熊本大学大学院 生命科学研究部 呼吸器外科学分野 鈴木 実 教授

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なぜ、肺がんの死亡者数は減少したか?

【すずき・まこと】 1989 千葉大学医学部卒業 同附属病院肺外科 1994千葉県がんセンター呼吸器科 1999 千葉大学医学部附属病院肺外科助手2001 米国テキサス大学留学 2003千葉県がんセンター呼吸器科医長2008 千葉大学医学部附属病院呼吸器外科講師 2010 熊本大学大学院生命科学研究部呼吸器外科学分野教授

 2016年、熊本大学呼吸器外科が手がけた肺がんの手術数は九州・沖縄エリアで第2位(188件)。診療科の枠を超えた集学的治療を強みに、肺がん克服の可能性を探っている。

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◎内科的治療の「伸びしろ」

 厚生労働省が6月に発表した「平成28年人口動態統計月報年計(概数)」によると、昨年の全死亡者数のうち、悪性新生物でなくなったのは37万 2801人で28.5%。1981年以降、ずっと死因の1位です。

 同統計の「悪性新生物の主な部位別にみた死亡数・死亡率(人口10万対)」の項目を見ると、男性は肺がんが1位。女性は大腸がんが1位で肺がんが2位です。男女を総合すると、肺がんがトップに位置しています。

 私が着目したのは、戦後から右肩上がりだった肺がんの死亡者数が昨年、初めて減少に転じた点です。

 2015年は7万4378人(男5万3208人、女2万1170人)、2016年は7万3820人(男5万2415人、女2万1405人)と微減しました。

 なぜ減ったのか。現時点では憶測の域を出ませんが、免疫療法の影響が大きいのではないかと考えます。

 新たな免疫チェックポイント阻害薬が次々に開発されており、免疫療法ガイドラインは毎年改訂されています。外科療法や放射線療法と比較すると、ハイペースでアップグレードしているのが特徴です。治療の進化が死亡者数の減少、長期生存につながっているのではないかと思うのです。

 4月、米国がん学会で「ニボルマブの投与による肺がんの5年生存率は16%」と報告されました。従来の化学療法の生存率は4〜5%。約4倍ですから、驚くべき数字です。

 129例という限られた集団に対する臨床試験のため、引き続き動向を注視する必要があります。とはいえ免疫療法の「伸びしろ」を十分に感じられるデータと言えるでしょう。

◎次の標準治療を確立すべき時期

 当教室は内科や放射線科と連携した周術期の集学的治療に取り組み、外科療法の治療成績も向上しています。

 肺がん診療ガイドラインにあるように、抗がん剤の標準治療は「シスプラチン(CDDP)」と「ビノレルビン」の組み合わせです。ただ、標準治療として定められてから、すでに10年を超える時間が経過しています。

 標準治療の臨床試験が始まったのは1990年代の後半ということを考えると、そろそろ次の、より効果が期待できる治療に移行する時期ではないかと思います。

 現在、CDDPとTS-1など、術後補助化学療法における新たな抗がん剤の組み合わせを研究しています。あと1年間で終了し、結果を取りまとめて発表する予定です。

 遠くない将来、術後に免疫療法を取り入れる時代がやってくるのではないかと想像しています。

 海外では臨床研究が進んでおり、おそらく5年後にはデータが公表されるでしょう。その結果によっては、免疫治療が積極的に導入される流れに向かう可能性があります。

 患者さんの中には、手術だけで治る人が一定の割合でいるわけです。

 問題はその患者さんにとって、抗がん剤や免疫治療がときに重い副作用などをもたらす「毒」になってしまうおそれがあるという点です。

 術後にがんが残っているのか、いないのか、現在の医療技術では判別することができません。ですから、肺がん診療ガイドラインでは、Ⅱ期以上の患者さんに抗がん剤を投与することが推奨されています。

 術後補助化学療法の実施は、実施しない場合と比較して、5年生存率を高めるというデータがあります。

 体調や年齢、合併症などを考慮して大きな問題がないのなら、術後補助化学療法を選択するというのがガイドラインの方針です。再発してから化学療法を始めたのでは、なかなか治療成績が伸びないというデータもあります。

 免疫チェックポイント阻害薬を術前に投与して、がんを小さくしてから手術に臨む方法の研究も進むでしょう。ヨーロッパの学会では、早期肺がんの術前に免疫療法を実施した例が報告されています。

 一度がんが浸潤した部位は切除するのが基本。切除の範囲そのものはあまり変わらないかもしれませんが、手術の安全性はかなり高まることになります。

◎増え続ける肺がん問題点と対策とは

 2018年2月23日(金)、24日(土)に、第58回日本肺癌(がん)学会九州支部学術集会、第41 回日本呼吸器内視鏡学会九州支部総会が熊本市で開かれます。会長を私が務めるにあたり、テーマを「超高齢化社会に備えよ」としました。

 学会では、肺がんを取り巻くさまざまな問題点や最新の状況を取り上げたいと考えています。

 日本肺癌学会の光冨徹哉先生(近畿大学医学部外科学講座呼吸器外科部門教授)の講演では、最先端の肺がん診療を中心にお話しいただくほか、がんサバイバーの方にディスカッションに加わっていただく市民公開講座も検討中です。

 肺がんの発症には、高齢化が深く関連しています。平均発症年齢は71歳。50歳から急激にり患者数が増えます。

 日本の高齢者人口のピークが2040年あたりだと言われていますから、今後20年ほどは、肺がん患者数が増え続けていくことになります。

 国内の呼吸器外科の手術のうち、肺がん手術の伸びは著しいものがあります。データの収集を始めた1986年には年間2万件弱でしたが、2014年には約4万件に拡大しています。

 肺がんが増加したもう一つの背景には、喫煙があります。学生の試験にも出題しているのですが、日本人の何人に1人が習慣的に喫煙していると思いますか?

 「平成26年国民健康・栄養調査」(厚生労働省)によると、「5人に1人」。男性は3人に1人、女性は10人に1人が喫煙者だそうです。たばこに対する規制が進む中にあっても、まだまだ多いことが分かります。

 男性の喫煙による肺がんリスクは非喫煙者の4.4倍、女性は2.8倍です。たばこと肺がんの因果関係は、喫煙者本人および受動喫煙者の発症リスクが「レベル1(十分)」と判定されています(厚生労働省・喫煙の健康影響に関する検討会報告書)。

 肺がんと慢性閉塞性肺疾患(COPD)の合併は約38%と高く、術後の合併症を起こしたり、化学療法を妨げたりする原因にもなります。

 肺がんは女性の21人に1人、男性の10人に1人がかかる疾患です。治療の未来像まで感じられる学会にしたいと思っています。

熊本大学大学院生命科学研究部 呼吸器外科学分野
熊本市中央区本荘1-1-1
TEL:096-344-2111(代表)
http://kumadai-thoracic.com/


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