香川大学医学部医学科臨床腫瘍学講座 辻 晃仁 教授

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がんは人生の縮図

【つじ・あきひと】 1990 岡山大学医学部卒業 1991 寺岡記念病院内科1994 岡山大学大学院医学研究科修了 1995 高知県立中央病院(現:高知医療センター)消化器科 2000 同内科医長 2005 高知医療センター腫瘍内科科長 2011 神戸市立医療センター中央市民病院腫瘍内科部長 2015 香川大学医学部医学科臨床腫瘍学講座教授

 化学療法の進化は、「がん患者の生き方」の幅を広げた。辻晃仁教授は、「患者さんに残された時間を最大化するのが私たちの使命の一つ」と言う。

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◎「もう少し頑張りたい」という思いに応える

 マラソンに例えれば、私たちはコーチやアドバイザーで、患者さんはランナー。目標に向かって完走できるよう、サポートする役割です。

 がん治療は、まさに激動の時代を迎えています。

 さまざまな抗がん剤が開発され、副作用を抑える支持療法の進化も目覚ましい。10年前の状況とはまったく異なるのはもちろん、これからの数年で、さらに多くのことが変わるでしょう。

 私が研修医だった25年ほど前は、洗面器に新聞紙を敷いて、「さあ、抗がん剤治療を始めましょうか」│。

 いまや苦痛は大幅に軽減できるようになり、周術期に化学療法や放射線治療を実施する時代です。

 「死に近づく」というイメージだった抗がん剤治療は、人生を少し明るく照らすことのできる存在として認識されていくのだろうと思います。

 人工透析を受けている患者さんは、治ることはないけれど、続けている限り生きられます。

 抗がん剤も、まずはその段階にまでたどり着きたい。「終活」という言葉がありますが、伝えるべきことを家族に伝え、尊厳を保った状態で最期を迎えることができる。そんな医療レベルに、着実に近づきつつあります。

 手術の前後にどんなことをするのか、再発の可能性はどのくらいか。私たちが提供する正確な情報を活用して、ベストな選択をしてほしい。

 苦しまず、楽に長生きさせてほしいという要望には応えられないかもしれません。しかし、「一定の期間、なんとか頑張りたい」という思いになら、私たちの医療は応えられると思うのです。

◎県内のがん医療を支える腫瘍センター

 腫瘍内科は、造血器腫瘍と小児腫瘍を除く、ほぼ全領域のがん治療を担うことができます。

 中でも胆のう、すい臓、上下部消化管が中心です。また、併存疾患があったり、多重がんであったりする患者さんの場合は、各診療科から当科へ受け持ちがシフトするという仕組みです。

 特徴の一つが、耳鼻咽喉科との併診で、頭頸部がんの化学療法を手がけていることです。

 手術前の入院治療や栄養管理などは耳鼻科の先生が担当し、化学療法を当教室が受け持ちます。

 私がセンター長を務める「腫瘍センター」は、香川大学医学部附属病院の腫瘍治療に関連する、多種多様な業務を管理しています。

 同センター内に緩和ケアセンターも併設し、さらに関連部署として相談支援センターを設置しています。

 また、香川県がん診療連携拠点病院として県内の各がん拠点病院のサポートに取り組んでいるほか、「がんプロ(がんプロフェッショナル養成基盤推進プラン)」により、医師や看護師など、がん医療を専門とする人材の育成に力を入れています。

 全国的にも腫瘍内科専門医は不足しており、香川県も同様です。当センターによる各がん拠点病院への人的支援は欠かせません。

 化学療法の毒性が強いケースなど、各がん拠点病院での対応が難しい患者さんは、香川大学で受け入れています。

 医療機関向けに「香川がん119番」という相談窓口を設けており、当センターがトラブルの解決を図ります。

◎次の時代のドアがもうすぐ開く

 研究面は、大きく三つの柱があります。

 従来、香川県では新薬の臨床試験があまり活発ではなく、一部の患者さんが他県へ足を運んでいたこともありました。以前は、私の前任地である神戸の医療機関でも、そうした患者さんが受診されることも少なくありませんでした。

 そのため、2015年の赴任時、それまで取り組んでいた新薬の研究を香川大学に移しました。

 現在、当腫瘍内科では、数多くの臨床試験や新薬の開発治験を実施。

 特に多いものでは免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験が挙げられますが、これらの治験において、香川大学は全国トップクラスの症例数です。

 次に、緩和ケアの強化です。かつて緩和ケアを受ける患者さんには、「見捨てられ感」がつきまとっていました。

 今はむしろ、「早めに緩和ケアを受けたい」と希望される患者さん、ご家族が増えています。

 当院の緩和ケア病棟は2018年を目標に、現在の2床から、11床へ増やす計画です。

 三つ目は遺伝子治療です。国立がん研究センターの先端医療開発センターが主導する産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan」のメンバーとして、先進的ながん診断法、治療法の研究を続けています。

 現在のがん治療は、次の時代につながるドアの前にたどり着いたという手応えがあります。あと数年で、そのドアを開けるカギが見つかるでしょう。

◎否定的な言葉は使うべきではない

 がんは「人生の縮図」というのが私の考えです。

 患者さんが、それまで家族とどのような関係を築いてきたか。その歩みがさまざまな形で現れる疾患だと思うのです。

 患者さんがよき父、よき母のままでいられるよう、できるだけ希望に沿った療養を提供したいと思っています。いい家族関係の維持をお手伝いする。それも私たちの役目ではないでしょうか。

 子供を怒って教育するのか、褒めて個性を伸ばすのか、という議論があるでしょう。

 患者さんを半ば叱りつけるように「あれはダメだ」「こうしなさい」と言う旧来型の医師は、これからのがん治療には向かないと思います。

 患者さんはがんと診断されたことで、絶望、恐怖、不安で打ちのめされています。

 それでも、もしかしたら治るかもしれないという「光」を求めて私たちを訪ねてくるわけです。

 がんに関わる医療者は、その光を大きくできるように努力しないといけない。否定的な言葉を使う診療はするべきではないと、若い医師には指導しています。

 患者さんの体調などを考慮して、治療を控えなければならない日があるとします。

 「今日は治療できません」ではなく、「まだ薬が効いていますから、今日は治療しなくても大丈夫ですよ」と言える医師になってもらいたい。

 患者さんには、それぞれにベストな治療強度があるわけです。薬が長いスパンで効く人もいれば、短い人もいます。

 患者さんの目標によって治療のペースを上げる時期や、ここは我慢しておこうというタイミングも違います。患者さんが、前向きにとらえられるように対話することが大事です。

 腫瘍内科の医師に必要なのは、まずは熱い心。もちろん高いスキル。そして、他人の感情を理解できることです。

 患者さんとひざを突き合わせて話ができる人でなければ、良いがん専門医とは言えないと思っています。

香川大学医学部医学科 臨床腫瘍学講座
香川県木田郡三木町池戸1750-1
TEL:087-898-5111(代表)
http://www.kms.ac.jp/faculty/center/igaku_kouza/rinsyou_syuyou/


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