マッチ率は全国上位
和歌山医大の魅力に迫る
初期臨床研修制度のマッチ者数は、都市部が上位を占める中、地方大学としてここ数年トップ10入りを果たしている和歌山県立医科大学。他大学からの研修希望者が半数を占めるが、いったいどういう点が支持されているのだろうか。
―2017年度「医師臨床マッチング」中間公表では全国第4位でした。
初期研修マッチ率は都市部の大学が上位を占める中で、ここ数年ベスト10に入っています。
和歌山県にはがんセンターやこども病院がなく、がん拠点病院や総合周産期母子医療センター、高度救命救急センターといったほとんどの中核的機能を大学病院が担っています。研修期間中、さまざまな患者さんを診ることができるのも魅力の一つになっているのだと思います。
大学病院と県内外23の市中病院の中から研修先と診療科目を自由に選択することのできるシステム「和歌山研修ネットワーク」も、本学の研修プログラムの特徴です。
「卒後臨床研修センター」には、研修医が一堂に会すことのできる広い研修医室があります。そこで毎朝顔を合わせるので、研修医同士の距離が近くなり、それぞれの病院や診療科についての情報共有もしやすくなっているのも人気の理由でしょう。
―多くの医師を地域の病院に派遣しているそうですね。
全国80カ所の国公・私立の大学における医師派遣の平均人数が200人なのに対し、和歌山医科大学ではその倍の400人を派遣しています。
しかし、医師派遣要請に100%応えられるとは限りません。その要因の一つに、卒後、大学病院以外の医療機関で研修する医師や、どこにも属さないフリーランスの医師が増え、医局の力が以前よりも弱っていることがあります。
さらに根本的な原因は、日本が諸外国に比べて病院数・病床数が共に過剰な点にあると私は考えています。
日本の2倍以上の人口がいるアメリカの病院数が約5000であるのに対し、日本は約8500。病床数は中国に次いで第2位です。病院数が過剰にあることで医師が偏在し、医師不足が起きているのです。
いくつか病院を集約し、統合すれば、派遣先が少なくなることで医師を派遣しやすくなります。また、1病院当たりの医師数が増えることで当直や救急受け入れ時の医師の負担が減ります。
さらに症例数が集まるので病院としての医療のレベルも上がり、定期的に更新を要する医療機器も十分に原価償却でき、次の新しい機器を購入できるといったメリットもあるのです。
医療機関同士が歩み寄り、この問題に向き合うべき時代がすでに来ているのです。
―教員と学生の距離の近さを大事にしていると聞きました。
1945年の大学開設当時は、まだ保健看護学部はなく医学部だけ。定員が40人で、その9年後に60人に増えました。私が入学した1972年ごろは、教員の家にみんなでしょっちゅう泊まりに行くようなアットホームな雰囲気がありました。
医療従事者不足解消の要請を受け、2004年に、看護師や保健師を養成する保健看護学部を併設。2009年に医学部の定員も100人に増員し、大学院も含めて現在1000人以上の学生が在籍しています。
大学としての規模は大きくなりましたが、これまでの慣習は継続しています。
例えば前学長が始めた「ランチミーティング」。臨床実習期間に医学部の5年生を数人ずつ学長室に呼び、一緒に食事をします。時間は1時間程度ですが、学生生活の話からプライベートなことまでいろいろな話を聞くことができ、われわれにとっても貴重な時間です。
今年の西日本医科学生総合体育大会で、本学の硬式テニス部は男子が優勝、女子は4位という好成績を残しました。私はその硬式テニス部で部長を務めています。新入生歓迎コンパや追い出しコンパなどにも参加し、学生たちと触れ合う時間を積極的に持つようにしています。
教員との距離が近いと、勉強で分からない点や悩みを学生は相談しやすくなり、居心地の良さにつながります。教員と学生の距離が近くなる環境作りをいつも意識しています。
―教育方針とカリキュラムを教えてください。
医療の現場で頻繁に問題になる「説明不足」。手術の危険性や合併症を患者さんに説明しているつもりでも、その意図が完全に伝わらないと「説明不足だ」と言われかねません。
