2025年の医療提供体制のあり方、それに対する病床機能別病床数を検討する「地域医療構想」がすべての都道府県でまとまった。
策定に必要なデータを作成し、地域医療構想に関わる講演、啓発活動などを続けてきたのが産業医科大学公衆衛生学教室の松田晋哉教授。本書の著者である。
地域医療構想策定の"実務者向け"に書かれたのがこの本だ。従来の医療計画は都道府県単位でデータを分析し、計画を策定してきた。しかし今回は、二次医療圏に相当するやや小さな構想区域で、地区医師会の代表者や保険者を含めた関係者が計画を進めるという、初めての試み。手引書が必要になったというわけだ。
第Ⅰ章では、構想策定に至ったこの国の「医療制度の現状と課題」、第Ⅱ章では「地域医療計画の歴史的背景」など、基礎知識を紹介。
第Ⅲ章「地域医療構想の基本的な考え方」では具体的な実務の進め方、最後の第Ⅳ章「活力ある高齢社会を創造するために」では将来的な考察も提示する。
鹿児島県姶良(あいら)・伊佐医療圏の「地域医療構想策定のための模擬調整会議」の模様を紹介した第Ⅲ章では、各地の医師会長や行政、そして著者も加わった議論も掲載された。
姶良・伊佐医療圏で外来化学療法が浸透しないのは、地域に認定薬剤師や認定看護師が少なく、医療者側にとっても入院で化学療法をする方が安心だから...。伊佐市の医療機関へのアンケートでは看護師の4割、介護職の5割が50歳以上...。
論議の中には、「地域医療構想」で示された数字だけでは見えてこない現場の実情や、地域の課題が浮かび上がってくる。
「医療、とりわけ高齢者医療をコストとみる視点では、適切な地域医療構想は策定できない(中略)。医療が果たす役割を十分認識し、地域医療は構想されるべき」という筆者。さらに、時代に即した体制の構築のためには「医療界の『急性期<回復期< 慢性期』という『医療の格』に関するヒエラルキー意識を改める必要がある」とも指摘する。
医療者も、医療を受ける立場になれば一市民だ。その視点を持ちながら、構想に向き合うことが大切なのかもしれない。(原)