蓮田太二 慈恵病院理事長・院長 福岡市で講演
「『命を助ける』だけでなく、子どもたち一人ひとりに幸せになってほしいという願いを強く持っている」
親が養育できない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を運営する、医療法人聖粒会慈恵病院(熊本市)の蓮田太二理事長・院長が10月21日、福岡市早良区で開かれた公開シンポジウム「赤ちゃんポスト10年を考える」で講演。預けられた子どもたちの養育環境改善などを訴えた。
出自より命 匿名前提を維持
「妊娠7カ月で相談してきた女性は再三の受診の勧めを拒否。陣痛が起きて救急車を呼ぶよう促しても、『妊娠を家族や他人に知られたら死ぬ』と受け入れなかった。病院側が手配した救急車が到着すると、救急隊からの電話の向こうで『誰が知らせたー!』と大きな叫び声が聞こえた」「預けられた乳児を児童相談所が実母に返した結果、母親は子どもと無理心中してしまった」―。
蓮田理事長・院長は講演で10年間を振り返り、さまざまな事例を紹介。赤ちゃんポストの匿名性は出自を知る権利を奪うとの指摘があるとした上で、「知られたら死にたいというほどの恥の意識を持っている人がいる中では『出自より命』」「預けられた子どもに関して言えば、実の父母のもとで育つのが幸せで安全だとは限らなくなっている」とその必要性を述べた。
特別養子縁組や里親「家庭」と同様の環境で
2014年9月末現在のデータでは「ゆりかご」に預けられた子ども101人のうち最も多い30人( 29.7%)が乳児院などの施設で養育。29人( 28.7%)は特別養子縁組が成立し、19人( 18.8%)が里親のもとへ。18人(17.8%)は、実の母親が引き取った。
原則満2歳まで乳児院、18歳までは児童養護施設で育つ現在の「施設養育」の在り方について、「職員との別れの辛さは、親への怒りにつながり解消が難しい。一貫して育てる体制へと変更すべきだ」とした蓮田理事長・院長。早い段階から家庭と同様の環境で継続的に養育する必要性も語り、特別養子縁組や里親制度の普及に期待。「子どもの利益を最優先に」と願った。
相談件数13倍孤立深める女性たち
2016年度末までに「ゆりかご」に預けられた子どもの数は計130人。年別に見ると2016年度はこれまでで最も少ない5人だった。
しかし、病院が設置する「SOS赤ちゃんとお母さんの相談窓口」での受け付け件数は右肩上がり。2007年度の501件が2016年度には6565件に上った。蓮田理事長・院長は、「性行為の低年齢化」や男性側の無責任さを含む「自己責任の欠如」といった課題を列挙。社会全体にも問題提起した。
同シンポジウムはNPO法人日本医学ジャーナリスト協会西日本支部(福岡市)が主催。講演の後にはパネリスト4人による討論もあった。