国立大学附属病院で初
2度目の再開発整備が進行中
「全力で再開発整備事業を進めていくことが私のミッション」―。
4月、病院長に就任した杉野法広病院長は言葉に熱を込める。生まれ変わる山口大学医学部附属病院のシンボルとなる新病棟や、組織のマネジメントについて聞いた。
―1985年から1997年以来となる、大規模な再開発整備プロジェクトが進行中です。
山口大学医学部附属病院は、国立大学の附属病院で初めてとなる2度目の再開発整備事業を進めています。
2015年に本格的にスタートした今回の事業は、新病棟の建設を皮切りに、既存の第1・2病棟、外来診療棟、中央診療棟の改修および解体まで、すべてが完了するのは2025年の予定です。
2度目の再開発整備を国から承認されるには、明確な目的や実効性の担保など、厳しい要件をクリアする必要があります。
もちろん綿密な計画を立てても、経営基盤が脆弱(ぜいじゃく)では承認されません。当院の安定した経営実績や、新病棟を中心とした機能強化による貢献度などが、総合的に高く評価されたのだと思います。
まさに再開発整備事業は、職員全員がこれまで積み重ねてきた努力の結晶だと言えます。
本事業のスローガンは「Your Health, Our Wish(あなたのために)」です。
大学病院は高度な医療を追求すると同時に、社会に貢献する責任があります。スローガンには「将来にわたってみなさんの健康を守り続ける」とのメッセージを特に強く込めました。
それを具体化するための基本戦略は「教育・研修」「研究開発・先進医療」「地域医療推進」「病院基盤強化」の4点です。
―新病棟の特徴は。
地上14階、地下1階の構造で2018年度内に竣工(しゅんこう)します。
2019年6月末に稼働予定です。安心・安全な医療を長く提供していく上で、非常に重要な役割を果たす存在です。
新病棟のポイントは高度急性期医療の充実です。
柱の一本目が、1階の先進救命救急センター。20床すべてがICU機能を備え、CT、血管造影装置も設置します。
3階には集中治療部、輸血部、病理部が入ります。ICUは現状の12床から16床へ増床する計画です。
4階の手術室には、血管造影装置を備えたハイブリッド手術室を整備。MRIも設置します。
高度急性期医療のもう一本の柱となるのが、6階の総合周産期母子医療センターです。
GCUは現状の8床から12床となり、より多くの重症な妊産婦、新生児の患者さんの受け入れが可能となります。
現在、ドクターヘリの駐機場は地上にありますが、新病棟の屋上にも整備されます。
ヘリポートと各階をスムーズにエレベーターで直結する「ダイレクトパス」により、ヘリの到着から治療までの流れが大きく効率化します。山口県内各地の患者さんを、重症度に応じて受け入れる体制が格段に強化されるのです。
6階から12階は入院患者さんのフロア。職員の動線の短縮化、見通しのよいオープンスペースのスタッフステーションの設置などが特徴で、「見守りハイケア病棟」と名付けています。
新病棟は災害時にも力を発揮するでしょう。
災害が発生しても電源は確保され、先進救命救急センターや手術室、ICUの稼働が停止することはありません。
平時は講義や講演で使用する1階の大講義室(オーディトリアム)は、有事には広大なトリアージスペースとなります。
さまざまな機能を備えた新病棟の完成を、県民のみなさんはもちろん、職員たちも楽しみに待っています。
本事業を滞りなく遂行するのが、私の最大のミッションです。現在までのところ、計画はスケジュールどおりに進んでいます。
―院長が考える働く環境づくり、人材育成のポイントとは。
世界に通用する高度な医療と研究を突き詰めていく人材の育成。それがなければ、ただ規模が大きいだけの病院です。
産科婦人科学講座の教授でもある私が信念としている言葉は「人は組織の宝なり」。優れた人材なくして、安心・安全な医療も、安定した経営基盤の確立もありません。
当院の「医療人育成センター」では研修医・専門医支援部門、地域医療支援部門、男女共同参画支援部門、コメディカル支援部門などを設け、キャリア形成を支援しています。
女性のワークライフバランスの充実を図り、専用の相談窓口を設置しているほか、2016年10月には、院内の保育所「たんぽぽ保育園」の定員を34人から90人に拡充。夜間保育、病児保育にも対応しています。
さまざまな情報が容易に入手できる時代です。若い医療者ほど、目線は自然と世界を向いていると言えるかもしれません。
ただ、海外の学生との交流など、実際に世界とかかわる機会をもっと増やしていく必要があると考えています。
山口大学は米国、東南アジアなど、海外の大学とのネットワークづくりを積極的に進めています。この環境を活用して早い時期に国際交流を経験し、「世界が標準である」という意識を高めてほしいと思います。
私自身、今も研究活動の第一線にいます。
親指の先ほどの小さな卵巣から生命が誕生する。その神秘性に惹かれて産婦人科を選びました。卵巣の働きや受精などの領域を専門的に研究しています。
近年は産婦人科を志望する学生が減少し、都市部と地方の医師の偏在も、なかなか解消されるきざしはありません。
生殖の分野は謎に包まれていることも多く、一生をかけて研究に取り組む価値があります。その魅力を伝えていくことも、私の使命です。
―最新のトピックは。
山口大学の強みは、基礎研究を臨床につなげるトランスレーショナル・リサーチの推進です。
まだ国内の大学には数少ない専門講座を開設するなど、現在、大学全体をあげてシステムバイオロジー研究に力を入れています。
6月、山口大学大学院医学系研究科の主催で「人工知能・システム医学による難治性疾患への新たな挑戦」と題し、宇部市でシンポジウムを開きました。
沖縄科学技術学院大学 教授でシステムバイオロジー研究機構会長の北野宏明先生など、この分野を代表する方々の講演や、山口大学各学部の研究成果を発表しました。
山口大学が「システムバイオロジーの日本の拠点」として発展していく。そんな未来を思い描いています。
山口大学医学部附属病院
山口県宇部市南小串1-1-1
TEL:0836-22-2111(代表)
http://www.hosp.yamaguchi-u.ac.jp/