長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科・小児科学分野 森内 浩幸 教授

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集約と充実でいざというとき、助けられる体制を

【もりうち・ひろゆき】 長崎県立長崎南高校卒業 1984長崎大学医学部卒業 同附属病院研修医 1990 米国国立衛生研究所留学(ウイルス学研究) 1992ECFMG合格 1994 米国国立衛生研究所臨床スタッフ 1999 長崎大学医学部小児科学教室主任教授(現:長崎大学大学院医歯薬学総合研究科・小児科学分野教授)

 四つの半島と、594の島(面積1000㎡以上)を有する長崎県。交通の便の悪さによる医療環境の厳しさなどから、県も長年、医療支援や医師確保に取り組んできた。

 「医師偏在・不足」をどう考え、どのように地域医療を支えているのか。長崎大学大学院の森内浩幸教授(小児科学分野)に聞いた。

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◎集約で「命を守る」

 医師の数を計るとき、「人口当たり」で見る方法があります。でも、単純に人口当たりで比較するのは、大きな間違いです。

 県内を見ると、長崎市や大村市で人口当たりの医師数が多い。でもそれは、両市に長崎大学病院(長崎市)や長崎医療センター(大村市)など、多くの人員、濃密な医療を必要とする3次病院があるからです。

 重い病気にかかった子がいるとき、県境を越えることなく、確実に各医療圏で対応できるようにスタッフを集約させる。市や町といった小さな単位で医師数を見れば、不平等に思える部分があっても、「本当に困ることが起きたとき、子どもを助けられる体制を整えさせてください」というのが私たちの仕組みです。

 長崎県は、人口10万人に対する医師、小児科医、小児科専門医の数で、いずれも全国平均を上回っています。でも、半島や離島があり、アクセスが悪い。それがネックです。

 小児科医がいる病院まで1時間以上かかってしまうような不便な場所には、私たちの医局から1人は配置したいという思いもあります。

 しかし、医局自体にも潤沢に人がいるわけではありません。実際に離島やへき地に小児科医を1人置くと、子どもが少なく、意外と余裕ができてしまう。一方、何十人も小児科医がいる病院では、多くの重症患者を抱えた医師がへとへとで、いつ倒れるかわからない生活をしているのです。どちらに1人追加するのか、難しい問題です。

 北欧では、「100万人の人口に対して小児が入院できる医療機関が1カ所」という場所もあります。人と税金を集中させて診療の質を高めているのです。

 「自分たちの町にも小児科医を」と、表面的な平等を求めた結果、軽い病気はどこでもすぐに診てもらえる代わりに、重症患者を診てくれるところがどこにもない事態に陥ります。そうではなく、人員を集約・充実させ、いざというときに命を助けられる体制を守る。その重要性を、住民に啓発していく必要性も感じています。

◎ICTと巡回を駆使

 1人で患者さんを診る離島診療所などの医師は大変だと思います。どんなに能力がある人でも、疲れや体調で、判断ミスが起こる。「3人寄れば文殊の知恵」と言うように、複数で話し合えば、わりといい判断ができますが、それが難しい環境だからです。

 長崎県では、ちょっと困ったときに相談したり、自分だけでは心もとないときに指導を受けたりできるよう、インターネットを駆使した遠隔医療支援システムの構築と活用が進んでいます。

 緊急性が高くない反面、面と向かって診る必要がある心の問題や発達の遅れには、巡回相談という方法があります。

 県立の「こども医療福祉センター」(諫早市)は県の事業として、五島列島などへの巡回相談に取り組んでいます。ここには私たちの医局からも子どもの心や発達の問題のスペシャリストを派遣しています。

 今後、ICTを一層活用することや巡回によって、物理的に人の数を増やさなくても高いレベルの医療を提供することは可能でしょう。道路整備でアクセスをよくすること、ドクターカーやドクターヘリの整備で緊急対応可能な地域を広げていくことも大事だと思います。

◎必要なのは、発見できる「目」

 地域の子どもたちの健康を管理する人、健康状態に異変があったときに見つけられる人は必要です。

 大学病院で治療すれば助けられる病気であっても、発見できなければ、治療さえできない。小児科医でなくてもいい。地域診療のファーストコンタクトの層を厚くすることや保健師のレベル向上で対応可能だと考えています。

 今は、何か起きて初めて対処するという時代ではありません。ワクチンで病気を防いだり、乳幼児健診で気になるお子さんを早めに見つけたり。それによって、子どもたちの今、そして将来の健康状態が変わってきます。

 熱心に取り組んでくれるコアとなる人が地域にいるかいないかは、一生に及ぶ健康にまで影響が出るのです。

◎「医局人事」の必要性

 大学の本来の役割は、人材派遣ではありません。教育、研究、高度な医療。それが仕事です。

 ただ、そうは言っていられない現状があります。専門医取得など医師本人のキャリア、子育てや介護を含む家族の問題、地域の病院の将来、患者さんのこと...。さまざまなことを考えたとき、医局人事という仕組みに頼らざるを得ないから、取り組んでいるのです。

 派遣先の病院は、医局から安定して人材を得ることができる。派遣された医師は、離島やへき地だからこそ学べることを吸収して帰ってきてくれる。大きな病院での勤務とのローテーションの中で、バランスの取れた医療を体得できるのも利点です。

◎地域完結できる専門性を

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 医療圏内での完結型医療を目指すには、さまざまな専門性を持った小児科医の育成が不可欠であり、それも私たちの重要な役割です。

 目標の一歩が小児科専門医の取得。その後さらに専門性を高め、新生児や発達、血液、アレルギー、感染症など、数多くある小児科の分野で、必要な人材を育てなければなりません。

 しかし先天性心疾患など、より高度な医療が必要になる場合は、県外の病院に紹介しています。産科の先生が診ている段階で胎児の病気を発見し、母体ごと、もしくは準備を万端整えて生まれるのを待ってから送る。それによって、命を救い、後遺症を軽いものにできるのです。

 これも一つの「集約」です。すべての分野を私たちだけで網羅することは無理でも、できない部分は産婦人科などほかの診療科や他病院と縦横に連携することで、子どもたちの命を守ることができる。そう考えています。

国立大学法人 長崎大学大学院 医歯薬学総合研究科・小児科学分野
長崎市坂本1-7-1
TEL:095-819-7200(代表)
http://www.med.nagasaki-u.ac.jp/peditrcs/index.html


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