独立行政法人労働者健康安全機構 香川労災病院 吉野 公博 院長

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「治療と就労の両立」がもっと受け入れられる社会に

【よしの・きみひろ】 1977 岡山大学医学部卒業 同脳神経外科教室入局 1978 香川県立中央病院1982 米国ニューヨーク大学留学 1985 香川医科大学医学部非常勤講師 1986 住友別子病院1987 香川労災病院第二脳神経外科部長 2011 同脳神経外科部長 2013 同副院長 2017 同院長

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◎外科を強みに発展

 人口10万人強の丸亀市で、香川労災病院は市民病院的な立ち位置で医療を提供してきました。

 急性期医療は隣接の坂出市、善通寺市の患者さんまでカバーしていたこともあって、手術室の設備や検査機器などの充実を図ってきました。

 MRIが2台、CTが2台、血管造影装置も2台あります。2013年には救急棟を増築。従来のICU6 床から、ICU8床、HCU8床に体制を強化しました。

 地域完結型の医療を期して積み上げてきたこれらの「資産」を生かすために、当院は「急性期疾患とがん治療」にまい進する考えです。

 1956年の開設以来、歴史的に外科を強みとしてきました。手術は年間4000例ほど。麻酔医は10人勤務しており、循環動態や呼吸器のチェックなど、術後の管理もしっかり担っています。

 手術の麻酔だけでなく「ICUとワンセットで管理する」という考え方は、岡山大学麻酔蘇生学教室の伝統です。当院でも、岡山大学の出身者たちにより、その姿勢が徹底されているのです。

 人口減が進む香川県が策定した地域医療構想において、当院の「急性期疾患とがん治療を柱とする」という方向性をどう維持するかが、今後の最も大きな課題だと考えています。

 丸亀市は、坂出市、善通寺市、宇多津町、綾川町、琴平町、多度津町、まんのう町による中讃保険医療圏です。

 地域医療構想では、観音寺市、三豊市からなる三豊保健医療圏とともに、「西部構想区域」として設定されています。

 丸亀市には当院と麻田総合病院、坂出市には回生病院と坂出市立病院、善通寺市には四国おとなとこどもの医療センターがあり、いずれも救急に力を入れるなど、機能に多くの共通点があります。

 病床数の調整が必要とされる中で、各病院が5年先にも今のままで成り立っていけるとは、なかなか考えにくい。

 国の意向を踏まえてすみ分けを考え、また当院の特色を打ち出していけたらと思っています。

◎なぜ、すぐに会社をやめなければならないのか

 昔は、労働災害が本当に頻発していたのです。大きな建造物が計画されると、その規模に合わせて、あらかじめ「○人が亡くなる」と想定されていました。高度経済成長を突き進んでいた時代の日本の労働環境は、それほど危険と隣り合わせだったということです。

 労災病院は工業地帯の近くに開設するケースが多く、当院も坂出市に広がる大型コンビナート工業団地「番の州臨海工業団地」に勤務する方々の医療を主な目的として誕生しました。

 当初は、番の州臨海工業団地とともに、徳島県の吉野川上流ダムの建設現場に診療所を設け、バックアップに努めていたことも大きな任務だったようです。

 国の指導が行き届いたことから、1970年代以降、労働災害は激減しています。その反面、メンタルに関する疾患の増加が認められます。

 今、働く人を支援するために私たちが果たさなければならない役割の一つは、主にがん患者さんを対象とした治療と就労の両立支援です。

 高齢化や人口の減少で労働人口が減っていく中で、病気になった方が治療と両立しながら働くことが、ますます重要になります。

 医師になって約40年、さまざまな患者さんたちと関わってきました。常に感じていたのは、患者さんはかなりの割合で「病気になったら会社をやめる」という選択をするということでした。

 なぜ、すぐにやめてしまうのか、私は疑問でした。病気が治ったり症状が落ち着いたりしたら、再び同じ職場で働きたいと希望する患者さんも少なくないというのに。

 働くというのは、生きがいにつながる面もあるわけです。両立支援はこれからの日本にとって、非常に大きな意味を持っていると思います。

 ただ、患者さんにも会社側に「病気を隠したい」という意識があるのも事実です。

 さらに問題を複雑化させているのは、企業側の理解が進んでいないことではないでしょうか。

 私たちが関与して一緒に患者さんの働き方を考えていきたいと思っていますが、企業によって受け入れる姿勢に格差があり、まだまだこれからという印象です。

 「完全に治ったら復帰を検討する」という、昔からの根強い考え方に縛られているように思います。

 2014年に治療就労両立支援部をスタートさせ、地道な活動を重ねています。

 支援部の担当者が企業側との話し合いの場をセッティングし、患者さんの病状の報告や、どの程度なら働くことができるかなどを丁寧に説明しています。企業側にとっても、会社の業務に慣れている人材を手放すのは損失でしょう。新しい人を育てる余裕がない企業が増えている昨今なら、なおさらのことです。

 支援部が稼働する以前から、私が受け持っている患者さんに就労の悩みを抱えている方がいれば、できるだけ企業側に説明する機会をつくる努力をしてきました。今後も粘り強く、啓発を続けていきたいと思っています。

◎若き人にも積極的にチャンスを

 これまで市民病院的な役割で運営してきたわけですが、待っているだけで患者さんの支持を得られる時代ではないことは理解しています。

 地域のみなさんとコミュニケーションを図るために、もっとフレンドリーな病院として、患者さんと医療者がオープンに付き合っていける関係をつくりたいと思っています。さらに行政や医師会も巻き込んで、より安心できる医療体制の構築を目指します。

 目下のところ、当院は回復期病棟や地域包括ケア病棟などへの転換は予定していません。

 60年を超える歴史の中で、地域の開業医の先生方と培ってきた信頼関係は非常に強固なものです。当院の役割である「急性期疾患とがん治療」に集中していきたいと考えています。

 地域がん診療連携拠点病院として緩和ケア外来を設置しています。がん認定看護師など、専門的な知識でがん患者さんをケアできる人材を配置しています。また、地域の病院や診療所のスタッフとともに研修セミナーを開催。がん診療の連携、技術の向上に努めています。

 後進の育成については、「若いうちにどんどん経験を積んでほしい」と思っています。

 私の専門は脳神経外科。開頭によるクリッピング術もコイル塞栓術も、両方の腕を磨くことを心がけてきました。

 岡山大学脳神経外科では、私は若いころから経験を積ませてもらいました。豊富な臨床経験が現在の土台になっていますから、当院でも脳神経外科をはじめ、外科系の科では若い先生のチャレンジを奨励しています。

 当院にはネームバリューはないかもしれません。しかし、初期研修医の8割ほどが後期研修に残ります。若い人に責任を与える方針が、人材確保に役立っているという手応えがあります。

独立行政法人労働者健康安全機構 香川労災病院
香川県丸亀市城東町3-3-1
TEL:0877-23-3111(代表)
https://www.kagawah.johas.go.jp/


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