重症型の患者が集まる目のアレルギーの専門家
日本アレルギー認定専門医、指導医の内尾英一・福岡大学眼科学教室主任教授は「目」の症状の改善だけでなく、全身への影響も考えて治療を模索。治療法の開発にも精力的に取り組んでいる。
◎「軽症型」が9割
アレルギー性結膜炎、春季カタル、アトピー性角結膜炎、巨大乳頭結膜炎の四つを総称して「アレルギー性結膜疾患」と呼びます。9割を占めるアレルギー性結膜炎が軽症型。1割が残り三つの重症型です。
「軽症型」のほとんどは、いわゆる花粉症です。春はスギ、夏はイネ科のヨモギやカモガヤ、秋はキク科のブタクサなど。ただ最近は花粉以外の原因も知られてきていて、福岡では黄砂やPM2・5といった大気汚染物質の影響が出ています。
アレルギーは原因物質が目から入って鼻に症状が出ることもあるし、逆もある。アレルギー性結膜炎がある人の7割は、アレルギー性鼻炎もあります。ですから、予防のための眼鏡やマスクは症状が出ている部位に関わらず、両方を着用したほうが良い。耳鼻科で扱うことが多いスギの「舌下免疫療法」は、目に症状が出ている人にも効果があると考えられます。
◎病変盛り上がる重症型
「重症型」の特徴は病変が盛り上がってくる点。「石垣状乳頭」と呼ぶ慢性病変ができ、瞬きをするたびに黒目をこすります。患者は目に痛みを感じ、開けられない状態になる。さらには透明な角膜に白く傷がつき、視力が下がってしまう場合もあります。
「春季カタル」は子どもの病気で、ほとんどの患者が小学校に入るぐらいから思春期前までの男の子。春から初夏にかけて悪化することから、この病名がついています。
声変わりするぐらいの時期になると自然に治りますが、それまでは毎年春に症状が出る。治療が遅れると視力の回復が難しくなることもあり、早期の治療が重要です。
「アトピー性角結膜炎」は成人の疾患。顔にアトピー性皮膚炎の症状がある人に起きやすい疾患です。「巨大乳頭結膜炎」の原因は異物。多くの場合、ソフトコンタクトレンズに付着したタンパク質などの汚れによって発症。使い捨てタイプのソフトコンタクトレンズの普及で、近年は減少傾向にあります。
◎免疫抑制剤点眼薬登場
重症型のアレルギー性結膜疾患に対する、かつての基本治療はステロイドの点眼薬でした。しかし、眼圧が上がる副作用があった。長期点眼で、緑内障のリスクが高まるのです。
今は、10年ほど前に登場した免疫抑制剤の点眼薬が治療方法の中心です。1カ月ほどで、石垣状乳頭が小さくなる。眼圧も上がらず、ステロイド点眼薬による緑内障を起こしやすい小児にも、不安なく使用できます。
懸念されることといえば、顔にアトピー性皮膚炎がある患者さんの場合、免疫が抑制されることで角膜炎などの感染症を起こしやすくなること。ただ、それもまれで、副作用が少ない薬です。
◎悪化を避ける「プロアクティブ療法」
アトピー性皮膚炎の治療法に「プロアクティブ療法」があります。状態が改善してきても軟膏治療を止めず、頻度を減らして継続することで、急激な悪化を回避する方法です。
私たちの教室では、同療法を「春季カタル」に応用。免疫抑制剤の点眼薬を春から夏、秋、冬と次第に減らしながらも継続し、翌春になる前に再び点眼回数を増やす、という治療です。
結果、5年間再発を起こさなかった子どもが約7割。点眼薬の継続で悪化を防いでいるうちに、子どもたちは成長し、13歳〜15歳ほどになれば、症状が出なくなります。薬を減らし、最終的にゼロにしても症状が出なければ治療終了です。
◎ステロイドで局所治療
極度に悪化したアレルギー性結膜疾患を免疫抑制剤で治療すると、症状を抑えるまでに1カ月ほどかかります。そこで、すぐに状態を改善するために使っているのが、液体内に薬の結晶が浮いた懸濁液のステロイド剤「ケナコルト」です。
この液体を、巨大乳頭があるまぶたの上から注射すると、まぶたの裏側にある病変に作用して、翌日には目が開けられるようになる。しかも、薬が結晶なので徐々に放出され、3カ月間という長い期間、じわじわと効果を発揮するのです。
一番のメリットは、ステロイドを使うけれど、眼圧は上がらないということ。免疫抑制剤の点眼薬を併用することで、3カ月後に再発することもありません。初診時や点眼を忘れて極度に悪化してしまった場合など、応急的に使える方法です。
この治療は、私たちの教室が始めました。大人でアトピー性皮膚炎がある人には注射による感染症のリスクがあるので、ステロイドの薬を飲んでもらう治療法を選択。子どもの場合は、ステロイド服用で成長抑制など全身に影響が出る恐れがあるため、局所治療を勧めています。
◎トータルで診る
さまざまな部位に症状が出るアレルギー疾患は「アレルギーセンター」による診療が理想だと思います。しかし実際は、患者さんがあちこちの医療機関に行かなければならないのが現状です。
日本アレルギー学会認定の専門医や指導医の数もあまり多くなく、福岡県内で約110人。この医局でも育成したいと思っていますが、私以外はまだいません。
今後も、アレルギーがある人の割合は増えると考えられます。眼科専門医の資格を取得した上で、他科のアレルギー疾患もわかる視野の広いアレルギー専門医を育成したい。日本アレルギー学会の方針も、その方向にあると思います。
福岡大学医学部眼科学教室
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