岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経外科学教室 伊達 勲 教授

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臨床と研究の循環が強み

【だて・いさお】 1982 岡山大学医学部卒業 1988 米国ロチェスター大学医学部留学 1990 岡山大学大学院医学研究科修了 1991 岡山大学脳神経外科助手 1999 同講師 2003 同教授 2011 岡山大学病院副院長

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◎6領域を底上げ

 脳血管障害、脳腫瘍、脊椎・脊髄、頭部外傷、機能、小児。当脳神経外科学教室の方針は、脳神経外科の六つのサブスペシャリティーの専門医を偏りなく育成することです。

 当教室の年間の手術件数は約600件で、全国の大学病院の脳神経外科でもトップクラス。先端技術の導入にも積極的です。

 強みの一つは、てんかんやパーキンソン病を対象とした機能的脳神経外科の分野です。

 岡山大学病院は、初代小児神経科教授の故・大田原俊輔先生が命名した大田原症候群(新生児期から乳児期早期に発症する重症のてんかん)という病名があるように、てんかんの治療に定評があります。

 私がセンター長を務めるてんかんセンターは、脳神経外科、小児神経科、神経内科、精神科神経科が中心となり、科の垣根を越えた診療に取り組んでいます。

 パーキンソン病の定位脳手術の件数は年間で35件ほどに上り、1980(昭和55)年からこれまでの累計は約800例。国内最多の実績です。

 小児の分野では小児頭蓋顔面形成センターで、子どもたちの頭蓋や顔面の変形疾患の治療を進めています。

 対象疾患は例えば、頭蓋骨縫合早期癒合症です。新生児の頭蓋骨には頭蓋骨縫合というつなぎ目があり、脳の成長に合わせて広がるようになっています。

 しだいにつなぎ目が癒合して強固な頭蓋骨が形成されるのですが、早期にくっついてしまい、脳の発育が妨げられるのが頭蓋骨縫合早期癒合症です。多くは生まれながらに発症しています。

 脳神経外科、形成外科、矯正歯科を軸にしたチームで「MCDO法(多方向性頭蓋延長術)」による手術を重ねています。頭蓋骨縫合早期癒合症を治療できる医療機関は、全国的にもごく限られています。

◎基礎研究はなぜ重要か

 私は脳神経外科医の教育で、基礎研究で培われる能力を重視しています。

 日本の大学医学部の基礎研究論文数は、減少傾向にあるのが現状です。

 かつてはアメリカに次ぐ2番手の位置につけていましたが、論文を量産する中国が躍進し、ドイツ、イギリスに追い抜かれました。フランスや韓国にも追い上げられています。

 日本のランクが下がる中にあって、当教室は一定の論文数の維持に努めてきました。年間20本ほどの論文を発表。これまでに、日本脳神経外科学会の奨励賞受賞者を10人以上輩出しています。

 初代教授の西本詮先生、2代目教授の大本堯史先生も、基礎研究に基づいた臨床の重要性を説いておられました。当教室の伝統と言えるでしょう。

 基礎研究で培われる能力で一番大切なのは、「能動的な研究計画の作成能力」だと考えています。

 臨床研究は患者さんが来たらスタートできるという意味で、受動的な面があります。ある研究をしたいと思っていても、できるとは限らない。

 基礎研究の場合、自分で計画を立て、仮説を検証していくことができます。例えばパーキンソン病のモデルラットを2群にわけて、細胞移植とシャム手術(擬似手術)を比較する。そのような研究を、自分の意志で進めることができるわけです。

 科学的・論理的な思考力、問題解決能力なども、基礎研究で培うことができる大切な能力でしょう。リサーチマインドにあふれたアカデミックサージャンが、当科には多く在籍しています。

 研究心を持って臨床の場に立つことで、次の治療につながる、新しい発想の広がりも期待できると思うのです。手術を数多くこなし、研究にも意欲的に取り組む人材の育成は、大学の使命だと思います。

 私は日本脳神経外科学会の同時通訳団団長であり、日本医学英語教育学会の理事長でもあります。

 「英語で論文を書こう」「英語で研究成果を発表しよう」と呼びかけています。最先端の情報を得るのも、こちらから発信するのも、アカデミズムでは英語が不可欠です。

 読めて、書けて、話せる。語学力に長けた若手の育成も私のテーマです。

◎デバイスとITを使いこなす

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複数のモニターを駆使して術前・術中の患者の状態を確認

 2003年に3代目教授に就任して以降、私自身の得意分野を生かし、「デバイスとITを使いこなす脳神経外科」を掲げて環境整備に力を入れています。

 この10年ほどの、術前シミュレーションをはじめとする技術の進化は素晴らしい。

 患者さんの血管、神経、脳、腫瘍がどのような状態にあるのか、手に取るように分かります。

 動脈瘤(りゅう)のクリッピング術(開頭手術)前の血管の3D画像などは本当に見事。開頭すると「シミュレーションそのまま」という感覚です。

 当科のほとんどの手術では、手術部位を示してくれるナビゲーションシステム、脳神経のモニタリングを活用。リアルタイムで手術の進行状況を確認できる術中MRIも導入しています。

 コンピューターと連動した複数のモニターを駆使して、術中のさまざまな情報を把握。3Dモニターを二つの手術室で並行して利用している脳神経外科は、当科の他にはほとんどないと思います。

 手術室の環境整備は、最先端の治療を目指すと同時に、「脳神経外科医が学びやすい手術室」を強く意識したものです。学生や研修医の教育の場としても機能しています。

 昨年、私が学会長となって開いた「第45回日本脳卒中の外科学会学術集会」(2016年4月14日〜16日・札幌市)のタイトルは「年齢を考慮した脳血管外科」でした。

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 高齢の患者さんの増加は、脳神経外科の分野でも大きな課題です。以前なら65歳の患者さんの手術は、かなり難易度が高いという認識でした。現在は75歳の患者さんの手術も珍しくない。

 フレイル(高齢者の虚弱)を考慮した新たな治療の基準値の策定を、学会でも進めているところです。

 研究では若いラットを用いた実験が主流でしたが、今後は高齢の動物による実験の重要性も高まるでしょう。研究に基づいた臨床の必要性も増すに違いありません。

 頭蓋底の深い術野の手術のポイント。その一つは「骨をどう削るか」。脳にとって、いかにやさしい削り方をするかです。

 手術を計画する際に、私はいつも頭蓋骨の模型を眺めて、「どこをどう削ろうか」とイメージしています。当日も持ち歩いていますから、マスクをしていても、すぐに私だと分かります。より低侵襲で、正確に治療するには。脳神経外科の未来を考え続けていきたいと思っています。

岡山大学大学院 医歯薬学総合研究科 脳神経外科学教室
岡山市北区鹿田町2-5-1
TEL:086-223-7151(代表)
http://neuro.hospital.okayama-u.ac.jp/home


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