浜松医科大学医学部 麻酔・蘇生学講座 中島 芳樹 教授

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一番近いところで患者さんを守る麻酔科医にスーパードクターはいらない

【なかじま・よしき】 名古屋市立菊里高校卒業 1987 浜松医科大学卒業 浜松医科大学医学部附属病院麻酔科研修医 1988 静岡県立総合病院麻酔科研修医 1991 埼玉県立小児医療センター麻酔科医員 1992 浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科医員 1995 浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座助手 1999 フランス・パリ大学クレムラン=ビセートル病院麻酔科研究員 2005 浜松医科大学医学部附属病院麻酔科蘇生科講師 2010 静岡赤十字病院麻酔科手術部部長 2015 浜松医科大学医学部麻酔・蘇生学講座教授

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―浜松医科大学麻酔・蘇生学教室では大学所属の医局員数は、4月現在37人と東海地方で有数の規模を誇ります。

 おかげさまで、恒常的に医師不足に悩まされている静岡県において、比較的安定して人員を維持できていますが、まだまだ不足していると言わざるをえません。当院の麻酔科は集中治療と臨床麻酔に加えてペインクリニックを担当しており、当科の特長としては積極的に無痛分娩(ぶんべん)に取り組んでいることがあげられます。国公立の大学病院で麻酔科主導の無痛分娩を行っている例は、現在のところほとんどないのではないでしょうか。

 海外で無痛分娩が広く普及していることに比べて、国内ではまだ珍しいですね。お産について、日本では「おなかを痛めて産んでこそ愛情がわく」といった、文化といってもいい捉え方が一般的です。さらに麻酔科医が少ないこともあって無痛分娩が普及していませんが、当院ではこの十数年間に渡って実績を積み重ね、年間約100例の希望者に無痛分娩を提供するところまできました。

―お産は病気ではないため、麻酔を使うことに抵抗のある方も多いということでしょうか。

 助産師さんも以前は同じことを言われましたね。「人間は太古の昔からおなかを痛めながら産んできた。危険を冒してまで麻酔を使う必要はない」とおっしゃる方もいました。たしかに説得力はありますが、実態として食生活や生活習慣が欧米化し、無痛分娩を受けたい妊婦さんも増えています。母親世代では忌避感のあった無痛分娩も、今はむしろ痛みを抑えることのメリットに目がいくようになりました。

 お産が終わった後、お母さんは疲労困憊(こんぱ い)で何もできませんが、 出産の痛みを抑えることでお母さんが自分で赤ちゃんの世話をする体力を温存することができま す。さらに、妊婦の疲労度 が低くなって酸素の代謝が改善したり、赤ちゃんが低酸素症に陥るリスクが 低下したりするなど、無 痛分娩にはさまざまな利点があるのです。

 やっと専門医制度が形になり、後期臨床研修医 を育てる新しいプログラムを今年から始める予定です。プログラムの最初の1週間は、どのような医師をどんな段階を経て育てるのか、こちらのほうから説明する機会を作ります。

 さらに技術的なことだけでなく、医師として最低限必要な「作法」などを 一週間使ってしっかりと教え込みます。ここでの主な狙いは「どのような哲学を持った医師になるのか」について、こちらと研修医の思いを突き合わせ ることです。

 かつてはこんなプロセスは必要ありませんでした。 時代の流れなのかもしれ ませんが、医学生や研修医 のモチベーションが変化しています。「私は趣味の世 界に生きたいので、その糧 を得るために医者になる」 と、堂々と宣言する研修医もいるくらいですから、われわれとしても研修医の 資質を見極めたいのです。

 思うに、これは個人の問題ではなくて、おそら く親世代や社会の問題な どいろんなものが複合さ れているので、それをわれ われが修正するのは難し いでしょう。

 ただし、ひとりの人間 として 20 年以上生きてき た経験から患者さんをリ スペクトする行動はとれ るはずで、それができれば 大きくはずれた行動はと らないと思います。初歩 的なことかもしれません が、患者さんに対してそ の方の価値を認めること を常に意識するというこ とを、徹底して指導したいと思います。

―超高齢社会、人口減社会を迎えます。麻酔科医のニーズに変化は。

 心臓弁の手術で、TAVI(経カテーテル大動脈弁治療)は人工心肺を使わないため負担が少なく、高齢者の方も安全に手術が受けられます。しかし、これだけ医療費が増大している状況では、「安全だから」という理由だけでは手術することが許されない時代が来るかもしれません。

 私の祖父の兄弟は全員95歳を超えている長寿家系です。97歳の祖父はずっと腎臓が悪く、いよいよ腎臓機能が悪くなった際に「透析すれば長生きできます」と言われました。結局、その前に別の理由で亡くなりましたが、100歳間近の祖父が、透析の苦労を受け入れて長生きすることを選んだだろうか。私自身も、医師としての普遍的な問題として考えてしまいます。

 遺伝子治療もそうですし、社会を騒がせている莫大な費用がかかる抗がん剤まで、今後は使うべきかどうかを考える時代を迎えようとしています。こういった問題意識は議論を重ねても社会全体の合意を得ることは難しいかもしれませんが、意識し続けることはとても大事なことです。すべての医師が考えざるを得ない時代が来るでしょう。

 麻酔科医のニーズも変わってきます。麻酔科医はもちろん手術麻酔がメインですが、手術侵襲から体を守る(手術しない)選択肢を持つという意味では、一番近くに立って患者さんを守ることができます。

―患者さんを守るために、という視点を強くお持ちですね。

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 私見ですが、麻酔科にスーパードクターはいらないと思っているのです。

なぜかというと、麻酔科医って結局は患者さんを治すことはできないのですから。患者さんを治すために手術するのが外科医で、私たちができることは外科医が手術を成功させるためにいかに安楽な術野を提供できるかということに尽きます。

 患者さんの側に立てば、「この病院ではうまく麻酔がかかるが、あそこの病院ではかからない」ということが一番困りますので、それを防ぐには手技や麻酔法が標準化されていなければなりません。「ドクターX」じゃないとできないスペシャルな手技は麻酔科では必要なく、それよりもある一定のレベルの手技を全員が標準的にこなせることのほうが患者さんの利益になると考えます。

国立大学法人 浜松医科大学医学部 麻酔・蘇生学講座
静岡県浜松市東区半田山1-20-1
TEL:053-435-2111(代表)
http://www.anesth.hama-med.ac.jp/AneDepartment/


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