地域包括ケア病床の効率的な活用がカギ
―7月で開院から丸5年。
伊川谷病院に赴任する前は、加東市民病院(兵庫県加東市)、兵庫県立姫路循環器病センター(同姫路市)、鳥取県立中央病院(鳥取市)と、ずっと公的病院に勤めてきました。
私にとって民間病院は初めての経験です。神戸市という地域にも、これまではあまり縁がありませんでした。
当院は2012年7月に開設した、まだ新しい病院です。民間病院に合った経営方法なども学びながら、方向性を探り続けてきた5年間だったと思います。
この地域に必要な医療や、私たちに期待されている役割が明確になってきました。
阪神・淡路大震災(1995年)により、ここ神戸市西区や、隣接する垂水区に災害復興公営住宅が建設されました。神戸市の中心部から多くの被災者が移り住み、定着したことで、人口が大幅に増加したのです。
こうした経緯もあり、西区の人口は市内最多。面積は神戸市の約4分の1に相当します。
今年、神戸市は市内で不足している病床を整備する医療機関を公募。病床が配分されました。
当院は開院時、106床でスタート。この病床整備により、地域包括ケア病床9床の増床が認められました。115床のうち、急性期病床が55床、地域包括ケア病床が60床です。
増床が認められた理由は、当院を利用する患者さんのニーズに表れています。
入院患者さんは、当院と同じ西区の西神戸医療センター、須磨区の神戸医療センター、明石市の明石市立市民病院などでの治療を終えたポストアキュート(急性期を経過した患者)が主体です。在宅復帰に向けたリハビリまでを担います。
次に多いのは、在宅や高齢者施設での急変時の受け入れです。
入院患者さんの年齢層は80歳以上が67%。3人に2人です。この比率は年々、上昇しています。
2025年問題が取りざたされていますが、実感としては、もっと急速に高齢化が進んでいるという印象です。
加東市民病院の院長だったころ、「80歳以上の入院患者さんが50%を超えた」ということで、非常に驚いた記憶があります。それから数年の間に、かなりのハイペースで状況が変化しています。
当院でも時期によっては、80歳以上の患者さんが70%以上を占めることがあります。そう遠くない時期に「70%以上が当たり前」の段階に入っていくでしょう。
―どのような点に力を入れていきますか。
当院の入院患者さんの認知症の割合は、かなり高いと思われます。
認知症かどうかを専門的な医療機関に診断してもらおうにも、予約は2カ月ほど先までいっぱいです。正確な割合は分かりませんが、増えているのは間違いないと思います。
ですから、当院のドクターにも、認知症に関する最低限の知識を備えて対応するよう指導しています。昔のように、自分の専門分野だけに力を注げばいい時代ではない。
私自身、現在の担当は総合診療です。患者さんをトータルに診察できる医師が必要とされているのだと感じています。
こうした背景を考慮して、あらためて当院が進むべき方向を定めると、まずは地域包括ケア病床を、いかにうまく運用するか。ここが最も重要だということが見えてきます。
高齢の患者さんを対象にしたリハビリテーションの目標設定は、一律に自立を目指すことではありません。
個々の状態や生活環境に合わせた機能回復によって、在宅、施設への復帰をいかに効率的に実現するかが求められています。
一方、当院の周辺地域は交通の要衝であることから、事故による外傷のケースなども多いのです。
当院の外来の半数以上は整形外科の患者さんです。集中的にリハビリし、早期に機能を回復できる病院であることも、地域にとって欠かせない役割でしょう。
高齢者を受け入れて適切に治療、リハビリする。急性期の治療にも対応できる。この2本柱を強化していくことが、これからの伊川谷病院が目指すべき姿です。
―グループ内や地域での連携については。
当院の中心はリハビリテーション科、整形外科、内科・循環器内科です。
5階に開設した総合健康管理センターでは、年間8000例の健診に対応。神戸市乳がん検診指定医療機関にも指定されています。健診のデータベースを活用した予防医学の取り組みも進めています。
血液浄化センターや消化器内視鏡システムなども整備し、できる限り当院で医療を完結できる環境づくりに努めています。
当院は基本理念として「医療施設・介護施設の連携を密にして地域に安心と納得、そして安全な医療の提供を目指します」と掲げています。
山陽新幹線の線路で北側、南側に地域を分けると、南側には医療機関が集中しています。しかし、当院がある北側に行くほど、入院施設の数が少なくなっていきます。
60床の地域包括ケア病床を持っている病院となると、神戸市内でもわずかでしょう。
当院の周辺、特に半径4km圏内には、実に30施設ほどの介護施設が密集しています。
各地域の中核病院が呼びかけて毎週のように勉強会が開かれ、当院の職員や、他の医療機関、施設、製薬会社などから参加者が集まっています。
医療のことだけでなく、地域や福祉についても考えるいい機会となっています。施設からの患者さんの数も増えることが予測されますから、連携をしっかりと築いていきたいところです。
医療法人社団菫会は、111床の北須磨病院(神戸市須磨区)、112床の名谷病院(同垂水区)、そして当院の3病院をはじめ、グループ内に介護老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホーム、介護付き有料老人ホームも展開しています。
グループ内での連携を促進していくと同時に、地域に開かれた病院として、みなさんから頼ってもらえる病院になりたいと思っています。
安定経営、医療の質の確保、患者さん・職員双方の満足度の向上。この三つの融合を図ります。
心臓血管外科で高度急性期医療に携わっていた立場から、地域包括ケア病床をメインにした伊川谷病院にきて、視野もずいぶん広がりました。地域の高齢者医療、ケアの「つなぎ役」である当院の責任は、ますます重くなっていくでしょう。
他の地域の「手本」となれる病院を目指すことで、地域での信頼を高めていきたいと思っています。
医療法人社団 菫会 伊川谷病院
神戸市西区池上2-4-2
TEL:078-974-1117
http://www.ikawadani.jp/