地域から信頼される医療センターを目指して
地域包括ケアシステムの構築で目指す、生活の質の向上
―2015年11月の病院長就任から2016年3月までは、広島大学脳神経内科教授との併任でした。
大阪大学を卒業してから50歳までは大阪で、それ以降14年間は広島で単身赴任生活を送っていました。家族はずっと大阪にいましたので、広島大学を去る際には「ようやく妻に回収されることになった」と表現しました。
専任の病院長になったのは昨年の4月です。実はまだ慌ただしい日々が続いており、落ち着いて病院長室を片付けることもできずにいますが、久しぶりに古巣に戻ったと思うと感慨深いものがあります。
というのも、大阪大学を卒業してすぐの1977年に当院の前身である星ケ丘厚生年金病院で父の主治医を務めたことがあるのです。
当時私は医師2年目の25歳で、ここは脳卒中診療と充実したリハビリ機能があったため、脳梗塞に罹患(りかん)した父を入院させて精査、加療したわけです。そういった意味では、ここは私の医師人生にとって原点ともいえる場所であり、再びここで働くことになったのも何かの縁ではないかと思います。
病院のはじまりは、1953年に開設された、国立健康保険星ケ丘病院です。
当院は非常に歴史のある病院で、率直に言うならば建物などのハード面は老朽化しています。
病院建物の一部を「新病棟」と呼んでいますが、それですら25年前に建てられたもの。古いものでは40年以上前に建てられたものもあります。耐震基準を満たしていないこともあって、今後は早期の建て替えも視野に入れなければならないでしょう。
現在、建て替え整備のベースとなる基本構想を作成し、機構側に提出しているところです。
2014年4月、当院は独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)に移管され、JCHOグループの一員になりました。JCHOは全国に57の病院と健康管理センターを持ち、ほかに看護専門学校や介護老人保健施設、地域包括支援センターを持つ大きな組織です。
とくに5疾病(がん、脳卒中、急性心筋梗塞、糖尿病、精神疾患)と5事業(救急医療、災害医療、へき地医療、周産期医療、小児医療)への対策については最優先課題としており、ほかにも地域で必要とされる医療と介護サービスの提供が使命です。
JCHOには「地域医療を支える」という目的があり、国の方針に沿った地域包括ケアの要として医療と福祉、介護を、より緊密に連携させていくことが期待されています。
当院は前身の厚生年金病院時代から地域の基幹病院として地域包括ケアの構築に取り組んできました。
枚方市でも医療を必要とされる65歳以上の方が増えています。私も65歳を越えましたが、いま考えているのは「いかに長く生きるか」ではなく「いかに生きるか、どのように生きるか」ということです。
これはおそらく他の高齢者の方も同じで、歳を重ねれば医療や介護サービスを使うことが増えるものの、そういった場合でも生活の質を向上させることが求められてくるのです。
こういった問題意識から生まれたのが、地域包括ケアシステムです。私は広島大学時代に、国内で最初に「地域包括ケアシステム」を提唱したことで知られる、公立みつぎ総合病院(尾道市)の山口昇名誉院長とお会いし、そのエッセンスを教えていただいたことがあります。
住み慣れた地域で、誰もが尊厳を持って暮らし続けるための医療や介護を統合した支援システムが、私の考える地域包括ケアシステムです。したがって、このシステムがうまくいくかどうかは在宅医療の充実度にかかっていると言っても過言ではありません。
当院では2014年12月に星ケ丘医療センター附属訪問看護センターを開設しました。専門スタッフが患者さんのご自宅を訪問して必要な医療処置や医療ケアを提供します。
また、リハビリテーションや介護方法の相談も受け付けており、好評です。当院で受診されている患者さん以外に、開業医の方でも使うことができるので、多様な運用が可能にもなります。
―赴任されるそれぞれの地域事情について詳しく調べるのが信条だそうですね。
枚方市にはひらかたパークという遊園地がありますが、創業から100年を越える国内最古の遊園地だということは、あまり知られていません。
星ケ丘というロマンチックな地名は近くにある天野川(あまのがわ)と関係があり、七夕伝説にもつながって、渡来人の秦(はた)氏の歴史までさかのぼることができます。
こういったことは医療と関係ないと思われるかもしれませんが、私は人を診ることは「地域を診る」ことにつながると考えているため、とても大事にしているのです。
日本には多くの「名字」があります。ある調査では移民の多いアメリカに次いで世界で2番目に多いそうで、民俗学者の丹羽基二さんは30万以上の名字を整理しています。
私は名字を個人の遺伝的背景を反映する重要な要素だとみていて、何世代にもわたってある特性を受け継いでいると考えています。例えば、鹿児島に多い名字であれば鹿児島に多い疾患を思い浮かべるし、珍しい名字であればどこの地域に多いのかを参考とします。
地域を知ることは住民を知ることにつながりますし、地域を知ることで各地域が必要としている医療についても具体的に考えることができるのです。
JCHOの方針である5疾患、5事業を中心に医療を提供していくことはもちろんですが、枚方市の住民にとってどんな医療が必要なのか、それを充実させるために当院に不足している機能は何かを再検討することで、「地域に寄り添い、貢献する病院」を目指していきたいと思います。