遺伝子多型解析によるテーラーメードのリウマチ治療
関節リウマチの患者は全国に約70万人。毎年1万5千人もの人が発症している。
兵庫県下にリウマチ性疾病専門の「松原クリニック」(神戸市)と「松原メイフラワー病院」(加東市)を展開する松原司院長に、最先端の治療について話を聞いた。
―リウマチ患者の特徴を教えてください。
全国的な傾向として1対4の割合で女性の患者さんが多いですね。発病するピークは男女共に40代から50代前半。遺伝的な背景に、ストレスや喫煙、歯周病などの生活習慣病が外的要因として加わることで発症するとされています。
進行のパターンは、発症後1、2年ほどで完治する「単周期型」、速いスピードで年々、関節破壊が進行する「進行増悪型」、寛解(一時的もしくは永続的に症状が軽減したりなくなったりすること)と増悪を繰り返しながら徐々に関節破壊が進む「多周期型」と大きく三つに分かれます。
2003年から国内で関節リウマチに対する生物学的製剤の使用が可能となったことで、どのパターンであっても、またはどのパターンなのかが判明する前に寛解状態を目標に治療することが可能になりました。
早期に治療介入することができれば7、8割の方は寛解まで持っていくことができます。
治療方針としては、薬物による内科学的治療をベースに、変形している場合は手術による整形外科的な治療を施し、また日常生活の中で支障をきたさぬようリハビリテーションをしています。
―松原クリニックと松原メイフラワー病院の役割は。
1994年、神戸市に松原クリニックを開院。有床ではないため、手術が必要な場合は、近隣の病院で私が手術し、その病院に入院していただくオープンシステムをとっていましたが、入院中のリハビリテーションなど、細かいフォローが十分にできない部分がありました。
そこで、1999年、私の実家がある加東市に、100床の松原メイフラワー病院を開院。
病院名は、1620年にイギリスから北アメリカへ渡り、アメリカ合衆国建国に重要な足掛かりを築いたピルグリム・ファーザーズの船、「メイフラワー号」に由来。「リウマチ医療のフロンティアを目指す」との思いを込めました。
当院は兵庫県内唯一の民間リウマチセンターでもあります。現在、一般病床が99床、8人の医師で診療に当たっていますが、来年からはもう少し医師の数が増える予定です。
―治療の特徴を教えてください。
私が代表を務める「関節再生研究所」での遺伝子の多型解析で得られたデータを基に、個々の患者における薬の有効性や関節破壊の進度などを推測。患者一人ひとりに適合した医療を提供する、いわば「テーラーメード治療」が大きな特徴と言えます。
臨床的な経験から使用する薬を選択するのが通常の治療法ですが、患者さんから「より薬効の高い薬を使用したい」といった要望がある場合などには遺伝子多型解析による治療法について説明します。
この治療法のメリットは、ほぼ確実に効果のある薬を投与でき、医療効率が上がる点にあります。
完全希望制、全額自己負担で、費用は10万円から20万円ほど。
患者さんから10㏄ほど採血し、それをわれわれの研究所でDNAに分離してスニップチップを用いて遺伝子多型を解析します。人の遺伝子の99.9%は同じ塩基配列になっていますが、遺伝子上のたった一つの塩基が別の塩基に置き換わっているものをSNP(スニップ、一塩基多型)と言います。SNPは固定されたマーカーであり、一生変わることはありません。SNPを解析することで病気の遺伝や体質、薬の有効性などを知ることができます。
当研究所では遺伝子工学の手法を使い、1人の患者さんが持つ約100万個の遺伝子をコンピューター上で解析します。これまで約1000人の遺伝子多型を解析してきました。
リウマチの治療方針を定めるほか、希望があれば、がんや脳梗塞、心筋梗塞、2型糖尿病、アルツハイマー、乳がんや卵巣がんの発症と関係のある「BRCA1 / 2」遺伝子異常など、他の疾病の発病リスクを解析し、遺伝カウンセラーがカウンセリングします。
―個人情報の保護についてはどのような対策をしていますか。
遺伝子の多型解析から遺伝子背景の約80%が分かるため、個人情報の保護については厳重な注意を払っています。当研究所では遺伝子情報の一つひとつを番号化して匿名性を高め、さらに何重ものロックをかけ、個人情報が漏れないように担保しています。
遺伝子情報はパーソナルチップにして患者さん本人が持つことができますが、その内容は遺伝子構成の基となるA(アデニン) 、G(グアニン)、C(シトシン)、T(チミン)という四つのヌクレオチドの配列が入っているだけで自分で解析することはできません。知りたい場合はわれわれの研究所へ持ってきてもらい解析する必要があります。
―病診連携について教えてください。
関節リウマチ患者が増え続ける今、リウマチ患者は地域で診ていく必要があります。経口薬のペニシラミンと注射しか治療法がなく、どこで治療をしても同じレベルだった頃とは違い、今は生物学的製剤の種類も多く、受診する医療機関によっては治療格差が生じかねません。
そこで専門機関である当院と非専門機関を病診連携でつなぎ、非リウマチ専門医療機関でリウマチ治療を開始する際は、使用する薬剤や治療方針を当院でチェックし指示。その後の継続的な治療とは別に、患者さんに半年に1度当院を受診してもらい、経過を観察する「2人主治医制」を取っています。
そうすることで患者は自分のかかりつけ医療機関で適切な治療を受けることができ、かかりつけ医も専門外だからと不安を抱えることなくリウマチ治療ができます。
―12月2 日(土)、3 日(日)の「第32回日本臨床リウマチ学会」では大会長を務められますね。
「集学的治療のハーモニーを目指して」というテーマを付けました。
治療についてはこれまで「臨床的寛解」、「構造的寛解」、「機能的寛解」という基準でとらえてきましたが、今後は「心理的寛解」と「社会的寛解」についても考えていく必要があると思います。
「心理的寛解」とは、精神科医や臨床心理士が介入する患者の精神安定化を指し、欧米では一般的です。「社会的寛解」とは、治療費などの経済的負担や仕事への影響からの解放のことを言います。
われわれの研究所による調査の結果、これまで使用していた薬を違う薬に変えるだけでも患者はストレスに感じるなど、表面的な治療だけでは見えてこない面が明らかになりました。経済的に余裕がない場合には、寛解を維持できる範囲で薬を使い、量を減らすことも可能です。
リウマチ治療においては「患者がどう感じ、何を求めているのか」を考える必要がある。そこで「RA(リウマチ)患者が望むRA治療」という特別企画を2日目に設けました。
私とフリーアナウンサーの馬場典子さんが司会となり、「リウマチ友の会」や当院の薬剤師などさまざまな立場の人が、患者の求める理想のRA治療と、医療者が求める治療戦略の理想についてディスカッションします。どんな意見が出てくるのか、非常に楽しみです。
―一般の方へ向けて。
生物学的製剤や治療法が格段に進化したことで、リウマチによる指の変形などの障害を残さずに治療することができるようになりました。しかし、それには早期の治療的介入が必須です。手や足の指が曲げにくいなどといった症状を自覚したら、リウマチを標榜している内科や整形外科、リウマチ科を早めに受診してほしいと思います。
松原メイフラワー病院
兵庫県加東市藤田944-25
TEL:0795-42-8851(代表)
http://www.mayflower-hp.jp/