「乳房の科学」。この本のタイトルを見た時、「にゅうぼう」と読まれただろうか、「ちぶさ」と読まれただろうか。
「乳房」の後に「〜の科学」と続くのだから、恐らく多くの方が(私もそうだったが)「にゅうぼう」と読んだことと思う。
本書では、「"にゅうぼう"という読み方は医学者や科学者の読み方であるのに対して"ちぶさ"という読み方は文学に近い」(小川侃・京都大学名誉教授)とし、「乳房」は、科学的、あるいは文学的な文脈で語られる、特殊な「器官」であると指摘する。
本書は発足から約25年が経つ「乳房文化研究会」のメンバー21人が寄稿した共著で、第2弾。執筆者は医師をはじめ文学博士、農学博士、大手下着メーカーのワコール職員などと多彩だ。
その文章の切り口も、乳房の仕組みや、思春期の女子の自身の体への悩み、乳がんの外科手術と再建、そして母乳、母性についてと幅広い。
読みながら、女性の「乳房」とは、もちろん生物学的存在でもあるが、かつさまざまな"意味"を、好むと好まざると付加されてきた不可思議なものなのだと実感した。社会が期待する"女性美"や"母性神話"などが、まるで「乳房」に凝縮されるかのようだ。
そして、多くの女性たちはいつの間にか、社会が作りあげた理想の"乳房"や"母性"とのギャップに悩み、苦しんでいる。乳がん手術を機に、コンプレックスを克服すべく豊胸手術を決心した女性へのインタビューなどもある。
特に興味深かったのは、矢野健二・大阪大学教授が書いた第8章。筆者は、乳がん手術後に失われた乳房の"感覚"に着目。再建手術後に患者さんから「乳房を作ってもらったが自分の体の一部という感覚がない」という指摘を受けたことから、再建後の乳房の早期知覚獲得に注力。次は「乳房本来の知覚を獲得したい」と考えている。再建手術が、見た目だけではないことを知り、驚きと共に安堵(あんど)した。
私自身女性であるが、「乳房」についてこれだけ、じっくり考えたことは恥ずかしながら初めてだった。本書を通して、自身の体に目を向けるきっかけをもらった。10代、20代の女性にも読んでほしい一冊だ。(原)