鹿児島大学学術研究院 医歯学総合研究科 小児外科学分野 家入 里志 教授

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小児外科医療を地域に広げる

【いえいり・さとし】 熊本県立熊本高校卒業 1994 九州大学医学部卒業 同医学部附属病院医員 1996国立病院九州医療センター 2003 九州大学医学部附属病院助手 2010 同大学病院講師 2014 同大学大学院医学研究院准教授 2015 オランダユトレヒト大学附属ウィルヘルミナ小児病院訪問研究員 鹿児島大学学術研究院医歯学総合研究科小児外科学分野教授

 小児への手術を専門とする小児外科。小児の特性を考慮した手技や、成長後のQOLへの配慮も求められる。鹿児島大学学術研究院小児外科学分野の家入里志教授に講座の果たす役割などを聞いた。

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◎内視鏡外科手術に注力課題は後進育成

 2016年の診療報酬の改定によって、小児外科分野では、先天性食道閉鎖症根治手術、総胆管拡張症手術、腸重積症整復術の内視鏡外科手術の三つが新たに保険収載されました。

 いずれも、数千人に一人程度の疾患ですから、当講座としては前述の3術式を合わせても年間に約十例の実績と決して多くはありません。しかしながら、保険収載以降は、これらの疾患に対してはほぼ全例に内視鏡外科手術で対応してきました。

 今後は、他の疾患も含めて、適応可能なものは、より積極的に内視鏡外科手術で取り組みたいと考えています。

 新たに保険収載された術式を含めて、多くの術式は内視鏡を用いて実施した方が、外科医として技術的には難しい手術にはなります。

 しかし、手術を受ける患者さんにとってはメリットが多くあります。まず、成人と同様に在院日数が短く、回復も早くなります。特に、幼い小児の場合、10代の子どもなどに比べると痛みからの回復が早いものです。内視鏡外科手術の場合、傷も小さいので回復までの時間はさらに短縮します。

 また、小児の場合、開腹手術などで筋肉を断裂すると、成長に伴って左右のバランスをとろうとして、体が変形することもあります。しかし、内視鏡外科手術であれば傷も小さく筋肉を断裂するようなこともほとんどありません。

 医学の進歩で、かつては救えなかった子どもの命も救うことができるようになりました。「命さえ助かれば良い」という時代から、子どものその後の長い人生を考え、生活の質を損なうことのない手術が求められる時代へと変わってきています。

 しかし、小児外科の手術は、手術自体の症例数が少ないため、若手の医師がトレーニングする機会がなかなかないのが実情です。

 当講座では、3Dプリンターや質感モデルを使って、病気を再現したシミュレーションモデルを作成。これを用いながらトレーニングを積んでいます。

 また、私は、手術はなるべく若い医師たちと一緒にやるようにしています。手術の経験を通して、彼らには、手術の難しさと同時に、やりがいも感じてもらいたいと考えています。

◎腸管不全、新たな取り組み

 今年1月から小児の腸管不全に対する医薬品「テデュグルチド」の治験(第Ⅲ相、非盲検、長期安全性及び有効性継続試験)に参加しています。国内では、鹿児島大学をはじめ、九州大学、東北大学、昭和大学、筑波大学の5カ所で実施します。

 腸管不全は、小腸の障害で必要とされる栄養などの消化や吸収が十分にできなくなった状態。小腸閉鎖症などで小腸を切除せざるを得なくなった「短腸症候群」、ヒルシュスプルング病などによる「腸管運動障害」の二つが大きな原因疾患です。

 現在、治療法としては、小腸移植がありますが、今後期待されているのは再生医療による消化管の再生があげられます。

 しかし、小児の小腸移植はまだ全国でも20例ほどしか実施されていません。小腸は免疫組織の塊のようなものですから、移植後に拒絶反応が起こりやすく、術後の管理に細心の注意が必要です。同時に拒絶が起こると、その治療は難渋します。

 現状では腸管不全の患児は、成長する上で必要な栄養を吸収するため、それをカテーテルによって取り入れながら生命を維持し、成長を図ることになります。しかしながら、在宅でカテーテルを使用しながらの生活は、感染や合併症などを引き起こすことも少なくありません。

 当講座としては、残った腸管の機能向上を目的として基礎研究や治験に取り組んでいます。

 今回治験に取り組んでいるテデュグルチドはGLP2(ペプチド)のアナログ薬(類似薬物)として欧米では既に認可されています。今後の有望な治療法として注目されており、われわれもこの治験がうまくいくことを期待しています。

◎子どもたちのために

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 2年前に九州大学から着任。福岡にいるころは、患者さんがどの地域に住み、どのぐらい時間をかけて来院するかということに注意を払ったことは、さほどありませんでした。

 しかし、鹿児島県は離島まで入れると南北600km。大学病院に来るまで1日がかりで、泊まりがけということもめずらしくありません。

 県内で小児外科医がいるのは本学附属病院、鹿児島市立病院、済生会川内病院、県民健康プラザ鹿屋医療センター、そして霧島市立医師会医療センターの5カ所です。

 霧島は私が赴任した後、派遣を開始。奄美大島には、月に1回訪れて、外来と手術による診療支援をしています。患者さんの移動の負担を少しでも減らすような体制の構築を考えています。

 また、小児科の開業医の先生方には、気軽にわれわれ小児外科医に相談していただきたいと考えています。

 小児外科施設を今後数多く作ることはマンパワーから考えても現実的ではありません。

 このため、小児外科医のデリバリーによって、各地域で外来診療をしたり、情報を発信したりすることで、手術などの治療が必要な子どもたちが、すべて小児外科の専門医の適切な診療を受けられるような可能性を広げたいと考えています。

鹿児島大学学術研究院 医歯学総合研究科 小児外科学分野
鹿児島市桜ケ丘8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://www.kufm.kagoshima-u.ac.jp/~ped-surg/


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