にのさかクリニック バイオエシックス研究会 第31回米沢ゼミ
―医療社会の死生観といきかた― 鐘ケ江 寿美子
日常から切り離された〝死〟 問われる高齢者の死生観
現在は医療社会にある。昭和50年代、日本では病院で亡くなる人が自宅で亡くなる人を超えた。日常生活から「死」が切り離され、病院化社会が到来した。
そして長寿社会の今、高齢者と認定するものには、国民健康保険高齢受給者証(70歳)、後期高齢者医療被保険者証(75歳)、高齢ドライバーの運転免許証などがある。
「高齢者」は長寿社会に登場した新世代とも言える、と米沢慧氏は語り、その「高齢者」の死生観が今回のテーマであった。
文芸春秋が寄稿者146人に対し死生観に関するアンケート調査をした(2017年3月号)。
「A・安楽死に賛成/B・尊厳死に限り賛成/C・安楽死、尊厳死に反対」の3択(※)。回答者60人の結果は「A・安楽死に賛成」33人、「B・尊厳死に限り賛成」20人、「C・安楽死、尊厳死に反対」4人、「回答せず」3人だった。
安楽死に賛成した人の理由の多くは、「人には自分の死を選ぶ権利がある」という主張。「(認知症になったら)周囲に迷惑をかけたくない」という意見もあった。
尊厳死に限り賛成した人は、延命を望まないことと恣意(しい)的に死を選ぶことの差は大きいと述べ、「認知症になった人を安楽死させるのは犯罪」であるという意見。
安楽死・尊厳死ともに反対とする人は「生き物は自然死が常道」とし、そう回答した人の中には、難病と積極的に闘っている人も含まれた。
意思宣言書が会話のツール 家庭医制度普及のオランダ
先日、第6回日本リビングウィル研究会(6月24日、東京)で、シャボットあかね氏から、オランダの生命短縮の可能性をともなう医療的決定および安楽死と意思宣言書(リビングウィル)について紹介された。
オランダは患者の自己決定権の尊重という視点より、患者による医療処遇拒否の尊重や安楽死が合法化されている。特筆すべきは家庭医制度の下、市民は医療的意思決定に関し身近な家庭医によく相談し、リビングウィルは家庭医が保管している。リビングウィルは市民、その家族、医療関係者との重要な会話のツールとみなされている。
「老揺期」の問題、認知症 生命に真摯に向き合う姿勢を
日本の高齢者の死生観は多種多様。気になるのは、健康寿命を過ぎ、何らかの介護を要する時期の、個人および社会の〈いのち〉の受けとめ方である。
米沢氏はこの時期を「老揺(たゆたい)期」と称し、認知症をこの時期の社会問題として取り上げてきた。
最近注目されている「ユマニチュード」でも認知症ケアに感情の交流を重視しているが、認知症の人の死生観に触れるには「知」のレベルからではなく、感情とスピリチュアルな面への配慮を要すると考えられる。
安楽死、尊厳死、自然死そして平穏死(石飛幸三、2010年)。「既存の用語にこだわらず、死生観について自由に議論し、生死(いのち)に真摯(しんし)に向き合う姿勢が私たちに求められているのではないだろうか」と米沢氏はまとめた。
※ アンケートでは「安楽死」を「回復の見込みのない病気の患者が薬物などを服用し、死を選択すること」、「尊厳死」を「患者の意思によって延命治療を行わない、または中止すること」と定義していた