「標準化」「見える化」で安全性と高い効率性を
―4月に副院長就任。病院の方向性をどう考えていますか。
地域医療構想、新公立病院改革ガイドラインなど、病院を取り巻く環境が変わる中で、急性期病院としてどう生き残るか。
当院は阪神北圏域の急性期を担う病院です。県指定がん診療連携拠点病院、救急告示病院の役割などを重視していきます。
私が主任部長を務める整形外科など外科系の方向性としては、手術件数を着実に伸ばしていくことでしょう。
現在60%強の紹介率をさらに高め、症例数を増やし、診療密度を上げていきます。当院の医療が次のレベルに到達するまで、あと一歩という手応えがあります。2019年にはDPCⅡ群に入りたいと思います。
「安全で、質の高い医療を、効率よく」。当院のモットーに基づき、医療安全管理室部長としての取り組みも進めています。
まず誤薬の課題です。病院全体で内用薬や注射薬にバーコードを導入し、トレーサビリティーの確立に努めています。入院患者の持参薬もバーコードで管理しています。
整形外科では手術器械にもマーキングを施しています。読み込みながらピッキングすることで、誰が担当しても間違いなく準備できる仕組みを目指しました。
どのスタッフが準備を担当したかや、滅菌、使った時期など、すべて追跡できます。病院全体にも広げていきたいと思っています。
もし不具合が生じたときに、後から検証できなければ改善できません。改善を促すには、はっきりとしたデータとして誰もが問題点を理解できる必要があります。
大まかなことを指示されても、捉え方は人によって違います。「80を90にしてください」だったら、具体的に何をしなければならないか分かるでしょう。医療安全で大事なのは「標準化」「見える化」です。測定できなければ改善できません。
―整形外科の特色は。
当院の414床のうち、稼働しているのは約387病床。整形外科の病床は67床ですから、当院の大きな強みの一つとして機能しています。
整形外科の2016年の手術症例は1287例でした。約570例が人工関節置換術、200例ほどが脊椎疾患の手術です。人工関節、脊椎、手の外科、外傷が当科の中心です。
特に人工関節置換術については、膝関節、股関節ともに総合病院としては全国有数の実績があります。大阪大学との連携で、当院は兵庫県の整形外科専門研修の基幹病院になる予定です。
実績を支えている要因は「患者さんにやさしい医療」の提供だと思います。
人工関節センターでは、人工股関節の手術を受ける患者さんやそのご家族を対象にした講習会「ももの会」を開いています。
看護師が中心となり、手術の内容や、入院生活、退院後の生活の注意点などを勉強できる機会を提供しています。
リハビリのことや、どんな姿勢が良くないのかが分かっておけば、術前から練習して備えることができます。術後に説明を受けて初めて取り組むのに比べ、スムーズに術後の生活に移行できます。
診察ではじっくりと時間をかけ、関節の模型や実際の人工関節に触れてもらうようにしています。
みなさん「こんなに重いものを入れて歩けるのですか」とおっしゃいます。
膝や股関節は、自分の体重の5倍から7倍の重さを支えることができます。約300gの人工膝関節が入っても、日常生活で気になることはありません。
骨をすべて取り換えてしまうという印象があります。それはがんの転移など、特殊な場合です。
私はよく虫歯の治療に例えて説明します。「虫歯の部分だけを削って金属をかぶせるのと同じです」。そう説明すると患者さんは安心します。
正常な関節や、人工関節が入った後のレントゲンの見本を見せているのも、患者さんの理解を深めるためです。
見ることができないものを言葉で説明して、納得してもらうことは難しい。患者さんやご家族が、現在の病気の状態を知り、どんな治療を受けるのか、イメージを共有することが大切です。
―手術での工夫は。
人工関節置換術も脊椎疾患の手術も件数が増えているので、トレーサビリティーを考慮して器械のセット化を進めました。
1日4件の手術を予定している場合、あらかじめ4種類のセットを用意しておきます。誰が何を使ったのかが明確になるように、午前に使用した器具を再滅菌して、午後に使いまわすことはしません。
手術に使わない器械も洗い出しました。使用頻度の低いものは、セットに組み込まないようにしました。また、看護師が手術の準備をするのに、どれだけの歩数を要するかを計りました。
手術のたびに無駄に動き回って、使わない器械を用意したり、用意し忘れたりする。そこで手術の種類ごとにキット化し、歩数の低減と時間の短縮につなげています。
結果、手術の件数は増えていますが、整形外科の超過勤務時間は減っています。
―今後は。
キーワードの一つは先進医療への取り組みだろうと思います。
変形性関節症の治療として、現在は人工関節置換術が中心です。変形を遅らせる医療や、再生医療による軟骨の移植など、オプションを増やしていきたいと考えています。大学との連携も進むでしょう。
高齢の患者さんは糖尿病や高血圧など、併存症が多い。糖尿病内科医、老年内科医、循環器内科医、歯科口腔外科医、理学療法士、栄養士、看護師、薬剤師で術前から術後まで関わる周術期管理チームの運用を、4月から本格化させたいと考えています。
術後せん妄などの予防に術前から対策を講じるなど、総合的な視点で患者さんを捉えています。
チームの情報共有の工夫として、電子カルテ上に「術前患者情報」というテンプレートを作成し、運用していきます。
入院情報、既往歴、手術歴など、一人の患者さんの膨大な情報を、チームのどの端末でも閲覧できます。
高齢者だったら認知症があるか、半年以内に転倒しているかどうか、手術歴があるなら、どういう手術をしたかなどが一覧で表示されます。
各科の専門医の意見をベースに、術前にチェックしておくべき項目を網羅しています。このテンプレートを使えば、研修医でもベテランでも、情報の正確さに差が出ることはありません。今後、段階的に病院全体で導入していきたいと思っています。
市立伊丹病院
兵庫県伊丹市昆陽池1-100
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