謎解きが醍醐味
◎呼吸器・感染症疾患の現状と課題
呼吸器・感染症領域の疾患は、肺がん、肺炎、アレルギーなど多岐に渡っています。患者さんは高齢者が多く、高齢化に伴って増加傾向にあります。大分県内の関連施設などからは「呼吸器内科医を派遣してほしい」という依頼が増えています。
呼吸器疾患の新たな治療法に、気管支サーモプラスティ療法があります。これは、気管支鏡下に行う処置で、高周波電流を当てることによって、気道を圧迫している肥厚した気道平滑筋(筋節のない筋肉)の量を減少させて気道の反応性を抑制する治療法です。
当科ではこれまで、難治性重症の気管支ぜんそく3症例に本治療を実施しました。
高齢者の嚥下(えんげ)障害による誤嚥性肺炎も増加しています。抗菌薬の投与によって、いったんは治ることもありますが、その後も繰り返しやすく、予後は不良です。この疾患は加齢に伴って起きるので、積極的に治療すべき肺炎なのか、それとも老衰と判断してQOLを優先すべきなのか、判断に迷うこともあり、超高齢社会のわが国において問題になってきています。
また、非結核性抗酸菌症の中で中年女性に発症しやすい「MAC(Mycobacteriumavium complex)」が増加しており、最近では非結核性抗酸菌症の発症率は結核より高くなっています。現在でも治療薬や治療の開始時期、投与期間などが明確に定まっておらず、呼吸器領域における難治性疾患の一つです。
感染症領域で国際的な問題になっているのは、抗菌薬が効かない「薬剤耐性(AMR)菌」が増えていることです。
昨年4月、厚生労働省は「薬剤耐性対策アクションプラン」を策定しました。これは、WHO(世界保健機関)の「薬剤耐性に関する国際行動計画」を踏まえて、関係省庁・関係機関が取り組むべき対策などを定めたものです。
同年5月に開かれた「伊勢志摩サミット」での「G7伊勢志摩首脳宣言」には、この問題に各国共同で取り組むことが盛り込まれ、「PMDA(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)」と、「EMA(欧州医薬品庁)」、「FDA(米国食品医薬品局)」による三者会談が開かれています。
今後は日本がイニシアチブをとって薬剤耐性を誘導しないような抗菌薬の適正な使用方法や新しい抗菌薬の開発を進めていくことになると思います。
◎新専門医制度
2018年度から新専門医制度がスタートすると言われています。日本内科学会では、まず内科専門医を取得し、その後、呼吸器、感染症などのサブスペシャルティーの専門医を取得するシステムになる予定です。
初期臨床研修2年、後期研修3年を経て内科専門医の受験資格が与えられます。この5年間で、13の内科系領域でまんべんなく、計160症例を主治医として担当しなければなりません。
従来は、内科疾患50症例を集積した後、認定内科医を取れば、サブスペシャルティーの受験資格があったのですが、新制度では、認定内科医はなくなり、内科専門医だけになります。しかも、内科専門医の受験資格を満たす症例数は約3倍です。単純に計算してみると、1週間に1症例担当したとしても、1年間で52症例となります。3年で156症例ですから、条件を満たすのは厳しくなります。
しかし、1週間に1症例担当しなければいけないということはないと思います。初期臨床研修の間に集積した内科症例のうち集積すべき症例の50%(80症例)が、専門医受験資格を得るための症例数に含めることが認められるからです。将来、内科専門医を取得したいのであれば、なるべく早い時期に内科専攻を決断して、初期研修期間から症例を集積し始めるのが良いと思います。
内科専門医を受験するための後期研修期間(卒後3年目〜5年目)に呼吸器内科に入局して、そのうちの2年間は専門領域も同時に研修できることになっています。内科をローテーションしながら、呼吸器の症例を積み重ねても良いということです。
症例の集積状況にもよりますが、卒後6年目に内科専門医を取ることができれば、翌年には呼吸器専門医を取得することも可能になります。
◎謎解きの面白さ
呼吸器・感染症内科は、どちらかというと、内科の中では"地味"な診療科です。消化器内科や循環器内科の場合は、内視鏡やカテーテルを使って患者さんを治療すると結果がすぐに出ます。一方、当科では、胸部画像および内視鏡などの検査は、診断に用いることが多く、患者さんの症状や経過とそれらの検査結果を基に、総合的にじっくりと考え、診断し、治療法を選択していきます。
このような過程を経験し、判断ができるようになるまでには時間を要するので、この領域の魅力を実感するのに時間がかかってしまいます。しかし、患者さんから病歴を聞いて、画像を丁寧に見て、診断をつけていく過程が面白く、一生飽きがこない。それが呼吸器・感染症内科領域の醍醐味(だいごみ)です。
また先ほどのAMRにも関連しますが、感染症領域では、世界的に抗菌薬の開発が滞っているため、手持ちの抗菌薬の種類が少なくなっています。限られた種類の薬をどのように組み合わせて適正に治療していくか、そのプランを考えるところにも面白さがあります。
最近ではがん治療も興味深いですね。分子標的薬がいろいろと出てきたことで、テーラーメード(個別化)医療が進歩してきました。
こうした"謎解き"に似た面白さを一度経験すれば、呼吸器・感染症内科学は一生興味がつきない学問だと言えます。
当講座に興味を持ってもらうために、年に2回「若手育成セミナー」を実施しています。気管支鏡のシミュレーターを実際に体験してもらったり、画像の読み方や臨床推論を示したり、症例カンファレンスをしたりするものです。学生と研修医、約20人に参加してもらって、当科の魅力を伝えています。
当科の入局者は毎年2〜3人ですが、今年は5人が入局しました。徐々に入局者が増えてきているのは、研修先の関連施設の先生方が、臨床の現場で呼吸器・感染症の魅力を伝えてくださっていることも大きいと感謝しています。
最近では、国際的なAMR問題に加えて、地域の医療機関での院内感染が大きな問題となっていますので、今後は感染制御領域でも、人材を育成していきたいですね。
国立大学法人 大分大学医学部 呼吸器・感染症内科学講座
大分県由布市挾間町医大ケ丘1-1
TEL:097-549-4411(代表)
https://www.med.oita-u.ac.jp/naika2/