大阪市立大学大学院 医学研究科 神経精神医学 井上 幸紀 教授

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広がる領域にこぎ出し柔軟な発想で人を診る

【いのうえ・こうき】 1987 大阪市立大学医学部卒業 1992 同大学院神経精神医学修了 1993 同医学部助手 1998 同講師 2000 米スクリプス研究所留学 2001 同客員准教授 2003 大阪市立大学医学部助教授 2012 同大学院医学研究科神経精神医学教授

 前身である大阪市立医専に開講して70余年。臨床を中心に脳病理、生物学的研究などさまざまな研究活動を行ってきた教室は、しがらみのない自由な気風を伝統に持つ。6代目教授が考える神経精神医学の真髄とは。

―教室の概要や特長は。

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 幅広い分野の専門家が集まり、連携して臨床や研究に当たっています。児童思春期精神医学から、若い女性に多い摂食障害、働く人を対象とした産業精神医学、認知症を含む老年精神医学まで、対応する年齢層は幅広く、領域もさまざまです。

 私が入局したのは30年ほど前。以降長らく師事したのが、後に5代目教授となる切池信夫先生です。当時、先生が始められたのが、摂食障害の研究でした。そこで私も、なぜダイエットだけでやせたり吐いたり病気になったりするのか―という素朴な疑問から生物学的研究をスタートしたという経緯があります。

 摂食障害の研究が進んだことで、さらに若年層を対象にした児童思春期精神医学が盛んになったり、こだわりの強さといった関連から不安症や強迫症、インターネットやスマートフォンへの依存を専門にする医師が出てきたりと、多様な分野で専門家が生まれてきた流れがあります。

―その経緯から、摂食障害は強みの一つでしょうか。

 専門外来があるところは関西圏でも数少ないですし、国内でも誇れる治療水準にあると思っています。

 いわゆる「バイオ・サイコ・ソーシャル」モデルは、症状は生物学的、心理学的、社会的な要因が複合的に作用し合ってもたらされるとの考えです。摂食障害についても、ダイエットで病気になる人とならない人がいる。遺伝や生物学的な面だけではなく、意思の強さや、やせていることが美しいといった価値観、文化など社会的な問題も関わっています。

 一つの病気、一人の患者さんに対して、薬物療法、心理療法、家族への働きかけなど多面的に関わっていくことが重要です。それは摂食障害だけでなく、児童思春期精神医学、産業精神医学、老年精神医学にも共通した考え方。そこを共有、補完しているのが私たちの強みだと思っています。

―児童思春期精神医学も実績を誇ります。

 自閉スペクトラム症などの精神発達上の特徴や、児童・思春期の心理特性を踏まえた診断と治療をしています。

 大人の診療と違うのは、より時間がかかるという点。子ども自身があまり話さないので本人から情報を取るのにも、その裏付けに家族の意見を聞くのにも時間がかかる。場合によっては学校の先生に話を聞くこともあり、大人の何倍も時間が必要です。

 専門医で手分けして診ていますが、患者さんが増えたからと診察時間を短縮するわけにはいきません。しっかり話を聞いて、ある程度アセスメントが終わってから、必要であればお子さんたちが無理のない範囲で通える児童精神医学の開業医へとつないでいます。

―ご自身の専門である産業精神医学に関しては。

 この医局では全員が摂食障害を診ることができます。そこで20年ほど前、それ以外の研究対象として選んだのが産業精神医学、いわゆる職場のうつです。

 出世しないといけない、仕事を断われないなど、「〇〇せねば」と頑張りすぎてうつになる人を見てきました。燃え尽きやワーカホリックと呼ばれる仕事依存は、摂食障害との類似点が多く、アプローチが似ていると思ったことが原点です。

 大阪市立大学附属病院は市内唯一の大学病院です。労働者も多い上、企業とのネットワークもあったので、職場のメンタルヘルスに関しては必然的にあちこちから声がかかるようになりました。

 現在は、教室員が企業に赴いて、精神科を領域とする非常勤産業医として勤務しています。対応に関しては、本人はもちろん、上司や同僚にも話を聞いて、丁寧に理解する努力をしています。

 企業の中核となる方々に向けて講演も行いますし、心の問題を学びたいという他科の産業医を対象に勉強会も開いています。また、他大学との共同研究を通し、全国各地にネットワークを作っています。

 外来でも「産業精神医学」を掲げています。クリニックからの紹介も多いですし、症状が改善したら働きながら通いやすい開業医へ引き継ぎます。連携には顔が見える関係が大事なので、勉強会や講演会を通して極力、私自身を知ってもらうように心がけています。どこの先生が産業医学に興味があるのか把握しておくことも肝心です。

 大学だけでなく、企業、地域のクリニックがネットワークとして連携し、働く人のメンタルヘルスをサポートする体制ができているのではないでしょうか。

 産業精神医学は比較的新しい分野ですが、職場のうつがクローズアップされるに従い、"心の健康"を守るためのストレスチェック制度や働き方改革などの政策が打ち出されてきています。国主導で、今後も重要性は増してくるでしょう。

―今後の目標や課題は。

 大阪ではカジノを含めた統合型リゾート「IR(インテグレーテッドリゾート)」計画でギャンブル依存が懸念されていますし、近年はネット依存も増えています。ワーカホリックは労働依存ですし、摂食障害も食に対する依存行動です。

 このようなプロセス依存が増加する中、ITの進化でさらにさまざまな心の病が出てくる可能性があります。環境と共存しながら、いかに病気にならずにうまく付き合っていくか。そのための情報発信や、啓発活動にも取り組んでいきたいと思っています。

 一方で、精神科医療を取り巻く環境の改善は一つの課題だと思っています。精神科の診療は時間がかかるので、おのずと多数の患者さんが診られない、医者の数が足りないということも起こる。手術もないし、診察に1時間かけても、10分、20分かけても保険点数はあまり変わりません。精神科医がもう少し働きやすい医療環境になってほしいと願っています。

―後輩に伝えたいことは。

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 大学でしっかり教育を受けた後は、自身の世界を切り開いてほしい。医者になったからには、何か一つを掘り下げる経験をしておくことです。すると、あるときブレイクスルーして発見につながる。その手伝いをしたいと思っています。

 うちは父親がウイルス学の教員、母親が産婦人科医でした。その母から「医者は良い。患者を助けられるから。でも教育に携わって良い医者をたくさん育てられたらもっといいし、研究で有意義な発見ができたらより多くの人を助けられる。教育や研究は素晴らしいものだ」と言われて育ってきました。

 私も医者になり、若い頃は研究を熱心にしてきましたが、教授になった今、自分で直接携わるのは難しい。しかし、今の立場なら、後輩を指導する中で「世に役立つ研究を」という話を常々することはできます。理想を自分の手から後輩へ託す時期にきているのかもしれません。

 ありがたいことに「教室が明るくていい雰囲気だね」といろいろな方に言っていただきます。自由闊達(かったつ)な気質が受け継がれているのかなと思います。各自の興味を源泉に多様に発展してきた歴史もそうですし、摂食障害でスタートした私が産業精神医学に携わっているという事実も、一つの証拠かもしれません。

 メンタルヘルスの領域はさらに広がりつつあります。柔軟な発想で診ることで、人々が元気に暮らすお手伝いができるという意味では、とてもやりがいのある仕事です。若い人には、興味を持って、精神医学の扉をたたいてほしいですね。

大阪市立大学大学院 医学研究科 神経精神医学
大阪市阿倍野区旭町1-4-3
TEL:06-6645-2121(代表)
http://www.med.osaka-cu.ac.jp/ neuropsy/


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