がん治療の可能性を広げたい
手術、抗がん剤、放射線に次いで、がんに対する4番目の治療法として注目される「免疫細胞療法」。20年以上に渡って取り組んできた高橋司理事長・院長に現状について話を聞いた。
◎健康を支える「免疫細胞」
人間の体が、自身の体を防御するためのシステムを「免疫」と言います。
このシステムは、体内にあるさまざまな細胞のうち、いわゆる「免疫細胞」が司っています。
通常は、がん細胞が発生しても、体内にはがん細胞を攻撃する免疫細胞がありますので、がんになることはありません。
しかし、さまざまな理由によって、がん細胞と免疫細胞のバランスが崩れると、がん細胞が増殖してがんになってしまいます。
そこで、免疫細胞を人工的に増やし、免疫力を強化することでがん細胞を押さえ込むのが「免疫細胞療法」です。
治療では患者さんの血液から免疫細胞を採取。この細胞を培養し、数を増やしたり、働きを強化したりして、それを再び体に戻します。
患者さん自身の細胞を活用しているので副作用はほとんどないのが特徴です。また、白血病、T細胞型の悪性リンパ腫など、一部の血液がんを除いた、ほぼ全てのがんに対して適応が可能です。
◎2療法を使い分け
免疫細胞療法といっても、その方法はさまざまです。
当クリニックが実施している免疫細胞療法には、大きく分けて「活性化自己リンパ球療法」と「樹状細胞ワクチン療法」の二つの方法があります。
当クリニックでは、これまで約20年間で約1千例の免疫細胞治療を実施。その割合は、活性化自己リンパ球療法が75%から80%。樹状細胞ワクチン療法が15%から20%です。
「活性化自己リンパ球療法」は、患者さんの血液から取り出した白血球の中にある「T細胞」と呼ばれるリンパ球を使用します。
T細胞は、がん細胞を攻撃する免疫細胞の機能の中心的役割を担っています。取り出したT細胞の数を増やし、その力を高めて、体に投与し、がん細胞を攻撃します。
一方、「樹状細胞ワクチン療法」は、白血球の一種で、免疫細胞の司令塔の役割を担う「樹状細胞」を使用します。
樹状細胞は、がん細胞のタンパク質を取り込み、分解して、患者さんのがんの情報(抗原)として記憶します。
こうして、がんの情報を記憶した樹状細胞を再び体内に戻します。
すると、樹状細胞はがんの情報をT細胞に伝達します。これによって、T細胞は、より効率的にがん細胞を攻撃してくれるようになるのです。
◎最適な免疫細胞療法を選択するために
免疫細胞には、「攻撃」「攻撃の指示」、あるいは「敵を見つける」といった役割や得意な分野があります。
患者さんのがん細胞の特徴などによって、どの免疫細胞を利用した治療法が最適なのかを見極めなければなりません。
このため当院では、免疫系のバランスを評価する「免疫機能検査」、がん細胞の特徴を調べる「免疫組織化学染色検査」、白血球の型を調べる「HLA検査」など数十項目にわたる検査を実施します。
この結果を踏まえた上で、患者さん一人ひとりに合った治療法を選択しています。
◎免疫細胞療法と出会う
私が免疫細胞療法と出合ったのは東京大学に勤務していた時です。同大でがんと免疫の基礎研究をしていた故・江川滉二東大名誉教授のもとで研究に取り組みました。
江川先生の免疫細胞療法の最初の患者さんは、先生の実のお兄さんでした。前立腺がんのお兄さんを何とか治したいという必死の思いで、免疫細胞療法に取り組まれました。
当時は、まだ免疫細胞療法が確立していなかったこともあり、残念ながら、お兄さんを助けることはできませんでした。
しかし、抗がん剤などと比較すると副作用も少ない免疫細胞療法は、「これから発展する治療法だ」と考えた江川先生は1999年、国内初の免疫細胞治療の専門クリニック「瀬田クリニック」を東京都世田谷区に開設しました。開設にあたっては私も相談を受けたこともありました。
その後、同クリニックは、「瀬田クリニックグループ」として東京、横浜、大阪、福岡の4カ所にクリニックを展開。現在は、全国各地に連携医療機関もあります。
当クリニックも、ここ広島県で唯一の連携医療機関として免疫細胞療法に取り組んでいます。これまでに、グループ全体で、約2万例の免疫細胞治療の実績があります。
◎保険収載された治療が正しい診療?
これまで、週刊誌やテレビなどの報道で「免疫細胞療法はまがいものではないか」という批判が見受けられることもありました。
日本では、「保険収載された診療が正しく、それ以外は間違った治療」という見方があるのではないでしょうか。
特にがんの場合、わが国では外科治療に重きが置かれる傾向もあります。
一方、海外の場合、国民皆保険の国はあまりなく、個々人の医療費の負担は小さくありません。
アメリカなどでは、医療者も患者も、治療とその効果に対し、客観性やコスト意識をシビアに持ちながら治療法の選択をしています。
そのためでしょうか。新しい治療にも積極的に取り組んでおり、アメリカでは免疫細胞療法への需要も高まっています。
◎がん治療に貢献する
2000年代に分子標的薬が登場。その後、世界各国の製薬メーカーが分子標的薬の開発に力を入れました。
しかし、その後、免疫チェックポイント阻害薬「ニボルマブ」が登場し、世界の注目を浴びることになりました。
免疫チェックポイント阻害薬は、国内では2014年に悪性黒色腫、2015年には肺がんと保険適用が広がっていることからも、免疫細胞に対するがん治療に注目が集まっています。
また、2013年には、再生医療の実用化を促進する枠組みづくりのため再生医療に関する議員立法も成立しました。これに伴い「再生医療等安全性確保法」が11月に成立。翌2014年には施行されました。
これによって、細胞の培養や加工の企業への外部委託が迅速に進められるようになるなど、免疫細胞療法の実用化が、より後押しされることにつながりました。
2年前に国内54医療機関で肺がんの免疫療法の多施設共同臨床研究がスタートし、当クリニックも参画しています。
免疫細胞治療が本格化することによって今後ますますがん治療の可能性が広がりそうです。
医療法人つかさ会 高橋メディカルクリニック
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