皮膚科疾患治療における国内有数の診療・研究拠点を目指す
新教授に聞く―山口大学皮膚科学講座
―今年1月、教授に就任されました。これまでの研究活動は。
皮膚疾患のなかでも、主に遺伝性皮膚疾患について診療と研究を続けてきました。
いまから15年ほど前に研究を始めた当時は、遺伝性皮膚疾患の原因についてほとんど解明されていませんでした。患者さんに対して診断名は伝えられるものの、原因やどんな機序で起こるかといった病気の本質的な部分が説明できない。ずっともどかしく思っていて、原因を明らかにしたいという思いで研究を開始しました。
その当時、この分野について日本で研究しているだけではなかなか進展しませんでしたので、2006年から4年間、アメリカのコロンビア大学に留学させていただき、精力的に研究を行いました。良い研究仲間に恵まれたことや、なによりも運が良かったこともあって、いくつかの病気について原因を明らかにして帰国しました。
―具体的にはどのような疾患について研究されているのでしょう。
私の母校である新潟大学は、毛髪についての専門研究を30年以上続けています。遺伝子疾患でも、毛髪になにかしら症状が出る疾患が数多くありますので、私は遺伝性毛髪疾患を主な研究テーマにしてきました。
毛髪の遺伝性疾患といったときに、一般の方は男性型脱毛症がすぐに思い浮かぶと思います。しかし、私が研究しているのは生まれつき毛髪が少ないとか毛髪が縮れているなどの生まれつきの毛髪疾患で、その原因についていくつか明らかにすることができました。
毛髪や皮膚についてのまれな遺伝性疾患について原因がわかると、それらの遺伝子は正常な皮膚の発生などにも関係していますので、いわゆるコモンディシーズといわれる一般的な病態の解明や治療法の開発に貢献することができます。
―山口大学に来られたきっかけは。
前任の皮膚科教授である武藤正彦先生の専門は遺伝学でした。そのなかでも皮膚遺伝学で私と同じような研究をされていたのです。研究するうえでそういったバックグラウンドがあれば非常に有利ですので、ちょうど教授選が行われていたこともあって応募し、運よく採用されたのです。
私が産まれたのは新潟県長岡市ですが、じつは戊辰戦争の際に当時の長岡藩が薩摩と長州にひどく痛めつけられた歴史があるんです。山口大学に行くと知った親は「なんでよりによって長州に行くんだ」とぼやいていましたが、私自身はとくに抵抗感はありませんでした。住んでみると非常に温暖で雨も少なく、雪も降らない。食べ物もおいしくて暮らしやすく、とても満足しています。
―臨床にも立たれているのですね。
現在、教室員が私を含めて6人しかいないため、月曜日から金曜日までずっと臨床に出ています。おのずと、研究活動は夜中になってしまいました。
一般的に皮膚科疾患で多いのは、しっしんや水虫などです。これらの疾患については通常、開業医の先生方が診療にあたります。大学病院に来る患者さんは重症の方が多く、薬のアレルギーが重症化したものや自己免疫性疾患で皮膚に症状が出たもの、さらに全身のやけどの方が来院します。あとは皮膚がんが多いですね。日常的に多くの患者さんの治療に携わっており、手術室にも入っています。入院患者さんは常に約20人 担当しています。
―研究と並んで医師の育成にも目配りが必要です。どのような医師を育てますか。
医師である以上、患者さんを第一に考えなければなりません。したがって、常に患者さんの立場に立って考えられる医師を育成することが、私に課せられた使命です。私はあまり怒るタイプの人間ではないのですが、患者さんへの対応が悪い人間にだけは厳しく指導しています。
常に患者さんのことを考え、最善の医療を提供することが医師の役割です。勉強もそのためにするのであって、研究も患者さんの病気を治すことが究極の目的です。
患者さんに誠意をもって接し、ベストな治療を提供すると同時に、教科書に載っていないことがあれば自分で研究して明らかにする。そうして得た成果を患者さんに還元する意欲も必要です。誰かの指示を待つのではなく、自主的に勉強や研究を続けられる医師を育てることが、結局は患者さんの利益になるのだと思います。
山口大学の学生は非常に優秀ですが、残念ながら自主性に欠けているように思います。難しい医学部入試を突破するために、多くの学生は小学生の頃から何年も塾に通い続けて医学部に入ってきます。常に与えられた環境で養成された学力であることが自主性を奪っているのかもしれません。もう少し野性味のある学生が欲しいですね。
―来年は新専門医制度が始まります。なにか準備をされていますか。
来年始まるかどうかはまだわからないとみています。皮膚科の学会は新専門医制度に猛反対しており、実施が延期される可能性は大いにあります。
皮膚科が反対しているのは、新専門医制度が地方大学にとってマイナス面が大きいからです。大学病院だけではなく県内の病院でも研修を積むことが求められると、研修指定病院がほとんどない大学はプログラムを組むこと自体が不可能なのです。そうすると研修制度が充実した都会に医師が流れることになり、せっかく山口大学を出たのに別の地域で研修して二度と山口には戻ってこない。そうなるのは目に見えています。
―今後の課題は。
診療活動をとにかく活性化させたいですね。今後は、まだ設置できていない専門外来を実現して大学としての「売り」を作りたいと思います。この病気なら山口大学が一番だ、といった強みを持たないと入局者も集まらないし、大学に人も残らないでしょう。
専門性を持った医師を養成することが重要ですが、それは研究でも同じことです。私自身は、遺伝性疾患の解析拠点としての存在感を高めたいと思っています。遺伝性皮膚疾患であれば山口大学、といった評価を高め、全国や世界中から試料が集まるような体制を構築したいと思います。
山口大学大学院 医学系研究科 皮膚科学講座
山口県宇部市南小串1-1-1
TEL:0836-22-2111(代表)
http://www.med.yamaguchi-u.ac.jp/medicine/chair/clinical_09.html