山口大学大学院医学系研究科 高次脳機能病態学講座 中川 伸 教授

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進歩する精神科領域の臨床、研究

【なかがわ・しん】 北海道札幌南高校卒業 1990 金沢大学医学部卒業1998 北海道大学大学院修了 1999 米エール大学留学 2015 北海道大学病院准教授 2017 山口大学大学院医学系研究科高次脳機能病態学講座

 2017年10月に高次脳機能病態学講座教授4代目として着任した中川伸教授。自身の研究や、山口県の精神科医療に対する抱負などについて聞いた。

◎幅広い疾患、世代の患者を受け入れる

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 地方の大学としてプライオリティーが高いのは臨床面です。当講座の特徴としては、うつ病、双極性障害(躁うつ病)、統合失調症、摂食障害、パニック障害、発達障害、認知症など幅広い疾患を対象としている点が挙げられます。また、年齢も10代から80代まで、幅広い世代の方が受診しています。

 2016年度の総入院患者数は206人。疾患別患者数の多い順は、神経症性障害、統合失調症、気分障害です。

 当院は、山口県内の総合病院としては唯一、精神科病棟を持っています。精神疾患が重篤で、さらに身体的合併症などによって手術が必要になり、一般病棟での治療が難しいケースでは、当院の精神科病棟に転院し、身体的治療を受けることができます。

 また、当院には高度救命救急センターが併設されており、自殺を企図した患者さんも多く搬送されてきます。このような患者さんに対しては、同センターの医師と連携し、当講座の医師が介入することによって、精神的治療を早いタイミングで開始できます。

 また、院内の身体科に入院中のがん患者さんなどの心の問題に、緩和ケアチームとして関わっています。

◎精神科領域を画像診断などで可視化

 精神科というと精神症状を見て、精神療法を行うだけと思われている方も多いのではないでしょうか。

 しかし、最近は精神疾患を、生物学的に研究していく方法が進んできています。これは「脳科学」「神経科学」の分野の研究が急速に発展しているためです。また、医学以外でも工学系、理学系のような他分野の研究者も精神疾患に興味を持ち、多様な視点でアプローチをし始めています。

 脳を研究する、といってもそれを取り出すわけにはいきません。そのため、近年はさまざまな画像解析方法が開発され、急速に発展しています。このことが、われわれの診断にも少なからず影響しています。

 当講座では「MRI」や「近赤外スペクトロスコピー(NIRS・光トポグラフィー装置)」などを用いて、精神疾患の脳の機能異常を可視化するための研究に力を入れています。これによって、より正確な精神状態の把握が可能になると考えています。

 「MRI」では、脳の形態や構造を調べています。臨床応用はまだできていないものの、疾患によっては脳の特徴的な形態があることが明らかになってきています。

 「NIRS」は、近赤外線を用いて、非侵襲的に脳血流をマッピングすることで、脳機能を簡便に見ることができます。

 2014年にはうつ病と双極性障害の鑑別診断の際の脳の画像検査として、光トポグラフィー装置の検査が保険収載されました。このような客観的評価は、その後の治療にも大変有効だと思われます。

 現在は、医師が患者の表情、口調、体の動き、訴えなどを聞いたり、見たりすることによって精神症状を見立てる「症候学」的な判断で「うつ病」などと診断されています。

 しかし、脳の機能を可視化することで、より明確なデータに基づいた診断や症状評価をしていくことをわれわれは目指しています。

 画像による客観的な判断が明確になれば、診断において医師のスキルに依存する割合が減少します。これによって、診断が均てん化し、治療も精度が高まり、深まっていくと思います。

 また、患者さん自身も、自分の疾患の状態を画像で見ることができ、治療へのモチベーションにもつながるでしょう。

 現在、血液などによってうつ病を診断するバイオマーカーも各国で研究が進んでいます。脳の機能がどこまで血液に反映されるかは、非常に難しい課題です。

 しかし、これらも解析技術の発展などによって、従来は考えられなかったような発見が次々に出てくると期待されています。これまでは「ブラックボックス」だった精神疾患が生物学的に解明されていくことがますます期待されます。

 国内には100万人を超えると言われるうつ病患者がいます。その経済損失は数十億円になると言われており、決して小さくはありません。

 画像や血液などによるバイオマーカーを活用した客観的な診断、症状評価が確立すれば、治療の新たな道筋も期待できると思います。

◎臨床に生かす世界的な研究を

 1989年に北海道大学精神医学教室に入局、山下格教授に指導いただきました。臨床、研究、教育のバランスをとることが重視され、特定の学派に偏ることのないような運営方針が取られていました。

 その後、関連病院で臨床に携わり、大学院では神経支配と遺伝子発現制御についての研究をし、学位を取得しました。

 留学先のエール大学では精神医学講座のロナルド・S・デュマン准教授のもとで、成体の脳の海馬について調べました。

 そして、海馬で神経細胞が新しく生まれ変わることが、抗うつ効果に深く関わっていることについて研究。論文で発表しました。

 帰国後は基礎研究に加えて画像研究、遺伝子研究といった臨床研究にも幅広く取り組んできました。対象としては気分障害、認知症に関わっていました。

 当講座でも、臨床に生かせる、世界に通じる研究への取り組みを進めたいと考えています。

 精神疾患の治療は薬物療法が主体となっていますが、今後はこれを補完していく、非薬物療法の重要性が増してきます。

 作業療法士による精神科リハビリテーション、認知行動療法を含む精神療法、アロマセラピー、運動療法など、これらを実践しながら、その効果を見ていく臨床研究も行っていきたいと思います。通常の治療ではなかなか改善しない難治性の精神疾患の患者さんの治療は大学病院の責務です。これらの治療、研究にも力を入れていきたいと考えています。

◎山口県の精神科医療の課題を見据えて

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 山口県には八つの医療圏があります。民間の精神科病院が29施設と大変多く、一方、地域の核となるような入院施設を持った公的病院は宇部市にしかありません。

 私は、これまで北海道大学病院に勤務していました。山口県は北海道に比べると面積はかなり小さいのですが、公共交通機関が少ないため、車に頼らざるを得ず、心理的にはより広く感じます。

 大学病院から県の東端まで高速道を使って2時間以上、西端までは1時間かかります。県内であっても、患者さんが大学病院を受診するのに大変な場合が多いのです。そのような環境で、大学病院と地域の民間病院がどのような役割分担や連携をして、地域でそれぞれの役割を果たしていけるのか、改めて考えてみたいと思います。

 さらに大きな課題は県全体の新たな医師の確保です。本県の両隣には、広島市や福岡市といった大都市があり、若い医師やその家族には生活もしやすく人気があります。

 これに対して、本県の医療の特徴や特性を打ち出し、かつ魅力を持たせるような工夫が今後はますます必要なのかもしれません。

 就任し、医局員は大変真面目で優しく、真摯(しんし)に医療に向き合っているという印象を持ちました。臨床や研究を確実に実行するためには真面目さは大事な要素です。

 着任後にまず彼らに伝えたのは、「時間を大切にしてほしい」ということ。そして人と接するときには「相手をリスペクトする」こと。基本的なことを大切にできなければ大きな課題に取り組むことはなかなか難しい。

 また、新しい研究に取り組むには、時には弾けるような発想やパワーも必要だと思います。これから彼らのそういう面がたくさん見えてくることを期待しています。

山口大学大学院 医学系研究科 高次脳機能病態学講座
山口県宇部市南小串1-1-1
TEL:0836-22-2111(代表)
http://ds.cc.yamaguchi-u.ac.jp/~mental/


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