質が高く、安心・安全な医療を継続して提供する急性期病院へ
―院長に就任して1年がたちました。
浜松医科大学の今野弘之学長は常々、浜松医大は研究だけでなく地域医療への貢献が重要な使命であると強調されています。背景には県内の医師不足があり、大学として地域医療を支えることは県民の願いでもあります。
私も微力ながらそのお手伝いをしたいと、4年前に大学を辞して当院に副院長として赴任しました。
院長就任から1年が経ちましたが、当初思い描いていた目標は、まだまだ達成できていません。4年前に副院長として赴任し、新人教育とがん診療連携拠点病院としての機能をより充実させることに力を割いてきました。院長となって、まずはそれをさらに進めようと考えています。
教育に関しては初期研修医の教育だけでなく、大学等の新専門医プログラムと連携して専門医を育成できる環境を構築していきたいと思います。さらに、昨年設置した教育センターを中心に、医師だけでなく幅広い医療職に対して、認定資格取得の際に病院側がバックアップする規定を明確にしました。これを基盤に、個々人の専門性向上を図るシステム作りを進めています。
4月には県内で11番目の救命救急センターに指定され、志太榛原2次医療圏では初の3次救急を担う病院となりました。実現するにあたっては、20床の救急センターを新設して救急専門医をお招きしました。また、救急で症例数が増加すると考えられている脳神経外科などの診療科のスタッフも併せて増員しました。
看護師についても人数を補強して研修を重ね、救命救急病棟に対応できる看護師スタッフを養成しています。前院長である毛利博事業管理者がこれまで提唱してきた、がんと救急を重点事項として取り組もうという象徴的な取り組みであり、今後さらに救急搬送数や緊急入院も増えて、地域に貢献できると考えています。
医療現場では多職種連携が必須になっていますが、薬剤師は薬の処方をするだけでなく、病棟業務として入院患者さんへの説明や薬剤管理も大切ですし、必要に応じて看護師や栄養士に薬効や副作用について情報提供するなどといった、積極的なコミュニケーションも求められてきます。
さらに、がんの化学療法など日々進歩する治療法などについても、医師と対等に用量や副作用についての意見まで言えるようにならないと真の専門家とはいえないでしょう。
チーム医療ということでいえば、院内の連携だけにとどまりません。「病院完結型」から「地域完結型」への進化を目指す立場から「病院と地域を合わせたチーム」という考え方が重要になります。つまり、病院と訪問看護、あるいは医師会との地域連携の推進です。
これまでは藤枝市内に一つしかない総合病院なので、患者さんの看取りまで当院が担当することも多くありました。しかし、これからは機能分化が進みますので、救急は当院で診て、容体が落ち着いたらそれぞれの地域の診療所やクリニックにお願いする。またなにか困った事態があれば当院に来てもらう、そういった患者さんの行き来が多くなるでしょう。
地域の医師会の先生方とは、定期的に地域医療の連絡協議会を開いています。もともと病院と医師会の先生方との連携は良好であり、医師会の病診連携室が病院内に設置されています。地域完結型医療を推進するための素地は十分にあり、今後は医師会の先生方と具体的方策を話し合っていくことが肝要だと思います。
緊急で入院した場合でも、住み慣れた地域での生活にできるだけ早く戻れるように、退院困難な要因があるかどうか、各病棟に退院支援職員を配置して3日以内に把握しています。
入退院管理センターが主導して家族と患者さんを交えて話し合いの場を持つようにしていますが、地域で引き受けてもらうためには、ただ出先を決めるだけでは不十分です。それだけでは患者さんは追い出されるのではないかと不安になりますので、シームレス(つなぎ目がなく)に連携していくためには具体的な説明が必要です。
引受先のことをきちんと説明したうえで、退院の前には引受先の看護師などの職員が来て詳細な説明をする。まだ実現できていませんが、退院後には病院スタッフが訪問して患者さんの様子を見にいくことができればよいと考えています。ご本人も落ち着くだろうし、通院が困難なオストメイト(人工肛門や人工ぼうこうの保有者)の患者さんも安心できると思います。
昨年の診療報酬改定では、こういった在宅医療に向けたアフターフォローに点数が付くようになりました。点数配分をみるにつけ、厚労省が退院後の手厚いフォローを重視していることが読み取れます。厳しいといわれる診療報酬改定ですが、地域完結型医療を推し進めるための改定と考えれば、今後はどの病院もこういった改定を見据えた診療に力を入れる必要があると考えています。
在宅医療などでは訪問看護ステーションの役割がますます大きくなりますので、関係を密にしていく必要があります。当院の看護師長はすでに複数の訪問看護ステーションへ見学に行っています。逆に訪問看護ステーションの方も病院に見学に来ていただき、在宅に向けたシームレスな退院支援となるよう努力を続けていきます。
さらに看護師だけでなく、現状では当院の理学療法士や管理栄養士の数に余裕がないものの、増員ができれば地域の管理栄養士として出向させたり、地域の療法士として当院から派遣するなど、さまざまなことが可能になると思います。お互いに顔の見える関係を構築して、患者さんが早く地元に戻れるような環境を作っていきたいですね。
―今後の課題は。
まずは人材確保が課題になります。志太榛原2次医療圏でみると、医師数が人口10万人当たりでは154.8人であり静岡県全体の193.9人を大きく下回っています。したがって各診療科の医師を補強することは最優先で取り掛からなければなりません。
幸い、少しずつ充足してきていますが、まだ完全には充足していません。なかでも藤枝市は、国内で少子化問題が叫ばれる中、子どもの人口が増えている珍しい地域ですので、小児科や産婦人科といった診療科の需要に今後も応えていく必要があります。市立病院はどんな診療科の医師でもいる、という市民の安心感を担保するためにも早急に手を打ちたいですね。
来年の診療報酬改定は非常に厳しいものになると予想されています。一つは、病床機能報告制度が強化され、地域医療構想に沿った改定になると言われていることです。当2次医療圏でも急性期病床を減らす必要があります。診療報酬改定もそれを見据えたものになるであろうことを考えれば、看護必要度や重症度について厳しい評価がされるだろうし、総体でみれば急性期病院として生き残ることが厳しい時代になるでしょう。
これを乗り切るために、看護師や病棟薬剤師が必要であればそこを拡充していく。そうすると人件費の割合が高まりますのでそれをどう抑えるか。病院職員が一丸となって問題点をひとつずつ解決していかなければなりません。時間外労働の削減も必要になるでしょう。
私の専門は消化器外科です。手術では先を予見することが大切であり、それによって必要な手立ても予想できる分、ある意味では勝手がわかっています。新たに取り組み始めた病院運営は先が見えないのでかじ取りが難しいですね。
国の方針や地域の医療状況を考慮に入れながら、医療圏住民の健康を守るために力を尽くしたいと思います。
藤枝市立総合病院
静岡県藤枝市駿河台4-1-11
TEL:054-646-1111(代表)
http://www.hospital.fujieda.shizuoka.jp/