新病院の建設計画がスタート
病院の機能分化による新築移転の計画が進んでいる広島市立安佐市民病院。2022年春のグランドオープンを目指した取り組みや思いを平林直樹病院長に聞いた。
◎二つの病院に機能分化高度急性期病院を新築
安佐市民病院の建物は現在、南館、北館の2棟があります。南館は、当院が開院した1980(昭和55)年に完成。37年あまりが経ち、耐震化が不十分で老朽化が進んでいます。
北館は、1992年に完成しましたので耐震構造になっています。病床数は全体で527床あります。
新病院の建て替えについてはおおよそ10年ほど前から計画案があり、現地建て替え案もあったようですが、計画は流動的でした。
2015年の9月に病院の移転が正式に決定しました。最終的には、現病院を二つの新たな病院として機能を分化させ、高度急性期機能を持つ病院はJR可部線の終点の「あき亀山駅」の隣接地へ新築移転することになりました。
現在の北館には、日常診療の機能を持たせ、新たに地域包括ケア病棟と緩和ケア病棟を開設することになりました。
現地に残す病院について2016年度末に運営主体が安佐医師会に決まり、2017年度から、北館の役割や機能についての検討作業が始まっています。
今のところ、病院機能以外には「地域包括ケアの拠点となる機能施設をつくってはどうか」「安佐医師会可部夜間急病センターや安佐准看護学院を移転しては」といったさまざまなアイデアが出ています。
◎新病院の建設計画スケジュール
新築移転する新病院には、高度急性期病院としての機能を持たせることになります。
527床のうち450床が移動。残りの77床が、現在の北館に残ります。77床の具体的な病床の機能は、現在検討中です。
新病院の建物は5階建てです。現在、年内を目途に基本設計をとりまとめており、新病院のさまざまなアイデアや運用方法を具体的なイメージを持って考えています。
計画では、2018年に土地などの整備事業を開始。2019年には、着工、2022年春のオープンを目指します。
◎これから担っていく新たな役割
当院には、公的病院として担うべき役割がいくつかあります。
まず、災害拠点病院としての役割。例えば南海トラフ巨大地震の予測では、医療機能が集中している広島市の中心部では震度6強と、大きな打撃を受けると予想されています。
その場合、沿岸部では津波による影響も大きいと考えられています。
比較的影響が少ないと予想される広島市北部にある当院は、大いにその力を発揮しなければなりません。
また、新しい病院でも、へき地医療支援病院としての役割を担います。
広島市の場合、中区など中心部に公的病院が集中しています。このため、われわれは、当院に「北の砦」というキャッチコピーを付けています。
これは、当院より北部に住んでいる患者さんが、広島市中心部まで行かなくても、当院において、治療を完結できるようにしたいという思いを込めています。
2年前からは、県内の中山間部地域の医療施設6施設と、テレビ会議システムを利用したカンファレンスに取り組んでいます。
がん治療の面では地域がん診療連携拠点病院になっていますので、引き続き力を入れていき現在、手術室として稼働しているのは9室。今後、ハイブリッド手術やロボット支援手術にも注力していく予定です。そのために必要な手術室の広さなどを詳細に計画していきます。
◎医療の将来像を予想しながら
新病院を計画する上で、院内でも論議したのが、未来の医療の姿がどうなっていくのかということです。
昨今はAI(人工知能)の活用の拡大など、劇的に社会のあり方が変化しています。
医療の世界も同様で、がん治療に限って見ても内視鏡手術、低侵襲手術の普及、IМRT(強度変調放射線治療)や重粒子線治療などの放射線治療の進化。そして、再生医療の活用など大きく変化しています。
がんは、近い将来、外科的な介入をしなくても治る病気になってくるかもしれません。また、より患者さんに優しい治療法が出てくる可能性もあります。
われわれ医療者が本来望むべきなのは、患者さんが増えることではなく、病気になる人を増やさないことです。
私は、将来的には、医療が、未病の段階で診断し病気を予防するという方向に向かっていくのではないかと思っています。
医療のコンセプトを変えるような新しい考えを打ち出す人が、今後医療の世界にも登場してくると期待しています。
◎第三者の視点で医療の質をチェック
私が今、最も力を入れているのが、医療の質を今以上に高めていくという事です。
がんについては、基準値を元に組織の位置を分析しようという、ベンチマークの手法を用いて診療内容、実績及び生存率等を継続してチェックしています。
また、標準治療の適応が難しい症例を対象としたキャンサーボードに3年ほど前から外部アドバイザーを導入。慶応義塾大学医学部腫瘍センターの浜本康夫先生にテレビ会議システムを活用して参加していただいています。
治療について、院内のスタッフだけでは、どうしても考え方が偏りがちですので、外部からチェックしてもらうことには大きな意味があると考えていますし、私自身も大変勉強になっています。
また、外部からの意見をもらうことで、役職などに関係なく意見を言って良いという雰囲気も醸成されてきました。
救急医療についても医療の質を追求すべきだと考えています。救急現場のように、時間が限られている中で、重要な判断を迫られ施行した治療について、それがベストの方法だったのかどうかを検証するのはなかなか難しいのが現実です。
しかし日本でトップクラスの医療チームが行った治療成績と比較しながら、その差を埋めていく作業は必要だと思っています。
指標として示された救命率や合併症割合の平均よりも良いからと言ってそれで満足して良いのか、改善する余地はないのだろうか。今後も、客観的に検証する必要があると思います。
医療の質を高める努力を、毎日手を抜かずに実施していく。これが新しい病院に向けたわれわれの大きな使命だと考えています。
- 【メモ】ベンチマーク分析
- 病院経営に関わる指標を類似の病院群と客観的に比較し、強み弱みを把握する分析法。医療の質、コストなどの項目で指標を出し、比較検討する。
地方独立行政法人広島市立病院機構 広島市立安佐市民病院
広島市安佐北区可部南2-1-1
TEL:082-815-5211(代表)
http://www.asa-hosp.city.hiroshima.jp/