その人らしい生き方を支える
1885(明治18)年開設の浦本医院が発展した特定医療法人萬生会。中核となる熊本第一病院は「その人らしい生き方を支える」を掲げ、地域の高齢者の亜急性期から慢性期、さらに在宅医療の一端を支えている。
◎内科領域に特化高水準の医療を実現
当院は、一般病床46床、地域包括ケア病床40床、医療療養病床39床の計125床。血液腫瘍、糖尿病及び代謝疾患、肝臓疾患、呼吸器疾患など、内科領域のさまざまな分野の疾患を診られるよう、各分野の専門医や認定医を置いています。
2002年にこの場所に移転してからは、地域住民のかかりつけ医の役割を果たすこと、「在宅」という社会の要請に応えること、などを念頭に運営してきました。
移転当初、一般と介護療養で運営していた病床は、高齢化による合併症の増加やそれに伴う人件費、薬代などコストの上昇、国の療養病床削減の動きもあり、段階的に医療療養病床や地域包括ケア病床へ移行。現在の形になっています。
◎7人の常勤MSW法人内外と連携を強化
法人内には高齢者医療を得意とする「合志第一病院」、在宅療養支援診療所、サービス付高齢者住宅などがあります。在宅での看取りのためには、法人内で、当院の常勤医師を含めたオンコール体制を敷いています。
さらに法人以外の医療機関、施設と密に連携するために、さまざまな施設と定期的な会合を当院で開いています。
当院では7人の常勤MSW(医療ソーシャルワーカー)が、高度急性期病院からの患者さんの受け入れや、当院から施設などへの送り出しの業務を担当。急性期病院の病床の空き状況の情報も毎日入ってくるようになっています。
内科系の専門医がいるため、まだ治療が必要な急性期の段階でも、高度急性期病院の病床があふれそうな時には患者さんを引き受けられる。その専門性の高さと柔軟性が強みです。
◎9割の在宅復帰率肝心なのは「栄養」
2016年10月、それまで30床だった地域包括ケア病床を40床に拡大。在宅復帰率7割以上が目安のところ、当院では約9割の在宅復帰率を保っています。
高い在宅復帰率を支えるものの一つは、NST(栄養サポートチーム)の存在でしょう。私の持論は、「身体的な機能が落ちたお年寄りに、正しいリハ栄養を」です。職員にもその考えはしっかり根付き、患者さんが入院した時点から、栄養的なサポートを徹底しています。
今後の課題は、在宅に戻った後をいかに支えるか、という点です。在宅ではだんだんと食が細っていってしまう傾向にある。早めに対応できるシステムの構築を急がなければなりません。
当院には4人の管理栄養士がいます。在宅の患者さんを支えたいという思いも強い。自宅に戻った患者さんで、食べる量が減ってきてしまったり、食事を取りにくくなってきたりした人がいれば、訪問看護師と連携して、経口補助食を勧めるなどしています。
できるだけ口から栄養を摂取してほしいというのが、この病院で働く全員の共通する願いです。今後、栄養士による訪問指導なども始められたらと考えています。
栄養サポート、食事は患者さんに対する心のケアの重要な入り口の一つでもあります。今後も大切にしていきたいと思っています。
◎つながり実感 熊本地震
2016年4月の熊本地震では、当院も水が使えなくなるなどの影響が出ました。地盤の隆起や沈下の影響で、井戸からも泥水が出てしまったのです。
「備蓄している3日分の水や食料では足りなくなるかもしれない」。そう考えた私は、本震があった16日、所属する日本静脈経腸栄養学会を通じて、会員に支援を求めました。すると17日以降、熊本と接する九州の各県や関西地区からも続々と物資が届き始めたのです。
たくさんの物資が集まったので、MSWが近隣の施設などで困っているところがないか連絡。ここを拠点に、物資を周辺施設に届けたり、取りに来てもらったりできました。
この経験は地域内での連携だけでなく、近隣県など少し離れた地域とのつながりの大切さも実感させてくれました。
◎がん患者を支えるがんリハ栄養、緩和ケア
当院には、血液疾患や進行したがんの患者さんも来ます。今は抗がん剤を含め、さまざまな治療法が開発されています。昔だったら緩和以外ない、という状態の人も治療を続けられる時代になってきました。
抗がん剤治療の場合、栄養が取れないと、患者さんは弱っていく一方です。そこで、私たちはがんリハ栄養も重視しています。
例えば、自分でトイレに行くというのは、患者さんのQOL、尊厳を保つ上で重要なことです。そしてそのためには、食べてもらい、筋肉を維持していく必要があるのです。
現在、当院では一般病棟の中で緩和ケアも実施しています。ただ、治療中の人に対する緩和ケアと、完全緩和の人へのケアは、時間の流れなどが異なります。今後は、一般病床の一部を緩和ケア病床にすることも考えています。
一般病床での緩和ケアには、治療に関わった看護師が最期までずっと付き添えるというメリットがあります。ただ、長く携わった患者の看取りは、スタッフにとってやりがいであると同時に精神的負担にもなります。優しいスタッフが多いですから。病床を分けることで、看護師の負担感を和らげることにもつながればと考えています。
◎在宅、病院での看取りに寄り添う
法人全体の在宅での看取りは年間30〜40人になります。ただ、自宅での看取りについて言えば、良いことばかりではありません。ですから、「最後の瞬間は自宅か病院か、一方に無理に決めなくていい」「難しい、無理だと思ったら病院へ」ということを、患者さんにもご家族にも、伝えるようにしています。
家族を休ませるためのレスパイト入院も受け入れています。それが病床を持っているわれわれが在宅に関わる時の強みでもあるでしょう。
地域の無床診療所から、在宅の患者さんのレスパイト入院を依頼されることも増えてきています。
◎触れてわかる触れて近づく
全職種の職員に、患者の体を見ること、触れることの大切さを話すようにしています。私の回診でも患者さんの多くと握手をして握力をみています。
今は、血液検査などで患者の栄養状態がわかります。感染症対策を考えれば、触れない方が良いという考え方もあるかもしれません。
でも、1週間に1度の回診時の握手で、患者さんの状態の評価ができ、患者さんとの気持ちも近づく。実際に見て、触らせてもらうことは、検査結果以上に広くて深いことがわかるというのが実感です。
特定医療法人 萬生会 熊本第一病院
熊本市南区田迎町田井島224
TEL:096-370-7333
http://vansay.jp/kumamoto/