独立行政法人 国立病院機構呉医療センター・中国がんセンター 谷山 清己 院長

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診断した瞬間から緩和ケアは始まる

【たにやま・きよみ】 1978 広島大学医学部卒業 1979 松山赤十字病院 1981 広島大学医学部第一病理学教室 1985 西ドイツハノーバー市北市民病院留学1992 国家公務員共済組合連合会呉共済病院 1998 米国カリフォルニア大学サンディエゴ校がんセンター留学 2000 広島大学医学部臨床教授 2002 国立病院呉医療センター・中国がんセンター 2014 同院長 2016 広島大学医学部客員教授

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―がん医療の現状をどのようにとらえていますか。

 新たな治療法の話題が次々に取り上げられる一方で、本当に必要ながんの知識を持っている患者さんが、どれだけいるでしょうか。

 まるで魔法のようにがんを消し去ってくれる方法が開発されていると思っていたのに、いざ自分の身に降りかかると、必要以上に不安になり、心が揺れ動く。

 がんと告げられた患者さんの気持ちは、昔も今も、あまり大差がないのではないかと思います。

 病状はそれぞれ違いますから、当然、治療の進め方も異なるわけです。

 自分は、なぜ人と同じ治療ではないのか。

 そんな疑問から、「私のがんは誰よりも深刻なのではないか」と考え込んでしまうケースも多く見られます。

 特に「標準治療」という言葉に対する理解が不足していることを痛感しています。

 先日、乳がんをテーマにした市民公開講座を開きました。参加していた患者さんの1人は、「標準治療は優れた治療だということが、話を聞いて初めて分かった」と言いました。

 標準治療とは、いわば「お手軽な定食」のようなものだと思っていたというのです。

 もっと特別な料理が別にあって、それがプレシジョン・メディシンであったり、新薬であったりするのではないかと。

―患者さんの理解を深めるための工夫は。

 当院が注力しているのは、第2期がん対策推進基本計画でも重点的に取り組むべき課題として示されている「がんと診断された時からの緩和ケア」の推進です。

 私が20年間ほど担当している病理外来も、その一つに位置付けられます。病状と治療法を、専門的な解説も交えて詳しく説明します。

 未来に向けた新たな治療法の研究は、われわれも取り組んでいます。

 しかし、現実として私たちにできることは、「最高の標準治療」を提供することに他なりません。

 標準治療とは、現在の医療技術で最も良質な医療のことです。その認識は国立がん研究センターも、大学病院も、当院も変わらない。

 不正確な情報に振り回されることのないよう、医師、看護師をはじめとするスタッフがチームとなり、患者さんを正しく導くことに心を砕いています。

 2016年12月、がん対策基本法の一部を改正する法律が成立しました。

 就労・就学、療養生活の質の向上などの支援が重視され、かつての技術中心の医療から、「心の救済」を含めた総合的なサポートへとシフトしているのが、現代のがん医療のあり方です。

 医療、介護、福祉が一体となってがん患者さんが住みよい社会づくりを目指しています。その中では、当院にもこれまで以上に多様な役割が求められます。

 一つは、患者さんが潜在的に欲していることを発掘する役割です。

 私が、あるがんセンターに招かれて講演をした際、「診断した時からの緩和ケアといっても、具体的に何をしたらいいか分からなかった」と相談を受けたことがあります。当院の病理外来の取り組みが大きなヒントとなってくれたようです。

 言い換えれば、がん患者さんを支えるための医療機関の仕組みは、いまだ整っているとは言い難い。

 当院の病理外来は院内職員に開放しているのが特徴です。ドクター、看護師、薬剤師など、さまざまな職種に病理外来の現場を見てもらっています。

 当院の病院理念は「相手の心情に寄り添う愛のある医療を笑顔で実践します」。

 医療の基本は思いやり、やさしさ、包容力。まさに「医は仁術なり」です。

 医学生にそんな話をしたところ、「先生が考えた言葉なのですか?」と尋ねられました(笑)。この言葉を知らない人も増えているようですね。

 病院運営の方針としては、「LOVE and SMILES」です。

 「Live healthy(健康的な人生を応援します)」「Own your personalhealth(疾病予防を応援します)」など、13の宣言の頭文字をつなげています。

 37診療科を有する総合医療施設である呉医療センター・中国がんセンターは、「がんも診るがん病院」なのです。存在意義は、突き詰めれば全人格の支援です。

 病理外来の開放は、私たちがここで働くことの意味、原点を共有するための場でもあるのです。

―高齢化をどうとらえますか。

 今後のがん医療のキーワードは「見極め」でしょう。

 もう80歳であっても、胃をすべて摘出して、長生きする方がいます。

 まだ60歳といっても、治療が困難だというケースもあります。

 延命治療をしない「DNAR(Do Not AttemptResuscitation)」という選択があることを、もっと広く伝えていくべきだと考え、啓発活動を進めていきます。

 治る可能性がある患者さんは全力を尽くして治療します。一方で、そうでない患者さんに、どんな医療を提供するか。

 当院の職員が何を理解していて、どんなことを学ぶ必要があるのか、再確認を進めているところです。「リビングウイル」という言葉を本当の意味で院内に根付かせるためにも、地道な勉強を継続しています。

―研究活動の面では。

 今年4月、当院は全500ページにも及ぶ英語の本『Advances in ModernMedicine』を刊行しました。

 当院の全診療科のドクターによる最新の研究活動、東日本大震災における国立病院機構の災害医療チームの動きなどをまとめたものです。

 日本の地方にある病院がこのような本をつくることは、なかなか他にないでしょう。

 1982年に発足した臨床研究部は、世界を見すえてがん研究などに取り組んできました。高いモチベーションが、こうして一つの成果になったわけです。

 また、毎年7月、当院で「呉国際医療フォーラム(Kure International Medical Forum=K―INT)」を開いています。

 今年7月13日から15日の会で、10回目の節目を迎えました。

 米国、韓国、シンガポール、タイなど10カ国の医師や研究者が来日。各国の最新の医療をプレゼンテーションしました。

 2018年11月22日(木)・23日(金)、呉市文化ホールで「第64回日本病理学会秋期特別総会」が開かれます。

 本総会の会長として私が設定したテーマは「病理学10年後の展望」です。

 当院が世界各地とのネットワークを構築していることもあって、アメリカを中心に、さまざまな国々から「ぜひ発表させてほしい」という声が届いています。

 ここ呉から、世界に向けて強くメッセージを発信するチャンスです。しっかりと責務を果たしたいと思っています。

独立行政法人 国立病院機構 呉医療センター・中国がんセンター
広島県呉市青山町3-1
TEL:0823-22-3111(代表)
http://www.kure-nh.go.jp/


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