九州大学大学院医学研究院包括的腎不全治療学 教授 会長 鶴屋 和彦

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第50回九州人工透析研究会総会
腎代替療法50年の総括と新たな挑戦

【つるや・かずひこ】 1990 九州大学医学部卒業 2003 同大学院病態機能内科学助手 2006 同大学院包括的腎不全治療学客員准教授 2011 同准教授2017 同教授

 九州人工透析研究会は1968(昭和43)年に九州大学泌尿器科の百瀬俊郎教授と長崎大学泌尿器科の近藤厚教授が世話人となり発足。同年11月18日に「第1回九州人工透析研究会総会」が開催された。

 12月3日(日)に福岡市で開かれる「第50回九州人工透析研究会総会」。同総会の会長を務める九州大学大学院医学研究院包括的腎不全治療学の鶴屋和彦教授に見どころなどを聞いた。

透析患者に朗報

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―第50回目という節目の回に会長を務めます。総会について紹介してください。

 日本の透析医療の50年間を振り返るとともに今後の透析医療の発展や課題について、参加者の方と議論する場になればと考えています。

―見どころを教えて下さい。

 特別講演では日本の透析医療の黎明(れいめい)期を支えた東京慈恵会医科大学の川口良人先生をお呼びし「わが国の腹膜透析の歩みと未来への提言」というテーマで講演してもらいます。透析医療の歴史や今後についてお話しいただきます。

 もう一つは、熊本大学発生医学研究所腎臓発生分野の西中村隆一教授による「試験管内で腎臓を創る」です。

―試験管で腎臓をつくるのですか。

 西中村教授は2016年に腎臓のもとになる組織「腎臓前駆細胞」を増やすことに成功されました。西中村教授の研究グループはマウスの胎児から採取した細胞から、腎臓前駆細胞をつくるのに必要な5種類の成長因子を特定。五つの因子を投与することでマウスES細胞、ヒトiPS細胞の両方から腎臓前駆細胞を試験管内で作製することに成功しました。

 そして、試験管内の腎臓前駆細胞の生存期間を生体内に比べ2倍、細胞数を100倍に増幅して増やした腎臓前駆細胞による糸球体、尿細管の形成に成功しました。

 この研究の成果は、今後、腎臓細胞の移植や腎臓組織を体内で再構築する研究に発展していくことが期待されています。それが実現すれば、現在透析を受けている患者さんが透析を受けなくても良くなり、そんな技術の開発につながる可能性があります。

ライフスタイルに合わせた「腎代替医療」を

―シンポジウムの内容は。

 シンポジウム1「腎代替療法の動向と未来〜先進技術をどう生かすか〜」では血液透析、腹膜透析、腎移植と三つある腎代替医療においてそれぞれの第一人者である国際医療福祉大学医学部腎臓内科学講座の鷲田直輝主任教授、慶応義塾大学医学部内科学腎臓内分泌代謝内科の伊藤裕教授、東京医科大学腎臓内科学の菅野義彦主任教授、慶応義塾大学理工学部機械工学科の三木則尚教授、北海道大学病院泌尿器科の堀田記世彦助教に討論してもらう予定です。

―それぞれのメリット、課題は。

 腎機能が低下した際に必要となるのが血液透析、腹膜透析と腎移植です。

 腹膜透析から始めて、血液透析へと移行するパターンもありますし、その逆のパターンもあります。また両者を併用するという選択も可能です。透析を受けてから腎移植をするのも可能ですし、透析を受けずに腎移植をすることも可能です。

