島根大学医学部 腫瘍・血液内科 鈴宮 淳司 教授

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患者さんに寄り添うために必要なこと

【すずみや・じゅんじ】 福岡県立小倉高校卒業 1980 宮崎医科大学卒業 1988 宮崎医科大学病理学第一助手 1991 福岡大学第一内科医員 1996 福岡大学第一病理講師(内科兼任) 2001 福岡大学第一内科 助教授 2007 福岡大学筑紫病院第二内科部長・准教授 2009 島根大学病院腫瘍センター長・教授 2017 先端がん治療センター長兼任

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◎進むグループ分け

 慢性リンパ性白血病(CLL)は欧米で最も多い血液のがんです。理由は不明なのですが、アジア人のり患者数は欧米人と比べて少なく、10分の1ほどだと言われています。

 CLLは、ゆっくり進行するがんの代表選手とも言える疾患です。CLLであることが分かっても、初期にはほとんど症状がないため、まずは様子を見るのが基本。進行状況に合わせて患者さんと相談しながら、治療開始のタイミングを探るわけです。

 患者さんの立場にすれば「早く治療を始めてほしい」という気持ちだと思います。しかし、症状が現れていない段階で抗がん薬を投与すれば、むしろ体調の悪化をまねく危険性もあるのです。

 それが従来の方針なのですが、優れた分子標的薬の誕生で、海外では早期治療の治験が進んでいます。

 CLLの患者さんの中でも、特にハイリスクな遺伝子をもつ人がいます。「染色体17p」が欠失している人たちで、がん抑制遺伝子「p53」が壊れているのです。このタイプの患者さんには、標準治療があまり効かないことが分かっています。

 遺伝子の異常を仕分けることのできる時代に入り、欧米のCLL診療ガイドラインでは、早期の分子標的薬の使用が推奨されています。

 日本のガイドラインはまだその段階にありませんが、いずれ同じ方向に変わっていくのではないかと思います。

 いわゆる「プレシジョン・メディシン(精密医療)」という言葉が注目される前から、私たちはほぼ同じ意味合いの治療に取り組んできました。

 悪性リンパ腫の一種であるホジキンリンパ腫の治療に、PDL│1遺伝子の阻害が効果的だというメカニズムは、ずいぶん前から知られていました。

 悪性黒色腫や甲状腺がんには、BRAF阻害薬が使用されています。

 今、そのような視点に基づく治療のアプローチが、多様ながんに拡大しているということです。

 さまざまな分子標的薬の開発が先にあり、どの種類のどの段階のがんに、どれだけの効果があるのかを追いかけているというわけです。

 2015年、京都大学大学院医学研究科教授の小川誠司先生の研究グループが成人T細胞白血病(ATL)の遺伝子異常を解明したことをはじめ、「薬が効く・効かない」の予測の精度は着実に高まっています。

 白血病の患者さんのグループ分けが進む中で、薬の効果が期待できないのなら「造血幹細胞移植をしましょう」と勧めるケースもあるでしょう。

 最適な医療を届けるという広い意味では、それも含めてプレシジョン・メディシンと呼べるのかもしれません。

◎標準治療はもっと進化できる

 4月、腫瘍センターを母体に組織を改編し、新たに「先端がん治療センター」を開設しました。私がセンター長を務めています。

 固形がんユニット、血液疾患ユニット、PrecisionMedicine ユニット、眼腫瘍ユニット、希少がんユニットからなるがん診療部門をはじめ、がん臨床研究部門、がん化学療法部門、放射線治療部門、がん登録部門、がん相談部門、がんサポートケア部門で構成しています。

 プレシジョン・メディシンの推進など最先端のがん治療の提供から、QОLの向上まで、がん患者さんの包括的なサポートを担います。

 高齢化が進む日本の中でも、特に島根県の高齢化率は33・1%で全国3位(2017年4月14日総務省統計局発表)と深刻です。私たちの研究面の大きな方向性は、高齢者に適した治療法の開発です。

 すい臓がんに梅エキスを用いるなど、副作用が少なく、薬に近い作用をもつ成分を補助療法に取り入れる研究を進めています。

 また、既存の薬の新たな組み合わせを探っています。乳がんの治療で使用するホルモン薬が、ある白血病の薬と併用すると、副作用を抑制しつつ効果が上がるというデータを得ています。

 臨床での応用に向けたベースとなる成果は、着々とそろっています。

 標準治療に何かをプラスすることで、これまで「10」必要だった抗がん薬の投与量が、「9」や「8」の量で同じ効果を得られるかもしれない。イメージとしては、そういうものを探しているわけです。対象は薬に限らず、一般的な食品、健康食品なども候補に入れています。

 年齢的、体力的な問題を抱え、手術も難しい高齢の患者さんには、「抗がん薬治療がつらいのでやめたい」と言う方も多い。

 標準治療を少しでも安全に、負担なく受けていただくための工夫の余地はまだまだあります。

 治せる可能性のある方は治したい。治せないなら、要望にできるだけ応えていきたい。

 がんとともに人生を終える、言うなれば「天寿がん」の考え方に近い治療で患者さんに寄り添うのも、私たちの大事な仕事だと思うのです。

◎自宅にいるときでも安心できる医療を

 私は島根県がん対策推進協議会の委員でもあります。島根県は、専門的ながん診療を提供できる医療機関が東部地域に偏っている現状があります。

 西部地域は、松江市に松江市立病院と松江赤十字病院。出雲市には、島根大学医学部附属病院と島根県立中央病院があります。

 浜田市には地域がん診療連携拠点病院の浜田医療センター、益田市にはがん診療連携推進病院の益田赤十字病院があります。いずれも放射線治療医が不足しており、当大学の放射線治療科の応援でなんとかカバーしている状況が続いています。

 当教室は放射線科との連携も多いですから、私も学生にはよく「島根県の放射線治療医の不足が深刻な状況にある」と伝えています。

 今年、放射線治療科には2人の医師が入局しましたので、将来の課題の解消につながっていけばと期待しています。

 私たち腫瘍・血液内科で目指しているのは、「患者中心の医療」です。

 当教室で養成しているのはがん薬物療法専門医、血液内科専門医。どちらか一つ、あるいは両方を取得する医師もいますし、骨髄移植をメインにしたいという者もいます。

 どのような道に進むにせよ、「本当に患者さんが中心の医療を提供できているか?」を常に問う医師でいてほしいと思うのです。

 ご自宅から2時間かけていらっしゃる患者さんに、「朝8時半に来てください」と言う。患者さんがご家族と暮らしているのか、1人で住んでいるのか、まったく知らない。そのような医師にはなってほしくないと思っています。

 安心・安全な医療とは、外来や入院中のかかわりだけではないのです。ご自宅にいるときにも、患者さんが安心できる。それが、「患者中心の医療」ではないでしょうか。

島根大学医学部腫瘍・血液内科
島根県出雲市塩冶町89-1
TEL:0853-23-2111(代表)
http://www.med.shimane-u.ac.jp/hospital/cancer/?p=81011


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