーマでフロアがデザインされています。
1階のエントランスホールでみなさんを出迎えるのは、当院のマスコット「げんきカエル」。「元気になって退院できますように」という願いを込めて公募により職員が名付けました。このげんきカエルは、以前病院が建っていた須磨区高倉台で、周産期医療センターを建設する際に出てきた御影石のかたまりを彫刻して作られています。
病床数は290床でそのうち現在稼働しているのは269床。十分な人員の確保と健全な経営の継続で近年中のフルオープンを目指しています。
当院に勤務する医師は157人で看護師は520人。
「総合周産期母子医療センター」「小児がん医療センター」「小児心臓センター」に加え、4月に国の指定を受けた日本で12番目となる「小児救命救急センター」が開設。四つの医療センターと29の診療科で構成された周産期・小児医療の総合施設として高度専門医療を提供しています。
新築移転した際、屋上にヘリポートを造りました。中国・四国、それに医療施設が充実している大阪府を除いた近畿地区を医療圏として、重症患者を中心に診療活動を行っています。
以前の病院にはヘリポートがなく、ランデブーポイントまでドクターカーを出していたのが直接病院まで搬送できるようになったこと、さらに患者さんを送り出す二次医療機関においてもヘリポートの設置が進んだことで、ドクターヘリの活用頻度が上がり、新病院が開設して年間飛来回数は49回と従来の5倍以上にも増えました。
―診療における「四つの柱」とは。
「周産期医療」「救急医療」「成育医療」「カテーテル治療および低侵襲治療」。この四つを診療の柱としています。
「救急医療」においては、「小児救命救急センター」を中心にして24時間365日体制で重篤な小児患者を受け入れています。
病因などが不確定な患者は昨年新設された「救急総合診療科」でトリアージを行い、各診療科につなぎます。
現在はエコー検査などで胎児期から先天的な疾患を発見・診断することが可能です。胎児期に異常が見つかった場合は「小児心臓センター」や「総合周産期母子医療センター」などが連携し、出生前から集学的ケアを開始するとともに、「どこで産むのか」「出産後すぐに治療を開始するのか」といったことを家族と相談しながら決めていきます。
先天性疾患や障害がある患者の「身体の成育」、発達障害などを持ち戸惑う患者や家族の「心の生育」、その両方をケアすることは当院の重要な役割の一つです。
当院では地域の中核医療機関と連携し、患者さんが在宅に戻った後は地域の連携する医療機関が、高度な医療を要する場合は当院が支えるように役割を分担。患者さんとその家族をシームレスに支援しています。
また、重度な障害を持つ患者の在宅療養支援の一つとして、家族の要望があれば患者を短期入院で受け入れて医療的ケアをする「在宅療養移行支援病床」を17床確保しています。
このほかにも、医療に限らず保健、福祉、教育といったさまざまな領域で患者とその家族を集学的に支援していくためにわれわれが核となり、連携を図っていくことも当院の大事な使命だと考えています。
―神戸陽子線センターが12月に稼働しました。
小児がんに対する陽子線治療は、2016年4月から保険適用が認められました。
12月には日本初の小児がんに重点を置いた粒子線治療を行う医療機関として、当院に隣接する「神戸陽子線センター」が治療を開始。しばらくは成人を対象とした先行治療を行い、2018年3月以降に小児を対象にした治療を開始します。
神戸陽子線センターで陽子線治療を受ける方は、原則当院の「小児がん医療センター」の病棟に入院します。陽子線以外の治療は当院が担当する2施設共同の治療管理体制となります。
医療スタッフにおいても麻酔科医や放射線科医は2施設を兼務しています。ハードの面では二つの異なる施設ですが、密接に協力して診療しています。
神戸陽子線センターが稼働する前から家族支援・地域医療連携部には問い合わせが多く来ており、みなさんの関心の高さがうかがえます。
―今後の展開について。
年齢を問わず先天性の疾患の方とそうでない方では、急性疾患を発症した場合の身体的リスクは大きく異なります。
そこで地域の医療機関と連携するだけでなく、患者に関する情報の共有や治療の標準化を目的として、地域の医療機関の医師を招いた「こども病院症例検討会」を2週間に1度開いています。そこでは紹介患者や逆紹介する患者の症例を中心にオープンカンファレンスのような形で意見を交換しています。みなさんから出る多彩な意見が今後の診療に役立てられることを願い、毎回診療科別のテーマを設定して企画しています。
今後は広報活動に一層力を入れて、より多くの方に参加してもらいたいと考えています。
ドクターヘリによる長距離搬送において、搬送先を決める場合は診療の特長の他、搬送先の病院との連携の度合いも大きく影響してきます。私も学会や会合などを通じて日ごろから多くの医療機関と顔の見える関係作りに務めています。
院内外、職種に関係なく各職種がお互いの役割を理解し、協力する、まさに「連携と協働」で患者さんとその家族に、安心して満足してもらえる医療を今後も提供していきます。
兵庫県立こども病院
神戸市中央区港島南町1-6-7
TEL:078-945-7300(代表)
http://www.hyogo-kodomo-hosp. com/