亜急性期から 在宅までを支える
10月1日、地域包括ケア病床を開設した鹿島病院。清水保孝院長は「リハビリテーションを通じて患者のADL向上に貢献したい」と語る。
◎地域包括ケア病床開設
当院は松江地域における慢性期医療の中核病院としての役割を担ってきました。
2008年に医療療養病床27床を回復期リハビリテーション病棟に転換しました。
2013年、2014年にも病床を再編し、現在、回復期リハビリテーション病棟の規模を57床まで拡大。外傷や脳卒中後の患者さんにリハビリテーションを提供し、早期在宅復帰を支援してきました。
10月1日からは、それまで運用していた医療療養病床60床のうち、24床を地域包括ケア病床へと転換しました。
地域包括ケア病床では亜急性期の内科、整形外科的疾患を中心に最大60日間、医療やリハビリテーション、退院後の生活に向けた支援をしています。
今後は当院の地域包括ケア病床と回復期リハビリテーション病棟が中心になって、この地域の亜急性期から在宅までの医療を担っていかなければなりません。
地域包括ケア病床の開設によって亜急性期から在宅までをカバーするようになり、慢性期病院の理想形に近づいたと思っています。
地域包括ケア病床でも回復期リハビリテーション病棟でも、患者さんに質の高いリハビリテーションを提供するという目的は共通です。
私たちには2008年から9年間、回復期リハビリテーション病棟を運営してきたノウハウがあります。
10月の開設のために7月から試行的に地域包括ケア病棟に患者さんを受け入れてきました。幸いなことに大きな混乱もなくスムーズに運営できています。
◎患者さんの背景を考慮
患者さんがご自宅に戻っても、不自由な生活を送ることがなくて済むように、生活背景、住居環境などを考慮した上で、リハビリテーションを提供していく必要があります。
そのために、家庭の状況について患者さんや、ご家族にヒアリング。在宅復帰するためには、どんなリハビリテーションが必要なのかについて検討、実施するようにしています。
また、理学療法士などのスタッフが退院前に患者さんの自宅を訪問します。生活する際に予測される問題点が見つかれば患者さん本人と、そのご家族、ケアマネジャーとともに対応を話し合っています。
リハビリテーションとともに栄養サポートにも力を入れています。
2008年に栄養サポートチーム(NST)を立ち上げました。医師、看護師、薬剤師、理学療法士、言語聴覚士、歯科衛生士、臨床検査技師、管理栄養士など多職種で患者さんの栄養管理をしています。
経口摂取の患者さんだけでなく経管栄養、静脈栄養の患者さんについても回診や症例検討をし、栄養面でのアドバイスをしています。
栄養状態を改善した方が、よりADL(日常生活動作)の回復が良いということが当院の調べで分かっていますので今後も力を注いでいくつもりです。
◎顔の見える関係の構築を
この地域には高度急性期病院の松江赤十字病院があります。当院では地域包括ケア病床で松江赤十字病院からの患者さんを受け入れて、在宅へ。一部慢性になる患者さんについては医療療養病棟で受け入れて、その後、施設へお送りするというスムーズな流れを構築できているのではないかと思っています。
また、当院は松江赤十字病院の臨床研修プログラムでの地域医療分野の実習病院に指定。毎年5、6人の臨床研修医を受け入れています。
一方で地域の開業医の先生からの紹介が約2割と低く、地域包括ケア病床の開設により、今後、紹介が増えていくことに期待しています。
そのために地域連携室からの情報発信はもちろん、私自身も開業医の先生方と顔の見える関係を構築したい。
当院の地域包括ケア病床について、もっと知ってもらえるように開業医の先生たちとの会合などにも頻繁に顔を出して説明するように心がけています。
◎職員教育にも注力
2003年から毎年、「医療法人財団公仁会院内研究発表大会」を開催しています。
看護部、事務部、薬剤部、医療相談部などの各部署がそれぞれの研究テーマについて発表しています。
今年3月の大会では、薬剤部による「後発医薬品の使用状況と削減効果について」が1位になりました。
上位3チームと特別審査員賞受賞チームは表彰され賞金が授与されますし、毎年開催されている「慢性期リハビリテーション学会」にも参加してもらっています。
各部署が切磋琢磨(せっさたくま)することで抄録内容や発表のレベルが回を追うごとに上がっていると感じます。
他の部署の発表を聞くことで、「あの部署の人たちはこんなこともしていたのか」と、それまで気づかなかった取り組みについて知ることもできるでしょう。チーム医療の構築に一役買っていると言えるのではないでしょうか。
看護師の教育にも力を入れています。1、2年目は基本教育、3、4年目はリーダー能力の育成、5年目は専門的な知識の習得といったように段階的にステップアップしてもらうようにしています。
◎ADL向上のために
私の専門は神経内科です。この領域は、ALS(筋萎縮性側索硬化症)やパーキンソン病などの難病から、脳卒中、認知症、てんかんまで、多様な疾患があるのが魅力であり、やりがいだと思っています。
神経内科疾患は、手足のしびれやふらつき、まひなどの症状があるのが特徴です。
診断・治療に加えて、患者さんに質の高いリハビリテーションを提供することによって、患者さんのADLの向上に寄与していくことが私たちが果たすべき役割だと考えています。
40年くらい前から神経内科の患者さんへのリハビリテーションに興味がありました。
当時、欧米ではリハビリテーションが医療現場で広く取り入れられていました。しかし、当時の日本では神経内科はおろか、その他の領域でもリ ハビリテーションについての概念が十分理解されているとは言い難い状況でした。
また40年前の神経内科といえば治らない疾患が多く、医療行為は診断がメインの状況でした。病気発症後は寝たきりになる患者さんがほとんどでした。
かつて日本では脳卒中 の死亡率が全疾患の中でトップでした。しかし、それが今や「がん」「心疾患」「肺炎」に次ぐ第4位で、今後も死亡率は減少していくことが考えられます。
脳卒中に限らず、現在は神経内科の領域でも治る病気が多くなり、患者さんへのリハビリテーションも一般的です。
当院は回復期リハ、地域包括ケア病棟でのリハビリのほか、法人内に「通所リハビリテーションやまゆり」「訪問リハビリテーションつばさ」などの施設があり、急性期以 降のすべてのリハビリテーションを提供しています。
これからもより質の高い医療とリハビリの提供に努めていきたいと考えています。
医療法人財団 公仁会 鹿島病院
松江市鹿島町名分243-1
TEL:0852-82-2627
http://www.kashima-hosp.or.jp/