京都府立 洛南病院 山下 俊幸 院長

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自分らしい生活の中で認知症と付き合っていくために

【やました・としゆき】 東京学芸大学附属高校卒業 1980 京都大学医学部卒業 1982 公立豊岡病院組合豊岡病院 1989 京都大学医学部附属病院 1997 京都市こころの健康増進センター所長 2011 京都府立洛南病院院長

 職場でのストレスチェック義務化など、「メンタルヘルス」は国民的な関心事になった。うつ病、依存症、認知症と、課題やニーズの多層化が進む。京都府内唯一の公立精神単科病院・洛南病院の山下俊幸院長が提唱する、患者を支えるために必要な仕組みとは。

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◎国民の理解の深化が課題

 精神科医療に対する「特別な医療」というイメージを払拭(ふっしょく)したい。他科と同じように、必要なときに、誰もが安心して受診できる医療として根付かせたい。

 そのような時代を目指し、30年以上、精神科医療に携わってきました。

 私が医師になったころと比べると、精神科のクリニックなどもずいぶん増えました。しかし、他の疾患と同列で語られているかというと、決してそうなってはいない。「閉鎖的」というイメージは、依然として残っていると感じます。

 1945(昭和20)年に開院した洛南病院のあゆみは、そのまま戦後の精神科医療の発展の歴史と重なっています。京都府内で唯一の公立精神単科病院として、他の医療機関では難しい、先駆的な医療に積極的に取り込んできました。

 近年は、2002年、京都府南部地域の精神科救急医療システムの基幹病院に指定。2006年、中学生以上、18歳以下に限定した思春期外来を開設しました。思春期特有の精神症状や問題行動、発達障害(自閉スペクトラム症など)が対象です。

 2011年には認知症疾患医療センターに指定。2013年、若年性認知症外来を始めました。

 時代とともに変わる精神科医療の「いま」を府内に発信する、先導的な役割を果たしてきたのではないかと思います。

 災害時の精神科医療のあり方や重要性の捉え方も大きく変化しました。

 私は阪神・淡路大震災(1995年)、東日本大震災(2011年)、昨年の熊本地震と、3度、大規模災害の現場で被災者の心のケアにあたりました。

 阪神・淡路大震災のころは、混乱の中、何をどうしていいのか、まったく分かりませんでした。ただ、災害現場では精神科医療が必要だということは認識しました。

 東日本大震災、熊本地震を経て、精神科を含めた各医療チームの働き、連携は、格段に整ってきたと思います。

 当院では災害医療の研修会などの機会を重ねています。支援を求められたらすぐに応えることのできる体制づくりを進めているところです。

 昨年8月には、当院内に「京都府こころのケアセンター」が開設されました。府内全域の専門医療機関のネットワークづくりを目指しています。

 思春期、依存症、若年性認知症。近年クローズアップされている問題に対し、府内のネットワークを充実させ、情報共有、精神保健福祉士や臨床心理士による電話相談、適切な医療機関への紹介などの機能を有しています。

 頼る人がいないという患者さんの受け皿となり、同時に関連する医療機関の連携を強化することがねらいです。

◎初期からの支援が大切

 患者さんは、通院者、入院者ともに、少しずつ増加傾向にあります。

 総数が増えているかどうかは定かではありません。ただ、在宅移行で精神疾患がより身近なものとなり、ニーズが高まっているのは間違いないでしょう。特に超高齢社会を迎え、認知症をめぐる問題は着実に拡大しています。

 認知症になったら、人生は終わりでしょうか。

 そんなことはありません。早期からしかるべき支援を受けることで、先の見通しが立ちます。

 ポイントは「自分らしい生活」を営めるかどうかです。若年性認知症の場合は、お仕事をなさっている方も多い。認知症を発症しても、その状態に合わせて働ける支援体制をつくっていくことが重要です。

 「ケアや支援の道筋」が分かれば、患者さんも、ご家族も希望が持てるでしょう。

 避けなければならないのは、なんのケアもなく症状が進行し、ご家族が疲れ果ててしまうこと。一緒に住めなくなり、入院か施設に預けるかしか選択肢がなくなってしまうことです。

 認知症の患者さんが、しばしばパニックを起こしたり、徘徊(はいかい)したり、介護に抵抗したりといったトラブルを起こしてしまう背景には、自身の認知機能が低下していくことへの不安があります。

 認知機能が低下しても、周囲がサポートすることで、患者さんの不安も緩和されます。認知症の進行を完全に止めることは、残念ながら難しい。それでも不安をできるだけ取り除くことで、安定した生活を目指すことは可能なのです。

 数年前、当院のテニス教室に参加していた若年性認知症患者さんと、そのご家族が中心となった活動が始まりました。当事者で支え合うグループ「レモンの仲間」として交流の輪を広げています。現在、テニス以外にも、卓球や絵画などの活動があります。

 この動きが一つの後押しとなり、宇治市は「認知症にやさしいまち・うじ」を宣言。さまざまな取り組みを活発化させています。

 認知症の患者さんに茶摘みに参加してもらったり、認知症カフェが市内に整備されたりしています。

 当たり前のことですが、認知症の患者さんも買い物に出かけたり、タクシーに乗ったりします。普通の生活を送っているのです。

 地域ぐるみで認知症の患者さんを支えていこう。町で自然に暮らしてもらおう。そんな意識が、少しずつ浸透しているのではないかと思います。

 こころのケアセンターでもスタッフを充実させて、就労支援にも活動を広げることができればと考えています。

◎先進医療にも注力

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 当院としては、やはり府民の心の健康を守るよりどころであり続けたいと思います。子どもから高齢者まで、メンタルヘルスの不調から重度の精神疾患まで。みなさんに、気軽に足を運んでもらえる病院を目指します。

 引き続き先進的な医療の提供にも力を注ぎます。

 当院では、うつ病の診断補助として「光トポグラフィー検査」に取り組んでいます。脳の血流の変化を測定してうつ病、躁うつ病などを鑑別するもので、将来的に子どもの発達障害の診断などにも応用される可能性があります。

 一定期間、うつ病の薬物治療を続けていても改善が見られない方に向けて「反復性経頭蓋磁気刺激法(rTMS)」の臨床研究を進めています。rTMSは、微弱な電流で脳の神経を刺激して、脳機能を調整する治療です。

 他に、統合失調症やうつ病に関する京都大学との共同研究にも取り組んでいます。

 在宅支援部門の強化も、これからのテーマです。入院はできるだけ限定的なものにして、在宅で治療や支援が受けられる仕組みをつくっていきたいと思います。

京都府立 洛南病院
京都府宇治市五ケ庄広岡谷2
TEL:0774-32-5900
http://www.rakunan-hosp.jp/index.html


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