今秋スタートのTVドラマで気になっているものは、やはり「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」と「コウノドリ」だ。
「私失敗しないので」が決め台詞の天才外科医の大門と心優しき産科医のサクラ。「コウノドリ」の原作は漫画。医療についての理解を少しでも深めたいと、関連するドラマや漫画には極力目を通している。
今月紹介する「フラジャイル」の主人公は病理医だ。国内には約2千人と数少なく、患者にとっては接する機会もほとんどない。仕事内容についてもっと知りたいと思い、本書を手に取った。
薬剤の治験、大学医局人事、緩和医療...。医療界のトレンドも取り入れながら進む物語は、病理医や臨床検査技師にもファンがいると聞く。
舞台は私立の急性期病院。主人公はスラリとしたイケメンだが、偏屈かつ毒舌の岸京一郎。歯に衣着せぬ物言いのためか、他の診療科の医師や上層部の反感を買っている。
しかし、病理医としての腕は確かのようだ。
患者さんの体からとった細胞の遺伝子の変異や配列などを観察し、腫瘍が良性か悪性か判断するのが病理医の主な仕事の一つ「病理診断」。「昨日のTVの医療番組を見たせいか、今日は患者が多いね」などと、臨床検査技師に軽口をたたきながらも顕微鏡を覗いている。
手術の最中に病理診断を実施する「術中迅速診断」も重要な仕事。部下の病理医・宮崎が、初めての術中診断に不安な面持ちで臨む場面では、「自分の診断に責任を持て」と檄(げき)をとばす。
亡くなった患者さんの「病理解剖」で、「病理医が患者に会うのは解剖の時だ。誠実に向き合え」と語るシーンは心に残る。
「痛いとか、苦しいとかうまく言えない患者もいる。人の心は誰にものぞけない。しかし、血液や排泄物、細胞を分析し、なぜそうなったのかを考える。それが病理医だ」と岸は言う。
タイトルの「フラジャイル」には、壊れやすい、もろい、はかない、といった意味がある。
人の命のはかなさと心の痛みを知っているからこそ、データに真摯に向き合うことで、岸は患者を守っている。
漫画のヒーローを通して、2千人の"岸京一郎"の仕事に思いをはせている。(原)