独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター 橋本 学【認知症疾患医療センター長・リハビリテーション科医長・高次脳機能研究室長】

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早期発見・早期治療が鍵

【はしもと・まなぶ】 山口県立下関西高校卒業 1991 佐賀医科大学(現:佐賀大学医学部)卒業 同附属病院内科研修医 1992 山口大学医学部附属病院精神神経科研修医 1996 同大学院博士課程修了 季朋会王司病院医師 1999 山口大学医学部附属病院精神神経科助手 2003 同併任講師 2006 産業医科大学医学部リハビリテーション医学講座医師 2008 国立病院機構肥前精神医療センター精神科医長 2012 同認知症疾患医療センター長 2014 同リハビリテーション科医長

 1945(昭和20)年、佐賀平野の東部、自然に恵まれた東脊振村(現:吉野ケ里町)に「国立肥前療養所」として開設した、独立行政法人国立病院機構肥前精神医療センター。精神科病棟の開放や患者の社会復帰促進にいち早く取り組んできた。近年では高齢者の精神疾患、高次脳機能障害の診療にも力を注ぐ。認知症疾患医療センターの橋本学センター長に聞いた。

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◎増加するMCI

 高齢者の精神神経疾患で最も多いのが認知症関連の疾患です。最近では「MCI(軽度認知障害)」に注目が集まっています。認知症予備群ともいわれ、一部は認知症に移行します。MCIの段階で、確実に認知症への移行を予防する方法は、現段階ではありません。しかし、認知症に至る時期を遅らせることは可能だと考えられており、当院では、包括的な治療に取り組んでいます。

 一つは薬物治療です。MCIには、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症のような、保険適用のある治療薬がありません。現在は、希望した方に、現行の抗認知症薬を投与し、各個人での効果や安全性を確かめている状況です。

 二つ目は非薬物治療です。当院では2015年、MCIの方を対象にした認知症予防リハビリプログラム「ひぜん☆いきいき脳活クラブ」を始めました。認知症になりにくい食事の指導や有酸素運動、筋力トレーニング、脳トレなどを総合的に行うことによって、認知症を予防、あるいは遅らせる狙いです。

 このようなプログラムは、カロリンスカ研究所(スウェーデン)でも研究され、MCIの人たちの認知症への移行リスクを減らす効果があるとの結果も出ています。

 同時に、アルツハイマー型認知症や脳血管性認知症の危険因子となる糖尿病や高血圧などがあるMCIの患者さんの生活習慣病治療も重要です。

◎認知症薬物治療の現状

 世界で最も多い神経変性疾患はアルツハイマー型認知症です。研究が進んでいますが、まだはっきりとした原因は解明されていません。ただ、アルツハイマー型認知症の人の脳には、「老人斑」と「神経原線維変化」という二つの病理変化が起こることがわかっています。

 老人斑は、アルツハイマー型認知症の初期段階で、大脳皮質に現れる黒いシミのようなものです。この老人斑は、神経細胞毒性の強いアミロイドβタンパク(以降:Aβ)、主にAβ42が神経細胞外に沈着したものです。脳内にAβがたまると、神経細胞が変化し、脳の認知機能が低下して、脳の萎縮が進行します。

 神経原線維変化は、リン酸化タウタンパクが神経細胞内に蓄積し、糸くずのように見える現象で、これが増えると、正常な神経細胞は減少し、正常な機能を失ってしまうのです。

 現在、アルツハイマー型認知症の治療薬として、次の2種類の研究が進められています。

 一つ目は、Aβの生成を阻害する薬です。Aβは、βセクレターゼとγセクレターゼという2種類の酵素の働きによって産生されます。

 近年、この2種類の酵素の、それぞれの働きを阻害する薬の研究が進められてきました。γセクレターゼ阻害薬の開発は失敗したため、現在は、βセクレターゼの働きを遮断する薬の研究が進んでおり、治験で良い結果も報告されています。

 二つ目は、Aβを分解・除去する薬です。Aβの分解には、ネプリライシンという酵素の力を高めることが有効とされています。新薬の研究が進んでいますが、まだまだ実際に使用できるレベルではありません。

 また、Aβを除去する方法として、抗Aβ抗体によって、脳内の免疫細胞の働きを活性化させる薬があります。これは、活性化したミクログリアにAβを貪食させて除去する仕組みです。この薬も治験によって有効性が認められています。

◎認知症予防と早期発見のために

 今は、一部の専門医療機関でPETを使って、脳内にAβがどの程度たまっているかを調べられるようにもなりました。髄液検査でもAβの沈着の程度が調べられます。検査をしてみると、まだ自覚症状はないけれど、すでにAβがたまっている人がいらっしゃいます。

 脳の働きは正常で、認知機能も落ちていないけれど、脳内では認知症が密かに進行している。その段階から早期治療をするというのが、認知症領域における最先端の考え方です。先に述べた2種類の薬もMCIの段階で用いることでさらに有効性が高まると考えられています。

 近ごろでは、認知症に関する報道などが増え、早期に受診される方が増えてきました。

 私たちも、病院周辺の市町で、認知症の予防と早期発見を目的とした物忘れ相談を1〜2カ月に1度のペースで開いています。当院がある吉野ケ里町は、杠(ゆずりは)岳文院長が担当。隣の神埼市とみやき町には私が出向いています。

 相談時間は1人あたり40分程度。完全予約制です。ご本人がいらっしゃった場合は、その場で簡単なスクリーニング検査をし、異常が見つかれば専門医療機関の受診を勧めています。

 最近は、相談に来る方のほとんどが軽度認知症かMCIです。早期認知症患者の掘り起こしにつながっているのではないでしょうか。

◎ためらわずに受診を

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 昔と違って今は「日時や曜日がわからなくなる」「金品を盗られたと思い込むという妄想が起こる」など、認知症の初期症状が出現してから病院に行く時代ではありません。何らかの自覚症状が出た段階で、受診するべきだと思います。

 認知機能が正常な段階で、認知症予備群を見つけるためにはPET検査や髄液検査が必要ですが、MCIなら、記憶力の低下など、本人にも自覚症状がある場合があります。それを、周囲の人が「年を取ったら、みんなそうなるよ」などと慰めてしまうと、治療の機会を逃すことにつながってしまいます。

 本人にとっては、「MCI」「認知症」と診断されるのは嫌なことかもしれません。でも、今は進行を抑える手段も出てきています。ある程度の治療や対策を取ることで、元気な状態で生活できる期間が延びるのです。

 本人だけでなく、家族、親戚、友人のためにも、気になることがあれば、ためらわずに専門の医療機関を受診してほしい。そのことを、地域に訴え続けていきたいですね。

独立行政法人 国立病院機構 肥前精神医療センター
佐賀県神埼郡吉野ケ里町三津160
TEL:0952-52-3231(代表)
http://www.hizen-hosp.jp/


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