鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 運動機能修復学講座 整形外科学 永野 聡 准教授

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オール鹿児島大で医師主導治験を推進

【ながの・さとし】 出水中央高校卒業1996 鹿児島大学医学部卒業 同整形外科医員 2003 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科修了 久留米大学高次脳疾患研究所 2004 Edwin L. SteeleLab. Harvard Medical School(米国)2008 鹿児島大学大学院医歯学総合研究科整形外科学助教 2016 同准教授

 鹿児島大学は、がん細胞のみを死滅させる遺伝子組み換えウイルス医薬「サバイビン反応性m-CRA」を開発。骨軟部腫瘍の患者を中心にした医師主導治験を2016年8月から進めている。同大学としては初の創薬を目的とした医師主導治験。腫瘍溶解性ウイルス医薬の治験としては東京大学に次いで国内2番目になる。

 治験分担医師である永野聡准教授に、現状や今後の実用化に向けての話を聞いた。

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―サバイビン反応性m-CRAとは。

 本学の遺伝子治療・再生医学分野の小戝(こさい)健一郎教授の研究室が開発を進める、ウイルスの遺伝子を組み換えたがん治療薬の候補です。

 ウイルス自体は、アデノウイルスという風邪などのウイルスで、自然界にも多く存在します。

 このウイルスの遺伝子を組み換え、正常細胞では増えず、がん細胞に感染した時だけ、ウイルスが増えるように細工してあります。

 がん細胞にこのウイルスが感染すると、がん細胞に強く発現しているような遺伝子のシステムが働き、このウイルスは自分のコピーをたくさん作ります。コピーが次々に増えると、がん細胞はそれに耐えられなくなって、溶解してしまうという仕組みです。このため「サバイビン反応性m-CRA」のようなウイルスは一般的に、腫瘍溶解性ウイルスと言われています。

 一方、正常組織に対しては、感染するもののコピーを作れない仕組みとなっています。正常細胞はそのままで、がん細胞だけを攻撃するため、副作用が少なく、がん細胞に対して強く効果を発揮するのが、大きな特徴でありメリットです。

 2002年、当時久留米大学でウイルス医薬の研究に取り組んでいた小戝教授が、当教室の小宮節郎教授と共同研究者であったというご縁により私が国内留学という形で師事したのが、この研究に関わるようになったきっかけです。

 当時私は大学院生でしたが、小戝教授とディスカッションしながらウイルス遺伝子の組み替え、治療効果の解析などを実施しました。それから、治験まで10年余りが経ちました。

 今も、世界中でさまざまなウイルスを治療に生かす研究が進んでいます。中でも、遺伝子を組み換えやすいなどの理由から、一番多く使われているのがアデノウイルスです。

―がんの治療薬には、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬がありますが、ウイルス医薬はこれまで開発されているのでしょうか。

 これまでにないまったく新しいものだと思います。

 現在、日本で腫瘍溶解性ウイルス製剤をもちいた医師主導治験を進めているのは、鹿児島大学と東京大学です。東京大学では、ヘルペスウイルスの遺伝子を組み換え、脳腫瘍の患者さんに治験をしています。

 世界でも、ウイルス医薬で承認され、実際に薬として販売されているのは、アメリカで2015年に承認されたヘルペスウイルス由来の医薬だけです。

 私たちの研究の実用化は、早ければ2020年を目指しており、日本で承認されることは、大変意義があると思います。

―臨床試験の現状は。

 2016年の3月に国に治験届を提出。8月に1例目の患者さんに「サバイビン反応性m-CRA」を投与しました。

 自然界には、野生型のアデノウイルスがいますが、この組み換えアデノウイルスが自然界に出て行った場合、環境にどういう影響を与えるかということは明らかではありません。

 このため、ウイルス製剤を投与した後の処理などが細かく規定されており、それをすべてクリアし、ようやく認可を得ました。

 その後も、実際に何例かの患者さんに投与して、安全性などを評価しています。

 治験には大きく分けて、第1相、第2相、第3相という過程があります。現在は第1相で、まずは、患者さんへの安全性を確認するという段階です。途中経過としては、順調に進んでいます。

 安全性が確認されれば、有効性や用法・用量を調べる第2相に進みます。

―対象は。

 現段階では、原発性の骨腫瘍や軟部腫瘍の患者さんを中心にしていますが、がんが骨に転移した転移性骨腫瘍の患者さんも対象にしています。

 当整形外科で主に治療しているのは、原発性で悪性の肉腫などいわゆる希少がんです。希少がんに関しては、治療法が非常に限られているのが実状ですので、新しい治療法としてウイルス製剤の効果が期待されています。さらに、「サバイビン反応性m-CRA」は骨腫瘍以外の幅広いがんの治療に対応する可能性も高いと考えています。小戝先生の研究室では新たなウイルス医薬の開発も常に継続しておられ、私の後輩の整形外科医も大学院生として頑張っています。

 治験を始めるにあたり、大学のさまざまな部門の方が「協力しますよ」と、快く力を貸してくださいました。特に治験管理部門、手術部、放射線部、整形外科病棟ほか大学病院のスタッフには、治験の実施に多大なご尽力を頂きました。また、検査関連では、ウイルスに関連する特殊な検査もあるのですが、忙しい中、対応して頂き本当に助かりました。まさに、オール鹿大でやっていると実感しています。

 地方の大学で、自分たちで研究・開発した薬を実際に患者さんに投与して、承認を目指すというのは大変まれな例だと思います。逆に、貴重な機会とご理解頂いているからこそ、大学全体で団結できているのかもしれません。

―治験の対象となる人の募集は今も続いていますね。

 患者さんからは、大変多くの問い合わせをいただいています。患者さんやご家族が一生懸命情報を探して、その結果われわれの治験のホームページにたどり着き、お問い合わせをいただいているのだなと感じることもよくあります。

 残念ながら適応にならずお断りすることも多くあります。しかし、患者さんやご家族から「早く承認されるように頑張ってください」と逆に励まされることもあり、責任の重さを感じるとともに本治験の成功への思いを新たにしています。

鹿児島大学大学院 医歯学総合研究科 運動機能修復学講座 整形外科学
鹿児島市桜ケ丘8-35-1
TEL:099-275-5111(代表)
http://www.orthop-kagoshima-u.com/


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