患者数の落ち込み、医師やメディカルスタッフを確保する難しさ。さまざまな問題を解決する糸口となるのが「広報」活動だという。
取材で訪れる病院でも「ホームページが充実しない」「広報専任の職員がほしい」...といった声を聞く。
本書は、病院広報業務を担当する山田隆司氏、大塚光宏氏、有田円香氏の3人が実際に取り組んだ事例を元に書いている。
山田氏はまず、広報活動の前に「病院マーケティング」が重要だと訴える。病院マーケティングは「患者をはじめ社会の信頼を獲得するための長期経営戦略」。病院の戦略がなければ広報活動に意味はないのだ。
むやみやたらな広報も効果はない。「自院の強み」「自院の弱みや課題」を客観的に認識すること。自分たちの病院がある「地域」の市場分析も重要だ。
さて、それでは広報活動のポイントは一体何だろうか。
山田氏によると、「一人ひとりの脳に働きかけ、記憶させる仕組みや仕掛けをつくる」こと。
そのためには、思考や理論を司る「左脳」と感情、感覚を司る「右脳」のいずれにも働きかけることが重要だという。
例えば、医師の説明や臨床データで納得してもらい、一方で院内の清潔感やデザイン、そして職員の笑顔が良いと感じてもらう。
「左脳」「右脳」の両方へのアプローチによって、患者さんは好感を持ち、病院名を記憶してくれるのだ。
ニュースリリースの発信の重要性を伝えるのが有田氏。地元記者クラブを活用したところ新聞、ラジオに取り上げられた。記事のサイズとラジオ出演の時間を目安に、有田氏は専門家に広告費としての換算を依頼。その金額は計約150万円。リリースの効果は決して小さくはなかったようだ。
そのほか地域連携を進める手段として、SNSや地域の連携会議の事例などにも触れる。
強く印象に残ったのが「医師を含む職員すべてが広報媒体」(山田氏)という一文だ。
広報とは何も特別な活動ではなく、正しい情報をわかりやすく伝え、共感を促し、そして信頼を得ていくこと。そんな基本的なことに集約されるのかもしれない。
病院の日々の積み重ねの大切さに気付かされる、そんな一冊だ。(原)