国立病院機構 福岡病院 西間 三馨 名誉院長

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すべての地域に適切なアレルギー診療を

【にしま・さんけい】 福岡県立小倉高校卒業 1968 九州大学医学部卒業 同附属病院小児科研修医 1988 国立療養所南福岡病院(現:国立病院機構福岡病院)院長1995 日本小児臨床アレルギー学会理事長 1997 日本小児アレルギー学会理事長 2007 日本アレルギー学会理事長 2009 国立病院機構福岡病院名誉院長2012 福岡女学院看護大学学長 2015 同名誉教授

 2014年、アレルギー疾患対策基本法が成立。今年3月にはアレルギー疾患対策の推進に関する基本的な指針がまとめられ、診療の均てん化や質向上に向けた取り組みが加速している。

 中心となって取り組んできた西間三馨・国立病院機構福岡病院名誉院長の今の思いは。

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―法整備の背景は。

 アレルギー疾患は、乳幼児から高齢者まで国民の2〜3人に1人が有し、発症、増悪、軽快、再燃を不定期に繰り返す。患者の生活の質にも大きな影響を与えています。

 症状の出方によって、喘息(ぜんそく)、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アトピー性皮膚炎、花粉症、食物アレルギーなど疾患名はさまざまで、多くの場合、合併しています。治療薬の進歩で「命を落とす病」ではなくなりましたが、研究者からすると魅力が減り、研究費も減少。入院治療から外来診療への移行で、病院経営的にもアレルギー疾患を診療するメリットが少なくなったとも言え、対策の置き去りが懸念されました。

 さらに、専門医の数は伸び悩み、空白地域もある。地域のアレルギー医療の質の向上を図ると同時に、全国まんべんなく重症患者に対応できる体制を整備する必要があるのではないか―。

 2007年、厚生労働省医道審議会の部会がまとめた標榜診療科の見直し案で「アレルギー科」が一時削除されるなどアレルギー科を取り巻く環境が不安定さを増していたこともあり、翌年、法案作成に着手したのです。

―概要と今後の方向を。

 基本理念は「生活環境の改善」「科学的知見に基づく適切なアレルギー疾患医療の均てん化」「適切な情報入手と生活の質の維持向上のための支援体制整備」「専門的、学際的または総合的な研究の推進と活用・発展」。ガイドラインに基づいた標準医療がどの地域にいても受けられるような環境を整えること、国として研究をバックアップすることなどをうたっています。

 今年4月からは「アレルギー疾患医療提供体制の在り方に関する検討会」が開かれ、具体的な内容や体制が話し合われてきました。

 国立成育医療研究センターと国立病院機構相模原病院が中心拠点病院となり、各都道府県に1〜2カ所、アレルギー疾患医療拠点病院を設置。都道府県拠点病院の選定要件としては、「アレルギー疾患の診療経験が豊富な内科、小児科、皮膚科、眼科、耳鼻咽喉科領域の専門的な知識と技能を有する医師が常勤していること」が求められます。

 今後、「アレルギー専門医が少ないこの県ではどこが拠点病院になるのか」「この県は1カ所で十分なのか」といった議論が活発になるでしょう。選定が遅れる県も出てくる可能性があります。

 アレルギー疾患は、多くの場合、かかりつけ医で診られています。アレルギー専門医とは限りません。かかりつけ医のアレルギーに関する知識・技術向上を図ると同時に、仮にかかりつけ医で治療を重ねても状態が改善されない場合は、拠点病院に紹介する。拠点病院は患者の将来まで予測をして治療の方向づけをし、かかりつけ医に戻す。それが、目指していくべき姿だと考えています。

―専門は小児アレルギーです。

 小児喘息で亡くなる子は、ほぼゼロですが、入院が必要になる乳幼児の喘息患者は2008年以降なかなか減らない。感染を伴うと、全身状態が一気に悪くなり、入院となってしまうのです。

 小児に限らず重症の喘息患者は、吸入薬をうまく吸えていない傾向があります。「薬が効かない」とすぐに増量するのではなく、まず服薬率と薬の使用方法を確認。きちんと吸入できていない場合にはスペーサー(吸入補助具)を使い、同量の薬の処方で効果を上げる工夫が必要です。

 そのためには、一人ひとりの患者にしっかりと吸入指導をする時間が必要です。しかし、小児科のアレルギー専門医は全国に1000人程度。十分な時間を割くのが難しい場合もあります。

 そこで、喘息治療薬の吸入方法やアトピー性皮膚炎の軟膏の塗り方などを専門的に指導する医療職を育成する「小児アレルギーエデュケーター」制度を導入。日本小児臨床アレルギー学会が認定。現在約400人が資格を取得しています。

 2011年には環境省の主導で、子どもの健康と環境に関する全国調査「エコチル」が始まりました。胎児期に登録された子どもたちが13歳に達するまで追跡し、化学物質へのばく露や生活環境が子どもの健康にどのような影響を与えるか調査。リスク管理体制の構築につなげるのが狙いです。良いデータになる可能性があり、注目しています。

―法案作成に着手して10年。この間の原動力は。

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 私が医者になって最初の20年ほどは、悲惨でした。喘息でたくさんの子どもが亡くなり、アレルギー性結膜炎で失明状態になった子、アトピー性皮膚炎がかゆくて皮膚をかきむしり浸出液が出続ける子もいた。持っているあらゆる手段を使っても症状をコントロールできず、患者の子たちにハンディキャップが残ることも多くありました。

 「子どもたちに、さまざまな選択肢がある未来を用意できなかった」。その思いが、エネルギーだったと思います。

 私が主治医をしていて亡くなった喘息の子24人のカルテは院内に保存しています。また、年に1〜2回は、かつて患者だった子たちが訪ねてきてくれます。この子はチアノーゼで担ぎ込まれた子、この子は心臓にアドレナリンを入れた子...。大人になったその「子」たちを見ながら、「今の治療・管理だったらここまで大変な思いをさせずに済んだのに」と、ふと思うこともあります。

 法律はできましたが、これで終わりではありません。みんなでこの法律を生かしてこそ意味がある。思考の中心に患者を置き、どう行動すべきか考える。医師も医療機関も、倫理観と正義感を保ち、意識して実行する段階に入っているということです。

独立行政法人 国立病院機構 福岡病院
福岡市南区屋形原4-39-1
TEL:092-565-5534(代表)
http://www.fukuoka-nh.jp/


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