長崎県上五島病院 八坂 貴宏 院長

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島唯一の病院が目指す 高い専門性と総合医療

【やさか・たかひろ】 長崎県立長崎南高校卒業 1988 長崎大学医学部卒業 国立長崎中央病院(現:国立病院機構長崎医療センター)研修医 1990 長崎県離島医療圏組合上五島病院(現:長崎県上五島病院) 1993 国立長崎中央病院外科研修 1994 国立がんセンター(現:国立がん研究センター)中央病院外科研修 癌研究会附属病院(現:がん研有明病院)外科研修 1997 上五島病院外科 2004 同副院長 2007 同院長 2009 有川医療センター所長兼務2012 奈良尾医療センター所長兼務

 人口約2万人、65歳以上の高齢者が占める割合は37.6%(2015年)の新上五島町。島内唯一の病院「長崎県上五島病院」(186床)は、プライマリ・ケア連合学会認定後期研修プログラムの基幹病院となるなど、積極的な取り組みに注目が集まっている。

 かじ取りを任される八坂貴宏院長は、就任11年目。熱意とアイデアで、病院を導いてきた。

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―離島医療の難しさと目指してきたことは。

 1番の難しさは、人材や医療資源が少ないこと。医療職も介護職も十分ではありません。かつては民間の診療所もありましたが、今は眼科のクリニックが1軒だけです。

 日本全国で進む高齢化は、この島では一層顕著で、海に隔てられた地理的ハンディキャップもあります。

 そんな中で目指してきたことの一つは、医療の質を高め、この島の中で治療を完結させること。消化器外科の手術、整形外科の人工関節置換術、脊椎の手術、心筋梗塞に対する心臓カテーテル治療、透析...。専門分野を含め、おおむね完結できるようになりました。80列のCTなど最新の機器も入れています。

 できないのは、大きく分けて、脳外科疾患、心臓血管疾患、放射線治療、未熟児治療の四つです。脳卒中などの場合は、ここで出血や血圧などを管理し、安定させながらヘリコプターで本土へ搬送します。

 使うのは自衛隊ヘリ、防災ヘリ、ドクターヘリ。昼間で超緊急の場合にはドクターヘリ、夜間は自衛隊ヘリ、などと患者さんの重症度と時間帯によって使い分けています。

 もう一つ、力を入れてきたのが、高齢者に対する総合医療と包括医療です。

 高齢者は多疾患が併存していることが多々あります。総合的に診なければ見落としも多くなってしまいます。

 そもそもの病気を防ぐために必要な住民教育や啓発活動も大事な仕事です。医療も介護も必要となった高齢者には、病院、診療所、行政、保健所、グループホームなど多施設・多職種が連携したサポートが必須でしょう。すべての部分をコーディネートし、連携の中心となるのがわれわれの役割です。

―人材確保のための取り組みを聞かせてください。

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 医療の技術と知識を高められる場所に、若い医師が集まる傾向が強まっています。臨床のトレーニングが積めて、研究ができる環境が必要だと考え、イメージしたのが、中核病院とサテライト診療所がある現在の形です。

 2004年の平成の大合併直後、この地区の医療再編に着手しました。島内にあった2カ所の病院を、外来だけの医療センターとして、機能と人材を当院に集約。われわれの病院が医師を派遣することにしました。

 入院機能がなくなる2病院周辺の住民からは、反対意見も多く出ました。でも、1次、2次、3次の医療体制をしっかりと構築することが、住民の命を救うことにつながります。町長と一緒に、説明会や討論会に出席し、説得を重ねました。

 集約のメリットは人材確保の面だけではありません。診療所に外来で行く若手の医師は、何かあれば中核病院や本土の病院に相談したり、患者さんを送ったりすればいい。守られながら医療ができる安心感があります。

 これまで病院があった地域の住民が困らないよう、町は、当院に通院する外来透析患者の交通費助成などの制度を作りました。当院には、入院患者の家族が宿泊する部屋もあります。

―医師採用の方法も工夫されていますね。

 当院の医師には、レベルの高い専門的な医療と包括医療の双方の力を求めています。1人で完璧にできなくてもいい。両方の必要性を理解し、一緒に努力してくれる人が必要なのです。

 今、当院では、若手医師に絞って募集をかけています。限られた疾患、臓器しか診ることのできない状態で完成した医師ではなく、「島で医療をしたい」「勉強したい」という熱意がある若手のほうが、この地域の患者さんのためになると考えているからです。

 島の病院に医師が定着するのには、三つのハードルがあります。30代前半までの時期は、医師としての遅れへの不安。中堅になると子どもの教育と家族の生活、50代以降は親の介護と自分の老後が問題になってきます。

 今、私は、医師は「定着」ではなく「循環」すればいいと思っています。「最初の10年20年を島で過ごし、そのあと10年は本土で働く。夫婦2人になったらまた戻ってくればいい」と。

 私自身は対馬という県内の離島出身で、離島医療がしたくてここにいますから、若いころは、辞めていく人に対して良い印象を持てずにいました。こういう気持ちになれるまで20年かかりましたね。

―ICT活用、災害時支援にも積極的です。

 医療者のスキルアップとモチベーションアップの意味もあります。

 画像伝送システムはヘリ搬送の必要性の有無を判断するため、1991年に始まりました。オーダーリングは93年、電子カルテは2004年の導入です。

 DMATは、2004年に組織。これまで阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震に医療班を派遣してきました。

 普段から総合医療に携わっている当院の医師、スタッフは、災害時も現場の要請に合わせて幅広く対応できます。

―今後の目標は。

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ミャンマーなどでの医療支援にも協力

 これまでは人材確保に力を入れてきました。今後は「質」の管理の時期。DPC病院への移行、再認定のための病院機能評価受審も控えています。

 地域包括ケアシステムもだいぶ整ってきました。当院の地域医療連携室には町の在宅医療・介護連携支援センターがあり、そこが中心となって、スタッフ・施設同士の連携を進めています。

 私も認知症サポート医の資格を取得し、4月に「ものわすれ外来」を開始しました。町とも連携し、この1年で認知症ケアシステムの形を作り上げたいと思います。

 夢は「島おこし」です。過疎化が進み、産業がないこの島で、医療・介護・福祉職の雇用を増やし、高齢者だけでなく若者が増える町にしたい。若者たちが、ここで結婚して、子どもを育て、人口減に歯止めをかけられたらうれしいですね。健診と観光を組み合わせた「健診ツアー」も始めたいと考えています。

 国際医療とのコラボにも関心があります。当院は国際医療協力団体「ジャパンハート」などと連携して国際医療協力にも取り組んでいます。私自身もミャンマーに医療ボランティアとして赴き、手術のお手伝いをしたことがあります。

 島独自の医師確保政策や、遠隔医療を含めた仕組みを、開発途上国などの医療に"輸出"したい。そのための人材育成にも取り組んでいきたいと考えています。

長崎県上五島病院
長崎県南松浦郡新上五島町青方郷1549-11
TEL:0959-52-3000
http://www.kamigoto-hospital.jp/


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