回復期リハを突き詰め、実践する
2006年に開院した錦海リハビリテーション病院。48床すべてが個室で、回復期リハビリテーション病床のみで運営されている。
入院患者のほとんどが急性期病院からの紹介と、地域の医療機関や住民からの信頼も厚い。4月、2代目として就任し、2018年には米子市で開かれるリハビリテーション・ケア合同研究大会の会長も務める角田賢病院長に話を聞いた。
―職員のユニホームが、すべて一緒ですね。
前院長の井後雅之名誉院長の考えで、開院時から、職種でユニホームを分けてはいません。
われわれは、一人の患者さんを診るチームです。職種に関係なく、みんなフラットとだという意志表明のようなものです。
一般的には、セラピストは"先生"と呼ばれるようですが、当院では医師も含めて、先生とは呼ばず、職員同士では、名字に「さん」を付けて呼んでいます。上下関係なく、患者さんのために、意見を交わすのが当院のポリシー。それを形として出しているんです。
ですから、どの職員も患者さんに対して同じように対応します。例えばリハビリ中に、トイレ介助が必要になった場合も職種に関わらずその時、一緒にいる職員が対応。その仕事は、看護師、あの仕事は介護福祉士というような分け方はしませんね。患者さんの機能、行動を多職種が診ることが重要です。
回復期リハ病棟は、介護保険法施行と同じ年の2000年に創設されました。診療報酬で「多職種協同での治療」が義務化されている唯一の病棟だという特徴があります。その多職種共同の治療をどう実践するかに、病院のリハビリへの考え方が表れます。
―回復期リハ病床だけの運営ですね。
患者さんが自宅に帰ってどう暮らしたいのか。回復期のリハの本質は、患者さんの希望をいかに実現させるかだと思います。
ともすれば「手が動いた」「歩けた」と、機能を回復させることに終始し、改善したら何かができると考えがちです。
しかし、われわれは、どうすれば患者さんがその人らしい生活を送れるのか、機能が回復しない場合は、それをどうカバーしたら求めている生活に近づけられるのか、といった視点を大事にしています。そこが当院の特徴だと考えています。
―具体的な工夫は。
まず、当院は、院内すべてがリハビリの場だと捉えています。
理学療法室などの訓練室を病棟の中に設けました。ですから、看護師やセラピストによる病室から訓練室への送迎が存在しません。
訓練室が詰所や病棟の廊下から見えるので、リハに直接かかわらない看護師にもリハの様子が見えます。つまり、担当者の申し送りだけでなく、患者さんがどれくらい回復しているのかを職員全員が自分の目で把握できます。
病棟の中にあるので、訓練室はそう大きくはありませんし、流行りのロボットもいません。でも、家にロボットはいませんからね(笑)。
病棟や訓練室といった場所を生かしたリハビリなので、実際の病院生活で運動機能をどう般化させるかも、視覚的に見通せます。
リハ室と病室が分かれていたり、看護師がリハを理解していなかったりすると、リハビリと生活で"かい離"が起こることがあります。リハビリ中の1時間は歩けるけれど、それが終わると看護師が食堂に車いすで、連れて行くといったようなことです。
寝食、排泄(はいせつ)の分離化も大切なことですね。
当院の場合、食事をとる場所は全員食堂。病室ではありません。経管栄養の患者さんも同様です。多くの病院の一番の問題は、寝食と排泄の場が一体化していること。リハビリの視点では課題です。
全室個室にしたのも、患者さん一人ひとりの回復度合いで対応できるというメリットがあります。部屋のレイアウトは、患者さんに合わせて変えられます。
場合によっては、昼夜でレイアウトを変えることもあります。夜は動きが鈍る方もいますので、時間によってスムーズな動きができるよう変更しています。
もちろん、昼間の活動はほかの患者さんと一緒にしますが、一人で休みたいときは、個室で静かに過ごせます。感染症対策にも役立ちます。
―注力していることは。
入院初日のカンファレンスは重要ですね。全職種の関係職員が集合し、患者さんを診て、意見を交わします。
もちろん、急性期の病院から申し送りの資料は来ていますが、回復期のわれわれがほしい情報とは違っていることがあります。
患者さん、家族も交えて、治療で何を目指しているのか、飲んでいる薬、合併症など、さまざま情報を共有します。全員で訓練室にも行くようにもしています。
転院当日は、一番事故が多いのです。リハビリ病院に来たので、張り切って、転んでしまうこともあります。全員で診て、多職種が確認することで、トラブルを防止できます。
管理栄養士を中心に食事面も力を入れています。食事の時間には栄養士が食堂に出向き、嗜好調査をしたり嚥下の様子を観察したりしますが、このような光景は珍しいと思います。
最近では、「リハビリテーション栄養」という分野にも目が向けられています。リハビリをする高齢者にとって、どれくらいの栄養摂取が効果的か、といった視点も必要ということです。
患者さんの情報は、電子カルテを通して医師やほかのスタッフも共有しています。それも当院の特徴です。
また、家に戻る前の家屋評価も大事にしています。医師も実際に現地に行っています。そういうところはめずらしいでしょう。
当院には、鳥取県内だけでなく、島根県からの患者さんも多くいます。トイレ、お風呂が外にあるという家屋に住む方もいます。戻ってからの生活をわれわれが把握することは、欠かせないのです。
当院は、社会福祉法人が設立した病院です。このため、急性期の病院をグループ内に持っているわけではありません。患者さんはすべて、他院からの紹介か患者さん同士の口コミです。
つまり、選ばれる病院になるには、入院患者さんの満足度にかかっています。職員一人ひとりが、いい仕事をしておかないと、患者さんに選ばれることは決してないのです。
社会福祉法人こうほうえん 錦海リハビリテーション病院
鳥取県米子市錦海町3-4-5
TEL:0859-34-2300
http://www.kinkai-rehab.jp/