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にのさかクリニック バイオエシックス研究会 第32回米沢ゼミ 認知症という病い
―私たち抜きで私たちのことを決めないで!―Nothing about us, without us!
ひらまつ在宅療養支援診療所 鐘ケ江 寿美子

 時代を象徴する病(やまい)として評論家・米沢慧氏は明治時代の結核、20世紀のがんを挙げた。

 病は患者や家族(当事者)のみでなく、社会にも影響する。明治文化を代表する正岡子規の俳句雑誌「ホトトギス」、堀辰雄の小説「風立ちぬ」は結核が題材である。

 文化的レベルで悪が述べられる時、病は隠喩(いんゆ)として用いられ(スーザン・ソンタグ「隠喩としての病」)、がんは社会の不正や悪を表す言葉となった。

 21世紀、コンピューター時代を象徴する病は「認知症」。認知症は当事者にとどまらず、人工知能社会の問題とも捉えられると米沢氏は解説した。私たちは認知症にどう対峙(たいじ)すべきであろうか。

 認知症サバイバーであるクリステイーン・ブライアンの著書「認知症とともに生きる私」にそのヒントがあると米沢氏は分析する。

 オーストラリア政府の科学技術顧問であった彼女は1995年、46歳で認知症と診断された。「完全にボケるまで5年、3年後には介護状態になって死ぬ」と告知されてから20年。この間クリステイーンは認知症への偏見(ステイグマ)と固定観念(ステレオタイプ)を払拭し、認知症という新しい世界に生きることになった。

1.「私は誰になっていくの?」(2003年)

 クリステイーンは診断から2年後、自覚する「アイデンティティーの危機」を手記に書き始め、「自己」について次のように著した。

・私たちは「認知する自己」より大きな存在です。
・私たちはこの世界の他者とのかかわりのなかに存在する「感情の自己」です。
・私たちは神とのつながりにおいては「スピリチュアルな自己」です。

 認知機能が低下しても、相手の「言い方」から気持ちは分かり、ぬくもりに他者との繋がりがある。気遣いをもって寄り添い、気持ちを認めて、価値ある人間として敬意を示してほしいと彼女は訴えた。

 2003年、彼女は認知症の人としてはじめて国際アルツハイマー病協会(ADI)の理事に選出された。

2.「私は私になっていく―認知症とダンスを―」(2004年)

 1999年、ポール・ブライアン氏と再婚。「夫・ポールは私のケアパートナーであり、イネブラーです」とクリステイーンは語る。

 彼女は「自分でできるように助けてくれる人」のことをイネブラー(enabler)と表現し、対等な関係を重視する。「してあげる人」「保護する人」という意味をもつ介護者(carer/caregiver)と違い、イネブラーとは自立(自律)した「すこやかな関係」を築く。

 クリステイーンはアル・パワー博士の「すこやかさ(well-being)に至る七つの道(「認知症の病を超えて」2014)」に沿い、彼女が得た成果を説明する。

 彼女は認知症の人のための権利擁護運動家として新たな①アイデンティティ―を手に入れた。イネブラーである夫との②つながりで、③安心感と④自律を得て、スピリチュアルな自己を新たに考え、生きる⑤意味を見い出し、⑥成長し、⑦よろこび(すこやかさ)を見つけようとしている。

 認知症の人の人権を尊重し、イネブラーとしてかかわること。認知症の問題を社会で共有し、「(その)ひとの身になる」(共生、間身体性、竹内敏晴「癒える力」1999年)こと。これらはユマニチュードの哲学に通じると米沢氏はまとめた。「イネブラー」は認知症になっても人生を終えることなく、「新しく生きる」処方箋となる。人と人との響きあいは、社会的無関心という闇を破する光明となるかもしれない。


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