 現在、日本では90%強の患者さんが血液透析を選択されています。血液透析は週に3回、1回あたり4〜5時間かかります。

 血液透析のメリットとしては透析施設に行けば医療者に透析をしてもらえる。また、透析をしなくてもいい日があるので生活のメリハリをつけやすい点。

 課題は頻回に通院の必要がある点や、長時間透析を受けなくてはいけない、毎回の透析で血管穿刺の必要があることなどです。

 腹膜透析は、1日4回のパック交換が必要で、交換には通常30分を要します。

 メリットは自宅でできる点、通院が少なくて済む点などです。しかし、腹膜炎などの合併症や透析量や除水量が不足するリスクがあります。

 腎移植は、健康な人と同じような生活を送ることが可能となります。透析治療をしなくて済むし、女性の場合、透析患者さんよりも妊娠、出産がしやすくなります。

 ただ、免疫抑制薬による副作用で感染症にかかる可能性があります。

透析人口の80%強が高齢者の時代へ

―透析患者の高齢化については。

 シンポジウム2「透析患者のエンドオブライフを考える」では、福岡赤十字病院腎臓内科の黒木裕介先生、藤田唯氏、加藤綾氏、小野真美氏、那珂川病院訪問看護ステーションの松下徳代氏、下川敏弘先生の6人に、高齢の透析患者さんの看取りについて、事例なども紹介しながら話してもらいます。

 日本透析医学会では今後、透析人口の80%強を高齢者が占めるようになると発表しています。

 しかし高齢の透析患者さんが入所できる介護施設が不足しています。最近は人工透析が可能なクリニックに隣接する施設なども徐々に増えてきましたが、まだまだ必要です。

 今後、いかに高齢で通院が困難な透析患者さんに対応するかについてディスカッションします。

 例えば、透析患者さんが何らかの理由で植物状態になって、今後の回復は望めないとします。それでも透析をするべきなのか。ご家族が透析を望んだ場合どうするのか。

 倫理的な問題もあって結論を出すのは難しいですが、今後、大きな社会的テーマとなりえる問題でしょう。

妊婦への透析実施

―九州大学の発表は。

 一般演題では私たち九州大学病態機能内科学が「透析導入にて妊娠継続可能であった慢性腎不全合併妊娠の一例」で症例報告をします。

 もともと腎臓が悪く透析を受けている患者さんが妊娠すると尿毒素によって、流産、早産などのリスクが高まるので、毎日透析を実施して、尿素窒素を50mg/dL未満に維持しなければなりません。

 今回、まだ透析を受けていない慢性腎臓病患者さんの妊娠例に透析を実施し、無事出産され、透析を離脱された症例について報告をします。

 九州大学病態機能内科学は同じく一般演題で「皮膚灌流圧測定と超音波血流検査が有用であったバスキュラーアクセス関連スティール症候群の2例」をテーマにした発表もします。

 ポスターセッションでは神経病理学と共同で、「慢性経過の壊死性筋症に伴う腎機能低下のため血液透析導入となった一例」をします。

 ランチョンセミナーでは私が「透析アミロイド症の実態―KYUSHU透析アミロイド症研究会の最新の知見を踏まえ―」と題して講演する予定です。

 KYUSHUアミロイド症研究会とは九州・沖縄の医師による透析アミロイド症に悩んでいる透析患者さんに対して、実態を把握し、何が提供できるのかの研究に取り組んでいます。

 セミナーではこれまでの研究と最新の知見に基づいて透析アミロイド症について発表します。

透析患者のQOL向上に貢献

―将来の透析医療についての展望を聞かせてください。

 今回の特別講演にもありますが、近年、透析機器の小型化の研究が進んでいます。

 現在、着用できる血液透析機器の研究開発が進められています。通常、血液透析は大型の機器を用います。機器が大きいので持ち運びができないため、患者さんは透析中動くことができません。

 ただ、技術的な課題があるようで実現にはもう少し時間がかかるでしょう。

 埋め込み型の人工透析装置の開発が進められています。これは文字通り患者さんの体内に人工透析装置を埋め込むものです。

 着用化や埋め込み型が開発されれば、透析をしながら、活動することが可能となり、患者さんのQOLは大幅に向上するでしょう。期待しています。

―腎臓病の予防も大切ですね。

 九州大学病態機能内科学では「福岡腎臓病データベース研究(FKR)」を進めています。腎臓病が進行する原因を調べる5000人を対象にしたコホート研究です。

 FKRでは5年間に渡り5000人の食習慣、運動習慣、栄養状態や血液・尿、遺伝子解析をします。

 慢性腎臓病(CKD)は糖尿病、高血圧などの生活習慣病と密接な関連があることが分かっています。生活習慣病の発症を防ぐことによりCKDの進行が抑えられるだけでなく、心臓病、脳卒中などの予防効果も期待できます。

