重粒子線、陽子線でがんを治療する「粒子線治療施設」の建設計画が近畿地方で相次いで進んでいる。
2001年、国内初の粒子線治療施設として兵庫県立粒子線医療センターが開設してから16年。8月の「大阪陽子線クリニック」(大阪市)を皮切りに、2017年だけで3カ所の開設を予定している。
2016年には一部保険適用にもなった粒子線治療。「選択すべき、選択しやすい医療」になっていくのか、注目が高まっている。
がんを対象とする放射線治療は、体の機能の温存や、侵襲の少なさが特徴として挙げられる。
現在、一般的に使われているのは、エックス線やガンマ線といった「光子線」。乳がん、頭頸部がんなど、幅広い部位の治療に利用されている。
一方、陽子線、重粒子(炭素イオン)線による治療は、「光子線と比べて正常な臓器への障害を軽減できるというメリットがある」(手島昭樹大阪大学名誉教授)という。
しかし、粒子線治療施設は建設コストが高く、広大な敷地も必要なため国内にはまだそれほど多くはない。利用できる患者が限られているのが実情だ。
公益財団法人医用原子力技術研究振興財団(東京都中央区)のまとめによると、現在、国内にある陽子線治療施設は12カ所、重粒子線治療施設は5カ所に留まっている。
がん保険普及粒子線治療拡大を後押し
「装置の小型化や施設内での配置場所の工夫で、都心部の限られた敷地でも陽子線治療施設を開院できる」と語るのは、大阪陽子線クリニックの山本道法院長。すでに地上5階、地下1階の建物が完成。治療開始に向け、試運転などを進めている。
同クリニックでは、通常隣に並べるシンクロトロンと回転ガントリーを上下に配置することで、必要面積を狭めた結果、敷地面積は、約1200㎡ほどで収まった。
大阪府内にはこれまで、粒子線治療施設がなく、山本院長は「民間のがん保険などの普及で、高額な放射線治療もまかなえる。陽子線治療を選びたいと考える人も増えており、そのようなニーズにも応えたい」という。
8月に完成し、12月から稼働する予定の「兵庫県立粒子線医療センター附属神戸陽子線センター」は、兵庫県立こども病院に隣接し、小児を主な対象とするのが大きな特徴。
陽子線と重粒子線、両方の治療が可能な国内初の施設として2001年に開設され、7529人(2016年7月末現在)の治療を手掛けてきた兵庫県立粒子線医療センターが運営する。
京都府立医科大学の「永守記念最先端がん治療研究センター」(京都市)も11 月完成予定で、京都府内初。大阪国際がんセンター(大阪市)に隣接して建設される大阪重粒子線センターも、大阪府内初、近畿地方で2カ所目の重粒子線治療施設となる。
手島名誉教授は、「技術の進化による小型化やコストの低下が、粒子線治療施設開設を後押ししているのでは」とみている。
低い放射線適用率残る課題
国立がん研究センターのがんに関する最新の統計(2016年)によると、1年間にがんと診断された人は100万人超。亡くなる人は約37万4000人に上った。
一方、医療の進歩でがんの治療の幅が広がった。高齢化、価値観の多様化などで、低侵襲な放射線治療の需要も、高まっている。
日本放射線腫瘍学会の構造調査によると放射線治療件数は、21万3000件(2012年)となっている。
第2期がん対策基本計画では、重点的に取り組む課題の一つとして放射線療法の充実が挙げられるなど、放射線治療への関心も高まっている。
ただ手島名誉教授は、「世界と日本を比較すると、日本は手術や化学療法に偏りがちで、放射線治療適用率が低いのが現状」と指摘。「国内には、放射線治療の恩恵を受けていない潜在的な患者が数多くいるのでは」と危惧する。
さらに、「放射線腫瘍医や医学物理士などの人材も不足気味」と課題を挙げ、「日本放射線腫瘍学会を中心に、患者さんの視点に立って、節度ある施設の配置や、各施設の放射線治療の質の維持に力を尽くしていく必要がある」と語っている。