香川県立中央病院 へき地医療支援センター 部長 香川県健康福祉部医務国保課 主幹 岩井 敏恭 医師

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2016年度「へき地医療貢献者表彰」 患者目線、現場発の医療を目指す

【いわい・としやす】 香川県立高松高校卒業1979 自治医科大学医学部卒業 香川県立中央病院研修医 1981 土庄中央病院 1984 琴平保健所 1991 香川県予防医学協会 2005土庄町豊島診療所 2008 香川県立中央病院へき地医療支援センター部長 2013 香川県健康福祉部医務国保課主幹兼務

 瀬戸内海沿いに116の離島を持つ香川県。そのうち24の島に約3万7千人が暮らす。無医地区等調査(2009年)によると、県内約5500人が無医地区かそれに準ずる地区に住むとされる。離島に代表される県内のへき地医療を充実させるため、県は「香川県へき地医療支援計画」を策定し、県立中央病院内にへき地医療支援センターを置いて活動を続けている。

 同センターの岩井敏恭部長は昨年度、「へき地医療貢献者表彰」を受けた(主催:公益社団法人全国自治体病院協議会)。へき地医療の現場で見えてきた課題はなにか―岩井部長に聞いた。

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―へき地医療の崩壊とはすなわち地域の中核病院の崩壊である、という考えをお持ちですね。

 へき地医療といえば、以前は地域の診療所をどう維持するかという意味とほぼ同義でした。その象徴が私の母校である自治医科大学で、全国各地のへき地診療所で働く医師を養成するために、各自治体が資金を拠出して1972年に大学を設立したのです。しかし、この20年ほどを振り返ってみて、へき地医療の崩壊はへき地自体の問題ではないと思うようになりました。

 全国的な傾向だと思いますが、これまでへき地に医師を派遣してきた地域の中核病院の運営が難しくなっています。豊島の診療所への医師派遣は、本来なら地域の中核病院である小豆島中央病院(旧・土庄中央病院)の役割です。しかし、医師確保が困難なため、現在は県のへき地医療支援センターがその役割を担っています。これはいわば「ゆがんだ」形であり、いつまで継続できるか不透明です。

 私は自治医大の2期生で、同窓会ではよく将来の話をしていたんです。「50歳を過ぎて、子どもが独立したらまた地域の診療所で働きたいね」と。ところが、その同級生たちはいまでも中核病院の最前線で現役で働いているんですね。「この歳で当直はきつい」とぼやきながらもなんとか踏ん張っていて、とても島の診療所まで気を配る余裕がない。

―中核病院の医師が足りていない原因は。

 私が若いころに小豆島の土庄中央病院で働き始めた当時、私以外の医師は岡山大学からの派遣でした。かつての「医局人事」は、さまざまな弊害はあったにせよ、医師派遣という意味では一定の役割を果たしていました。若い医師は2、3年間は外回りして大学に戻り、博士号の勉強をする。そしてまた派遣されてローテーションを繰り返して医師として成長していった。若いうちに1年程度は田舎の病院に行くというのが常識で、地方病院の内科には毎年若い医師が来ていました。

 いまでは大学のスタンスが完全に変わってしまいました。医師派遣元の大学から「うちの若い医師を島の巡回診療なんぞに行かせるとはなにごとか」と苦情を受けた話を聞いたことがあります。「専門医取得の役に立たない雑用をさせるな」という理屈なのでしょう。自治医大のような地域医療に特化した大学ですら、大学から県に対して「卒業生の専門医取得に関して最大限の配慮」をお願いしてきます。

 私が憂慮しているのは、「自分の専門以外は診ない」という風潮が医療界に蔓(まん)延していることです。ある病院に手伝いに行った時、私以外は内科専門医でした。ところが糖尿病の患者さんが来ると、他の医師たちは、「おれは消化器内科だから」「循環器専門だから」「おれは血液...」とおよび腰になってしまう。私は学会にも入っていない医者ですが、普段から糖尿病の患者さんも診ているので、すべての糖尿病患者さんが私にまわってきました。愕(がく)然としましたが、それも仕方のないことです。例えば香川県立中央病院では、インスリンの量の調整はすべて糖尿病専門医のコンサルタントでやりますから、意識しなければ糖尿病の診断技術や、知識は身に付きません。

 元小児科医の私がなぜ糖尿病の診療もしているかというと、理由はただ一つ、「他に診る医師がいないから」です。私たち医師は病気やケガで困っているその地域の患者さんのために存在するわけで、自分が何を専門としているかなんて患者さんにはまったく関係ない。

 まず現場で必要とされているものがあって、そのニーズに合わせて専門性を身に着けていくものだと思います。心臓外科のように特殊な技術が必要なものは最初から専門的に習得する必要がありますが、プライマリケアに関していえばフィールドが先です。知識や技術が足りなければ、そこで初めて勉強するなり研修を受けるなりすればいい。

 いま、臨床研修においては幅広くすべての科をまわれ、総合医を目指すなら半年以上は小児科を経験しろ、などと言われていますが、あまり意味がないと思っています。

 若いころに自動車の大型免許を取ったとして、20年後に突然バスを運転しろと言われてできるはずがない。動かし方を知っていることと実際に動かすことの間には大きな隔たりがあります。動かすために必要なのは、日常的に繰り返すことなんです。

―へき地医療に携わる医師を増やすためには。

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 最優先すべきは、へき地医療に従事する医師のQOLを向上させることだと考えています。

 私が、高松から船で35分ほどの豊島(てしま)にある診療所に勤め始めたころ、よく「離島の医者ってたいへんでしょうね」と言われたんです。「いえ、まったくたいへんじゃありません。朝7時半に家を出て船で島に渡って、午後6時までには家に帰って夕食を食べますよ」と答えると、びっくりします。普通の会社員より良い暮らしじゃないかと(笑)。

 私は意地でも島に住み着かないんです。住んでしまうとどうしても24時間365日対応のコンビニ医療になってしまうし、燃え尽きてしまうと継続性が担保できません。

 そもそもへき地診療所って急患への対応力は低いのです。ハード面でも朝まで待てない患者さんには無力で、逆にちょっと風邪薬を出すだけだったら次の日でもいい。実際、患者さんが「これはあかん」と判断した時は自分で船を仕立てて高松か岡山まで行くんです。後で慌てて紹介状を書いたりしてフォローしており、役割分担という意味で現状ではうまくまわっていると思います。

 まずは私が率先してQOLを向上させることで、若い医師にへき地医療に関心を持ってほしい。この仕事は医療行政にもタッチできますし、病院にも診療所にも行くことができる。非常に柔軟で働き甲斐のある職場であることをアピールし、意欲ある若手を呼び込みたいと思います。

※へき地医療貢献者表彰は、山村・離島などの医療確保に尽力した医師に対して、全国自治体病院開設者協議会と公益社団法人全国自治体病院協議会が、1981年度から毎年1回表彰しているもの。36回目の2016年度は、全国で23人(香川県は2人)の医師が選ばれた

香川県立中央病院 へき地医療支援センター
高松市朝日町1-2-1
TEL:087-811-3333(代表)
http://www.chp-kagawa.jp/department/c011/


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