医師に限らず、プロフェッショナルの能力は1日にして成るものではありません。会話の中でも相手が本当に理解しているのかを日頃から意識するなど、コミュニケーション能力を学生のうちから培うように指導しています。
カリキュラムでは、1年次から早期体験実習を導入し、和歌山県下の医療施設で、医療や地域の実情を体験できる取り組みを行っています。
5年次には海南消防署(海南市)で通信業務や出動実態を見学する「消防実習」を実施しています。普段は救急隊を迎える立場ですが、実際に救急の要請を受ける消防署で救急隊を待つ声、一刻も早く患者のもとに向かおうとする消防隊の姿を見ることで、患者にとって最後の砦(とりで)である大学の機能を、今一度学生に考えてもらいたいですね。
―華岡青洲と和歌山県立医科大学について。
華岡青洲(1760〜1835)は紀州平山(現:和歌山県紀の川市)出身の外科医で、1804年に世界で初めての全身麻酔下での手術(乳がん)を成功したことで知られています。
青洲の理念は「内外合一、活物窮理(かつぶつきゅうり)」。つまり「外科を行うには、内科すなわち患者さんの全身状態を詳しく診察して十分に把握した上で治療すべきであり、人を治療するのであれば人体について基本理論を熟知した上で、深く観察して患者自身やその病を究めなければならない」というものでした。
専門性が高まり、自らの専門分野以外に対応できない。また病気を診て患者を診ない医師が問題視されている現代においても、医師として青洲のこの医療理念を持ち続けてほしいとの願いを込めて、青洲が全身麻酔薬として用いた「曼陀羅華(まんだらげ)」が校章のモチーフになっています。
高度先進医療から在宅医療まで、医療の全体像を学生が体験・考察することで、地域医療に対するネガティブなイメージを払拭し、地域医療の再生を目指す、実践的「地域医療マインド」育成プログラムを行っています。
老人保健施設やさまざまな医療機関での実習の他に、青洲が住居兼診療所として建てた「春林軒」がある「青洲の里」(紀の川市)の見学に行きます。青洲の医療理念に触れることで、自分自身が目指す医師像を明確にするきっかけになってくれたら良いですね。
―大学の将来構想について教えてください。
2021年の薬学部設置に向けて準備を進めています。
これまで化学や薬の構造が中心だった薬学部教育は、今後、高齢者の増加や看取り・在宅診療の際に、患者さんを診ることができる薬剤師を増やす教育にシフトしていくでしょう。
私たちも和歌山県の中核病院として、地域のニーズに応えることのできる人材の育成に努めていきます。
薬学部の校舎は県の要請を受け、和歌山市中心市街地への建設を予定しています。併せて、こちらの紀三井寺キャンパスにも薬学部と医学部、保健看護学部が合同で使用することのできる共同研究施設を建設します。
―学生に求めているものとは。
中学校や高校で成績が上位の子どもに対して、親や学校、予備校の先生は医学部への進学を勧めてしまいがちです。医学部に入学したことが、本人にとってめでたいことだとは限らない。だから私は、入学式での学長あいさつの時に「おめでとう」という言葉は使わず、「ようこそ」と言うことに決めています。入学はあくまでスタート。「おめでとう」は卒業式まで取っておきます。
当然、入学したけれど自分は医師に向いていないと思う学生も出てきます。そういう場合には進路を変えることも、大事だと思うのです。
一般的に、ドクターは先生と呼ばれます。医師や教師に使われる「師」は人に教えるという意味。一方、弁護士や代議士の「士」は、戦うサムライを意味します。
医師には、病気と闘うという意味での「士」と、患者さんに病気との闘い方を教える「師」の両方が必要。その二つを兼ね備えて、先生と呼ばれるに足る医療人を目指してほしいですね。
公立大学法人和歌山県立医科大学
和歌山市紀三井寺811番地1
TEL:073-447-2300(代表)
http://www.wakayama-med.ac.jp/