来年春、病院を新築移転さらなる急性期医療とがん医療の充実を
和泉市立病院は1963(昭和38)年に公立和泉病院分院として開設。1972(昭和47)年に和泉市立病院として独立した。
2014年には指定管理者制度に移行し、医療法人徳洲会による公設民営の形態になった。
来年春の新築移転が予定されている同院の福岡正博総長(以下、総長)と村上城子病院長(以下、病院長)に話を聞いた。
―2014年に指定管理者制度を導入し、公設民営の病院になりました。
病院長 2004年に開始された新臨床研修制度により、大学から派遣されていた医師が当院から引き上げ、医師不足に陥ってしまいました。
それまでは24時間365日の救急を担っていました。しかし、マンパワー不足により、2006年に救急告示を取り下げざるを得なくなったのです。
徐々に経営が悪化し、さらに、病院の建て替え時期とも重なり、2012年には和泉市が設置した「和泉市立病院あり方委員会」の審議の結果、指定管理制度がふさわしいとの結論が出され、翌年、医療法人徳洲会による指定管理者制度へと移行したのです。
運営が民間になると不採算部門を切り捨てるのではないかと思われるかもしれません。
しかし、公立病院の役割は「地域に必要な医療提供体制の確保」と「急性期の医療を担う中核病院として、最適で質の高い医療を提供すること」です。
たとえ救急・小児などが不採算部門であったとしても、住民に必要な医療を提供し続けることが私たちの使命だと考えています。
総長 地域住民に必要な医療を提供し続けるためには、健全な病院経営が不可欠です。
たとえ民間運営であっても病院とは本来、非営利組織であるべきです。患者さん、地域住民の皆さんに最善の医療を提供するのが義務だと思うのです。
しかし、最善の医療を提供するためには医療機器の充実や人材確保が必要です。そのためには採算性の高い部門を、より充実させ、必要な利益を上げることも重要です。
―来年春に病院を新築移転するそうですね。
総長 来年4月にオープンします。建設費用は医療法人徳洲会と和泉市が共同出資します。
新病院は急性期医療とがん医療の二本柱を目指しています。 診療科数は現在の13 から25以上にまで増やす予定です。また、心血管、呼吸器、消化器、脳・神経、関節・脊椎などの臓器センターを設置する予定です。
病院長 救急車の年間受入れ台数は少ない時期で、年間約500〜600台でした。指定管理になってからは、徐々に回復し、現在は年間約2000台。しかし、和泉市全体の年間の救急車受け入れ台数は約8000台です。将来的には、その半分以上を受け入れられるようにしたいと考えています。
新病院では、専門的な医療をさらにレベルアップさせつつ、救急を含めた急性期医療にも力を入れていきたいですね。
総長 現在、救急の専門医を募集中です。救急科専門医を中心に急性期医療に関係する診療科全科が協力していくことで、より良い救急医療が可能になると考えています。
新病院では、腫瘍に放射線を集中して照射することができる最新の放射線治療装置「トモセラピー」を導入します。当院には放射線治療専任の医師が複数在籍しています。「トモセラピー」の導入で、より高度な放射線治療の提供が可能となるでしょう。
また、がん薬物療法、血液内科、婦人科腫瘍など多くの専門医が在籍することになり、最高のがん治療を受けていただけると思っています。
また当院では2010年に緩和ケア病棟を開設しました。発病初期の段階から緩和ケアチームが関与することで患者さんの苦痛や不安を和らげることに力を注いできました。
新病院の緩和ケア病棟は5階に設置。ベランダに庭を設置するなど、患者さんに癒やしを感じていただけるような工夫をしています。
当院では診断、治療、緩和ケア、在宅までシームレスながん医療を提供しています。新病院になっても、充実したがん医療が提供できるものと確信しています。
病院長 院内保育、病児保育を実施予定です。病院敷地内に保育所を設置し、職員のお子さんをお預かりします。
最近は男性医師の間でも保育所へのニーズが増えています。男女問わず、働きやすい環境を整えなければなりません。
今の時代、ワーク・ライフ・バランスの整備は病院だけでなく、社会全体で求められています。ワーク・ライフ・バランスを整えない組織は生き残れないと思うのです。
バブル期に放映された栄養ドリンクのCM「24時間戦えますか」というキャッチフレーズは現代では通用しません。
医師がキャリアを途絶えさせることなく、働き続けていくことこそが病院にとって大事ですし、今後は、そういう病院しか生き残れないでしょう。
総長 女性医師をはじめ、職員が働きやすい環境を整備することが、病院発展の必須条件だと思います。
病院長 新病院ではスペース拡張が可能なように余裕を持った設計をしていて、将来的には手術室の増設も視野に入れています。
―人材育成で心がけていることは。
総長 医療従事者にはリサーチマインドを持ってもらいたいと考えています。新病院では臨床研究センターを設置。院内の臨床研究、治験を積極的に実施します。
研究を臨床に応用して、質の高い医療の提供に努めたいですね。
また人材育成も重要で、医師、看護師、薬剤師などそれぞれ専門性が高い医療スタッフの育成に力を入れていくつもりです。
病院長 新臨床研修制度が始まった当時、当院は基幹型研修指定病院でした。しかし、医師不足に陥って、救急ができなくなり、研修医が来なくなりました。そこで、いったんは基幹型研修指定病院を返上した過去があります。
今年度、はれて基幹型研修病院として再認定されました。来年度、新病院オープンと同時に初期研修を開始します。
当院は大病院に比べて、市民にとって親しみやすい病院ではないかと思います。一般的な病気から専門的な治療を要する病気まで幅広く関わることも可能でしょう。
また急性期から緩和ケアまで、入り口から出口までに関われるのも研修医にとって魅力だと思います。
若い人が入ってくると病院に活気が出ます。研修内容を充実させて、研修医に選んでもらえる病院にしたいですね。
医療法人徳洲会 和泉市立病院
大阪府和泉市府中町4-10-10
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