予防と治療で挑むアレルギー疾患
◎ワクチンで同時に防ぐ感染症とⅠ型アレルギー
私たちの研究テーマは「粘膜免疫」。アレルギー性炎症に対する機序を明らかにして、新しい治療法を見いだす研究に取り組んできました。
鼻から喉頭までの上気道の感染症は、肺炎球菌やインフルエンザ菌が主な病原菌です。そこで、肺炎球菌やインフルエンザ菌など、すべての細菌の外膜構成成分「ホスホリルコリン」を動物の経鼻または舌下に粘膜ワクチンとして投与。すると、いずれの方法でも、鼻洗浄液、唾液中の特異的IgA抗体と血清中のIgG抗体が上昇し、粘膜免疫応答が見られました。
その後、鼻腔内に肺炎球菌、インフルエンザ菌の生菌を注入したところ、鼻腔からの除去の亢進(こうしん)を確認。予防への有効性が示唆されたのです。
さらに、このホスホリルコリンの経鼻、舌下投与によって、アレルギー反応に関わるIgE抗体の上昇が抑えられ、好酸球浸潤も抑制。アレルギー性鼻炎や花粉症などのⅠ型アレルギー疾患の発症が起こりにくくなることも実証できました。
現在のワクチンの多くは皮下注射などによって全身免疫応答を誘導します。体内に侵入する細菌の「第一のゲート」となる粘膜免疫応答は誘導されません。
私たちは、粘膜免疫応答とともに全身免疫応答も誘導する粘膜ワクチンを開発し、ワクチン療法で、感染症とアレルギー性炎症を同時に予防したいと考えています。
◎難治、手術適応のアレルギー疾患に対応
花粉症を含むアレルギー性鼻炎に関するアンケート調査などでは、患者数が増加傾向にあると出ています。しかし最近の疫学調査はなく、実際に増えていると言える正確な根拠はありません。
花粉症、アレルギー性鼻炎の認知度が上がったことで、「自分にはアレルギー疾患がある」と思っている人が多いというだけのことかもしれない。事実、アレルギー性鼻炎で診療所を訪れる人はそれほど多くなく、症状がある人の3分の1から2分の1は市販薬で対処しているというデータもあります。
実は、これが一番の問題です。例えば「花粉症ではない人が花粉症の薬を飲む」というようなことが蔓延している可能性があるのです。
アレルギー性鼻炎はコモンディジーズ(よくある疾患)です。医療制度改革によって、大学病院のような特定機能病院で診ることは、ほぼなくなりました。私たちは耳鼻咽喉科・頭頸部外科として、難治性の慢性副鼻腔炎の一つ「好酸球性副鼻腔炎」や、副鼻腔炎を合併しているアレルギー性鼻炎などの手術・治療に関わっています。
好酸球性副鼻腔炎は1990年代以降、増加傾向。2015年7月には指定難病になりました。成人に発症する疾患で、鼻の内側に「鼻茸(はなたけ)」と呼ばれるポリープが多発。嗅覚に障害をきたします。
鼻茸は再発しやすいため、内視鏡を用いた手術で除去し、その後は内服ステロイド剤でコントロール。喘息を伴う患者さんも多いため、内科と連携し、診療に当たっています。
患者数増の原因として、アレルギー体質の人が増えたことや生活環境の変化などが挙げられていますが、まだはっきりとはわかっていません。
一方、細菌感染が原因で起こる慢性副鼻腔炎「蓄膿(ちくのう)症」は診ることが少なくなりました。衛生環境が改善されたことで患者数が減少。さらに薬で治療できるようになり、大学病院での手術を必要とする患者さんは著しく減っています。
◎ニーズに地域差舌下免疫療法
大学病院の中には、スギなどの舌下免疫療法を受ける患者さんの最初の治療を担当し、安全性を確認した後、診療所へと返す取り組みをしているところもあります。
ただ、ここ鹿児島大学病院は市街地から離れているため、そういった患者さんの来院は少ない。県内の診療所の先生たちと「舌下免疫療法研究会」を不定期に開き、情報や意見の交換をするなどしています。
舌下免疫療法の需要は地域によって異なると思いますね。スギ花粉の飛散量が多い地域では、重症の患者さんが増える。子どもや働き盛りの世代が多いエリアでは、学業や仕事への支障や通院の負担を考えて舌下免疫療法を希望する人も多いでしょう。
一方、鹿児島はもともとスギ花粉の飛散量が多くなく、重症の花粉症の方が少ない。県内では舌下免疫療法のニーズは、現時点ではそれほど高くないと感じています。
薬で症状をコントロールできて、それで満足だという患者さんには薬での治療。舌下免疫療法が必要な方には舌下免疫療法。一概に舌下免疫療法を推し進めるのではなく、それぞれの患者さんに合わせて対応すべきだと考えています。
◎「アレルギー専門医」とは何ぞや
来春、新専門医制度が本格スタートします。日本アレルギー学会でも、「アレルギー専門医はどういう存在であるべきなのか」という議論を積み重ねてきました。
耳鼻科医であっても、アレルギー専門医でなければアレルギー性鼻炎の診断治療ができないのか。答えは「ノー」です。眼科のアレルギー性結膜炎、皮膚科のアトピー性皮膚炎も同様でしょう。
では、専門医の役割とは何か。自分の基本領域のアレルギー疾患をきちんと診ることができた上で、他領域のアレルギー疾患についても、ある程度の見識を有している。難治性であったり、他領域のアレルギー疾患を合併していたりする場合に適切な治療を選択できる、それこそが、今、必要とされているアレルギー専門医の能力です。
各県のアレルギー専門医の数だけを取り上げて「足りない」などと言うことは簡単です。しかし、単に数が多ければ濃厚な治療が提供できるとは思いません。
医師も、患者さんも「アレルギー専門医とは何ぞや」を正しく認識しなければ、より良いアレルギー診療体制はできていかないと思います。
鹿児島大学大学院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
鹿児島市桜ケ丘8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ent/