患者の本音を引き出せる院長になる
JR津駅を起点にすると、車で約10分。若葉病院は、三重大学医学部附属病院の後方ベッドの機能も有する130床の中規模病院だ。
三重大学消化管・小児外科から新院長としてやってきた沖上正人医師は、現在36歳。若い感性は、地域医療をどのように見つめているのか。
―今年1月に院長就任。
三重大学消化管・小児外科学教室では、外科医として専門性を突き詰めていこうと考えていました。院長に就任していなかったら、ひたすら手術を重ねる日々を送っていると思います。
若葉病院では外科はもちろん、内科の診療もします。研修医のころの記憶を引っ張り出したり、専門書を読んだりして、基本から振り返っているところです。
当院は年間1000台ほどの救急車を受け入れるなど、「断らない救急」を掲げていますので、救急患者の対応もします。
ジェネラル・サージャンの教育を受けてきたことが幸いして、ある程度の数の心不全患者なども診てきました。でも、心筋梗塞のカテーテル治療ができるわけではない。
脳血管疾患が疑われるケースでは、三重中央医療センターや大門病院など、脳神経外科の輪番病院と密に連絡。症状に応じて、適切な医療機関が治療にあたるよう調整します。
当院でどこまでの患者さんに対応できて、どの領域からは他の医療機関に任せるべきなのか。その判断だけは誤らないように気を付けています。
日本外科学会専門医、日本消化器病学会専門医として、今も、専門性を高めていきたいという気持ちがあります。一方で、ここに来て、「患者さんの手を握る診療」も自分に合っているのかなと感じています。
高齢の患者さんにはよく、「あんたは開業医が向いとる。早く開業しなさい!」と言われます(笑)。幅を広げていくのも、今後の選択肢の一つかもしれないと思い始めているところです。
―病院経営に携わってみていかがですか。
やはり「若葉病院が変わった」「もっと良くなった」と、地域のみなさんに感じてもらいたいと思っています。
当院は一般病床45床、回復期リハビリテーション病床45床、療養型病床40床。特徴は、リハビリテーション機能に力を入れている点です。
実は5年ほど前に、短期間ですが、若葉病院に勤務していたことがあります。院長の立場から病院を眺めてみると、そのときには気づかなかった課題が、いろいろと見えてきました。
一つは、看護師をはじめとする職員数の不足です。人が少ないと忙しくなり、教育がおろそかになります。
教育経験がない私よりも、第三者や有資格者のアドバイスなら受け入れられやすいのではないかと考えました。
現在、感染症対策に力を入れており、指導面で名張市立病院(名張市)の協力を得ています。
また、毎週、三重大学のインフェクションコントロールドクター(ICD=感染制御に関する専門的知識を有するエキスパート)とWОCナースが当院で診療にあたっており、アドバイスも受けています。
4月、愛知県がんセンターで医療安全管理室長を務めていた看護師を看護部長として迎えました。感染管理看護師の立場から、血液や排せつ物の取り扱いなど、教育の徹底化を図っています。私自身も今年、ICDの取得を目指しています。
これまでの若葉病院では当たり前だったやり方を変えるわけですから、「忙しい上に、なぜこのような取り組みを始めるのか」と、最初は戸惑った職員も多かったと思います。
若い職員を中心に少しずつ理解が進み、各々が工夫したり、協力したりといった空気が醸成されてきました。副師長に若手を抜擢したことも、意識向上の後押しとなっているようです。これから入ってくる新しい職員には「若葉病院のスタイル」として浸透していくだろうと思います。
―がん治療については。
乳がんや、膀胱がんの患者さんのターミナルケアなど、「消化器がん以外のがん」に関わる機会も増えました。
三重大学病院の後方支援として、大学と同等の抗がん剤治療が受けられるよう、専用の無菌室で抗がん剤を調製・提供しています。また、当院には、がん性疼痛看護認定看護師も従事しています。
最先端の医療に関わる機会は減りましたが、看取りをはじめ、大学病院では経験できないことが多々あります。医療用麻薬の使い方、患者さんの状態変化に早く気づくポイントなど、学ぶことは尽きません。
一つの強みに特化した病院ではありませんから、どこまで「伸びしろ」があるのか、まだ分かりません。ただ、当院を必要としている患者さんがいる限り、新しいことも取り入れていきたいですね。近年、注目されている「がんワクチン治療」の提供も検討したいと考えています。
―業務効率化に関してはどのような取り組みを。
当院はまだ紙のカルテ。電子カルテへの転換を進めているところです。口頭の指示による記載はミスを生みやすく、非効率ですから、ぜひとも整備したいところです。
物品の中央管理も徹底したい。業務効率化のモデルは大学病院。私が大学で見てきた多くの仕組みを若葉病院に「輸入」して、応用していきたいと思っています。効率化はミスを減らし、職員の能力を引き出す。その先にあるのは、もちろん「フォー・ザ・ペイシェント」です。
診療面では、より患者さんが話しやすい雰囲気づくりを進めていきたい。現実として医師は多忙なわけですが、それを察して「本当は先生に言いたいことがあったのに」ともやもやしている患者さんが、かなりいるのではないかと感じています。
「急がば回れ」と言うように、いい医療をするために、しっかりと心の内を聞き出せる院長を目指したい。これも広く捉えれば、効率化の一つと言えるかもしれません。
―目指す医療は。
なんでも診ることができる「ホームドクターの病院」にしていきたいと思っています。
当院の関連施設として、津市と亀山市に四つの特別養護老人ホームがあります。入所者の定期的な診療を私が担当していますので、「若葉病院に診てもらえるなら安心」という信頼を、もっと積み重ねていきます。
近隣には、循環器疾患に強い永井病院、透析治療に積極的な武内病院などがあります。
当院は療養型病棟を活用して各医療機関の紹介に応えつつ、あまり地域にない医療を届ける可能性も探りたい。がん患者に対するリザーバーの埋め込みや抗がん剤治療などを、将来的にはセンター化して推進したいですね。
改革しなければならないことはたくさんありますが、やりがいも大きいし、楽しい。夢もどんどんふくらんでいますよ。
医療法人 愛誠会 若葉病院
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