医療人は謙虚であれ
那覇市内に病院、介護老人保健施設、地域包括支援センター、居宅介護支援事業所、老人訪問看護ステーションなどを運営する、医療法人禄寿会。地域住民の医療・福祉を支える同法人の髙江洲良一理事長に思いを聞いた。
◎「待ちの医療」から「出ていく医療」へ
2003年、院長として当院に赴任しました。以来、病院で患者さんを待つだけでなく、医療や介護を必要としている患者さんの元に行き、診療したいという思いから、訪問診療にも積極的に取り組んできました。
2014年、理事長に就任後は、私を含む4人の医師とケースワーカー、看護師、栄養士、事務職員などを合わせると、計16人で在宅医療のチームもつくり、訪問診療に力を注いできました。
私にとっての訪問診療は入院患者さんを回診するのと同じような感覚です。
当院では、患者さんの希望があれば、訪問診療時にケースワーカーを同行させて介護保険認定のための手続きを進めたり、栄養士を連れて行って台所で料理を作りながら栄養指導をしたりもしています。
介護する家族の大変さにも目を向け、サポートするための同行です。医療者は、ただ患者さんの病気だけを見ていれば良いというわけではありません。
こうした取り組みを地域の医師会などにも積極的に発信していきたいと考えています。また、在宅医療の現状と課題を、いずれ学会で発表したいと準備しています。
◎切れ目のない医療
在宅医療をする上での当院の強みは、「病床がある」ということです。患者さんが在宅から入院に移行するときにも、患者さんとの関係が途切れない。引き続き主治医として診療することが可能です。患者さんの安心感も違うのではないでしょうか。
また、たとえ同じ病気であっても、患者さんごとに家庭環境は異なります。家族の介護が受けられる患者さんがいる一方で、家族が仕事や子育てに追われているなどの理由で介護してもらえない患者さんもいらっしゃるのです。そうした方々をどれだけカバーすることができるか。われわれの存在意義はそこにあるのではないかと思います。
その方の生活環境、性格なども考慮しながら、患者さん一人ひとりに合わせた最善の治療方法を選択することが重要なのです。
◎患者さんの人生から学ぶ
昨年3月、心臓と腎臓の疾患がある80歳代の女性が入院されました。それまではずっと外来で診ていたのですが、日を追うごとに腎臓の働きが悪くなってきて、入院治療をすることになったのです。1カ月ほどして少し回復したものの、退院できるまでには良くなりませんでした。
しかし、その方が「家に帰りたい」と言うようになり、やがて診察を拒否するようになってしまいました。ご家族と一緒に説得しても納得してもらえず、そのうち腎臓がまた悪くなってしまいました。入院透析が必要な状態でしたが、本人の意志が固く、4月には退院。このまま透析をせずにいたら、命の危険があると判断し、私は週2回、昼休みに訪問診療をすることにしました。
その方には3人の娘さんがいます。1人は地元にいるけれど仕事がある。あとの2人は結婚して中国地方と関西に住んでいる。どうやって介護しているのかと尋ねると、離れて暮らす2人が2週間ごとに交代で沖縄に来て、お母さんの面倒を見ているとのことでした。
これには本当に驚きました。聞けば入院しているときからそのような生活を続けていたというのです。それほどまでに一生懸命に介護をされているご家族の様子を目の当たりにした私は、入院中、病気をうまくコントロールすることができなかったことを、心から申し訳なく思いました。
私が週に2回、30分程度訪問診療をすることなんて、医者として当たり前のことです。ご家族の苦労とは比べものになりません。
理事長になり、病院運営と診療に追われて「忙しい」「疲れた」と思っていた自分を恥ずかしく思いました。
ご家族の献身的な介護によって、最初のころは、「食べたら元気になりそうだから、食事はとらない。早くあっち(あの世)に行きたい」などと言っていたその方も素直に食事をとるようになり、どんどん元気になりました。
今は、ご家族に任せても安心できる状況になりました。しかし、私の胸の内には「まだまだ私に診せてほしい」という気持ちが強くあるので、今も2週間に1度、様子を見に行っています。
在宅医療をしていると、患者さんのいろいろな生きざまを見ることができ、とても勉強になります。
机上の学問だけでなく、人の人生から学ぶことは多い。生涯学習というのはこういうことを言うのかもしれませんね。体が動く限りは、在宅医療を続けていきたいと考えています。
医療法人 禄寿会 小禄病院
那覇市字小禄547-1
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