機能を拡大させ新たな船出へ
高野病院が今年夏に新築移転
―昨年予定されていた高野病院の新築移転が、今年8月のオープンに延期されました。
昨年4月の熊本地震の影響で、約3カ月新築移転が延びました。
地震が起きたのは基礎工事に入っていた時期でした。建築に使う鉄骨を作る工場が県内の植木町にあり、そこが地震の被害を受けたために大きな遅れになったようです。
新しい病院は、現在地から1kmほど離れた場所に造ります。1981年に70床で病院を開設してから36年目に入り、施設が老朽化したことが新築移転を決意した最大の理由です。熊本地震でも大きな被害があり、院内の壁にはたくさんの亀裂が入りました。
新築移転のもう一つの理由として、開設した頃と比べて患者さんの要望、ニーズがかなり変わってきたということがあります。
当然ですが、患者さんは一流の医療を求めて病院に来ます。当院は大腸肛門科専門の病院として日本最多のベッド数と高いクオリティーを維持しているため、その部分には十分応えることができます。
しかし、患者さんは入院した際の「居住環境」にも高い質を求めるようになりました。若い方はとくに、専門の最新医療をより良い環境で受けたいと考える方が多くいます。そのようなニーズに対応する必要に迫られたわけです。
―病院開設当時と比べて増えた疾患は。
特徴的なのは大腸疾患の増加です。病院を開設する以前にも、15年ほど大腸肛門疾患を専門に診ていました。はじめの10年間は東京で、あとの5年間は熊本市民病院で診療しており、その際、特に東京で感じたのは大腸疾患が激増しているということでした。
消化管は胃の疾患が主だったのが、だんだん大腸のほうに移っていきました。
こういった診療で得た体験をもとに、いわゆる欧米型の疾患が増えていくのではないかと、早い時期からそう考えていたのです。
熊本市民病院での5年間でその実感は確信にまで高まり、大腸疾患と肛門疾患を合わせて診療することにしました。それまで国内に肛門科はあったものの、大腸肛門科という診療科はほとんどなかったと思います。
大腸系の疾患が増えているのは、食生活や生活習慣が欧米化してきたことが大きく影響していると思います。私がこの病院を開設した時に考えたのは、少なくとも熊本県内の大腸がんを撲滅しようということで、それを旗印にしてスタートしたのです。
―新病院はどのような特長がありますか。
患者さんはホテルと同程度の居室空間を期待されていますので、まずは個室を多くしました。いわゆる大部屋の、複数人が共同で使う部屋も「準」個室のように設計しています。
共同部屋も、すべてのベッドに専用の窓をしつらえた「個室的」な4床室が基本設計です。多角形の部屋を組み合わせた設計で、それぞれのベッドで十分な採光と個室性を可能にしました。国内でこういった構造は珍しいのではないでしょうか。
急性期専門病院としてのさまざまな機能に加えて看護拠点を分散配置しており、患者さんやご家族がより安心していただける環境やサポート体制を強化しました。新たに開設する緩和ケア病棟では、見晴らしの良い窓や専用ガーデンを用意しました。
病院建物は、熊本地震規模の揺れにも耐えられるよう、九州初の免震装置を採用しました。病院建築としては全国でも初めて取り入れたもので、金属性の球面体が地震の揺れを吸収する構造になっています。この免震装置を56台設置して、災害時の患者さんの安全を確保しました。
新病院は「くまもとアートポリス」初の病院建物であることも特長です。くまもとアートポリスは、1988年から実施されている熊本県の事業で、豊かな自然や歴史や風土を生かしながら、後世に残る文化的資産として優れた建造物を造るというコンセプトを持ちます。
建築や都市計画を通して文化の向上を図ろうという意図であり、大腸肛門病センター高野病院が持つ「人と人、地域と人、文化と人をつなぐ場としての役割が病院にはある」という考え方と一致したため、応募することになりました。
病院建物は「自然に開き、人と和す」という統一されたテーマで設計されており、きっと「文化都市」熊本の街並みに映えるだろうと、今から楽しみです。
―新病院で目指すものは。
これまで積み重ねてきた歴史や実績を継承しつつ、新しい建物で新しい歴史を築きあげていきます。
まずは大腸肛門科診療を進歩、発展させるために細分化し、さらに専門性を高めるために新たな四つのセンター(内視鏡センター、大腸肛門機能診療センター、IBDセンター、がん診療センター)を設けます。
内視鏡センターでは、内視鏡で前がん状態のポリープを見つけ、それを除去することができ、これによって大腸がんの発生を70%から80%近く予防できます。さらに大きながんについても、早期がんに関しては内視鏡的に切除することができます。4cm程度までは内視鏡で切除が可能です。
大腸CT検査(CTコロノグラフィー/CTC)では、CTで撮影した腸の断面図を使って、仮想内視鏡画像を作製することができます。これを用いると、かなり小さなポリープから進行がんまで見つけることができます。当院の内視鏡技術は高いのですが、それをもってしてもできないような悪条件の方についてはCTCを用いることが有効な検査になるでしょう。
大腸肛門機能診療センターは、高齢化に伴う大腸肛門の機能障害に対応します。IBD(炎症性腸疾患)センターの設置は県内初です。生活習慣の欧米化に伴って特に若年者に著しく増えている、難病の潰瘍性大腸炎とクローン病に対応するもので、当院はこれら疾患について県内最多の患者登録数と診療実績を有します。
がん診療センターは、熊本県指定がん診療連携拠点病院として、5大がん(大腸がん、胃がん、肺がん、肝がん、乳がん)をはじめとする各種がんの予防から緩和まで一貫とした質の高い医療を提供します。
新たなスタートを切る高野病院は、これら4センターを包摂する国内随一の総合的な大腸肛門病センターとして、より患者さんに寄り添った医療を提供していきます。
社会医療法人社団高野会 大腸肛門病センター高野病院
熊本市中央区帯山4-2-88
TEL:096-384-1011
http://www.takano-hospital.jp/