 生活習慣や疾病に関するコホート研究を通じてCKD進行の原因を科学的に解明し、新たな治療法の開発のためのエビデンスを確立することがFKRの目的です。

―議論を深めていくべきことは。

 外来の血液透析は保険を適用されない場合、1カ月約40万円、腹膜透析は30万円から50万円ととても高額です。透析に関しては助成制度があり、患者さんの負担が軽減されます。

 助成制度を利用すれば透析の自己負担額は月1万円が上限。これに自立支援給付5000円、地方自治体の障害者医療費助成制度による給付5000円を組み合わせると自己負担額は0円になります。現状では、医療費全体に占める腎代替療法の医療費は高く、今後、透析関連の医療費を減らす努力が重要だと思われます。

 現在、国内の透析患者は32万人余り、年間の透析費用が1人当たり約500万円だとすると国内全体で約1兆6000万円を国が負担していることになります。昨年度の国内全体の医療費が41兆円なので実に4%弱が透析にかかっている費用だという計算になるわけです。

 患者さんは決して好き好んで透析を受けているわけではありません。ただ、透析医療が他の病気の医療費に比べて占める割合が多い現状を考えると、今後、透析医療費について議論していくことも重要かと思います。

第50回九州人工透析研究会総会

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【特別講演1】

「試験管内で腎臓を創る」座長:鶴屋 和彦(九州大学大学院医学研究院包括的腎不全治療学)演者:西中村 隆一(熊本大学発生医学研究所腎臓発生分野)

【特別講演2】

「わが国の腹膜透析の歩みと未来への提言」座長:平方 秀樹(福岡腎臓内科クリニック) 演者:川口 良人(東京慈恵会医科大学)

【シンポジウム1:腎代替療法の動向と未来~先進技術をどう生かすか~】

座長:田村 雅仁(産業医科大学病院腎センター・腎臓内科)
升谷 耕介(福岡大学医学部腎臓・膠原病内科)

「腹膜透析において在宅療法はIT化がすすむ」
演者:鷲田 直輝(国際医療福祉大学医学部腎臓内科学講座)
伊藤 裕(慶応義塾大学医学部内科学腎臓内分泌代謝内科)

「ナノテクノロジーを用いたマイクロダイアライザー」
演者:菅野 義彦(東京医科大学腎臓内科学)
三木 則尚(慶応義塾大学理工学部機械工学科)

「血液キメリズムによる免疫寛容の誘導」
演者:堀田 記世彦(北海道大学病院泌尿器科)

【シンポジウム2:透析患者のエンドオブライフを考える】

座長:藤元 昭一(宮崎大学医学部血液・血管先端医療学講座)
満生 浩司(福岡赤十字病院腎臓内科)

「患者の臨床経過の概要」
演者:黒木 裕介(福岡赤十字病院腎臓内科)

「病棟におけるA氏への関わり」 
演者:藤田 唯、加藤 綾(福岡赤十字病院)

「透析室での看護」 
演者:小野 真美(福岡赤十字病院透析室)

「透析患者の自己決定を支える~家族と共に支えた9日間~」
演者:松下 徳代(社会医療法人喜悦会那珂川病院訪問看護ステーション)

「透析中断例の呼吸困難への対処(瀉血について)
演者:下川 敏弘(社会医療法人喜悦会那珂川病院)

【ランチョンセミナー】

「透析アミロイド症の実態―KYUSHU透析アミロイド症研究会の最新の知見を踏まえ―」
座長:平方 秀樹(福岡腎臓内科クリニック)
演者:鶴屋 和彦(九州大学大学院医学研究院包括的腎不全治療学)

【スイーツセミナー】

「新しい時代を迎える二次性副甲状腺機能亢進症治療」
座長:西野 友哉(長崎大学病院腎臓内科)
演者:風間 順一郎(福島県立医科大学医学部腎臓高血圧内科学講座)

会 期:12月3日(日) 会 場:ヒルトン福岡シーホーク
事務局: 九州大学病院腎疾患治療部
学会HP:http://www.congre.co.jp/toseki50/


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