OLを大切にした治療を
兵庫医科大学 耳鼻咽喉科・頭頸部外科学
鼓室形成術など耳の機能手術を中心に、全国でも有数の症例数がある兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学講座。1994年、主任教授就任以来20余年にわたって同講座の運営に携わる阪上雅史主任教授に話を聞いた。
―力を入れてきた点などを聞かせてください。
本学は1972(昭和47)年に設立された比較的新しい大学です。来院患者の居住エリアは兵庫県南部と大阪府西部が中心。約150万人を対象としています。
教室の方針として臨床と、臨床の疑問を追及する研究に力を入れています。就任以来、ずっと、その方針で運営に取り組んできました。
講座では、聴覚、平衡覚、嗅覚、味覚の感覚器科と、頭頸(けい)部腫瘍などを対象とする頭頸部外科を二本柱として、幅広い分野を扱っています。
また、専門外来として耳外来、腫瘍外来、めまい・顔面神経外来、鼻・嗅(きゅう)覚外来、味覚外来、耳官機能外来、幼児難聴外来を設けています。これによって、医師の専門性も高まり、同時に医療レベルも高くなっています。開業医のニーズにもきちんと対応できています。
特徴的なのは嗅覚と味覚の専門外来です。当院では2000年に開設しましたが、今もこれらの専門外来は国内にほとんどありません。高齢化によって患者さんは年々増えています。患者さんの多くが嗅覚や味覚の問題で悩み、いろいろな病院を受診した後に、当科にたどりつくというケースが多数見受けられます。
―手術数の実績は。
慢性中耳炎や真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術、アブミ骨手術など、中耳、内耳手術の総数は、2014年が370件、2015年は355件でした。大学病院としては国内でも、例年1、2位を争うほどです。高度難聴者に対する人工内耳手術もしています。現在、耳の手術は、手術用顕微鏡下での手術を中心に、必要ならば内視鏡も使用します。
難治性の慢性副鼻腔炎などには、内視鏡下副鼻腔手術など年間180件を実施し、関西ではトップの症例数です。
頭頸部腫瘍については、大阪府立成人病センター(大阪市東成区)と連携し、頭頸部がんにおいて、年間約200件の集学的治療を実施しています。
当科では、臨床研究と並行して国内や海外で論文を発表するなどアカデミックな活動にも力を入れてきました。それによって当科の実績が対外的にも評価されたようです。患者さんも関西だけでなく中四国や九州、遠くは北陸から来ることもあります。
講座では、臨床のデータで論文を書き、私の就任以来、40人余が学位を取得するなど、みんな頑張ってくれています。論文を書くことは、臨床に直接影響するというわけではありませんが、論理的な思考過程を組み立てる経験になります。
―治療や手術で心がけていることは。
大阪大学を卒業後、香川医科大学で酒井俊一教授の指導を受けました。酒井教授は頭頸部がん術後の患者さんを一生、外来で診療し「手術はやっただけではだめだ。その後が大事だ」とおっしゃっていました。
そのことを肝に銘じ、私もほとんどの患者さんを長期にわたって診て来ました。すると、術後の聴力成績、再発率といった、従来の判断基準からみると問題のない患者さんからでも「聴力は良くなりましたが味覚がおかしいのです」「耳漏は止まりましたが耳がこもっています」といった、予想とは別の感想が多く聞かれることに気付きました。12〜13年前のことです。
それからは、聴力成績、再発率に加えて患者さんのQOLの視点を一層取り入れた手術や治療に力を入れています。若い医師たちにも「術後の患者さんを診るように」と伝えています。それによって、患者さんから多くのことを学べるからです。
2018年5月には「日本耳鼻咽喉科学会総会」が横浜市で開かれます。ここで当講座は「宿題報告」として、これまでの取り組みについてお話しすることになりました。
大変名誉なことで、テーマは「QOLから見た耳科手術戦略」です。当講座のこれまでの集大成が、この宿題報告になると思います。われわれの報告が、患者さんのQOLをより上げるような耳手術の方向に変わるきっかけになればうれしいですね。
-新病院の建て替えの話があるようですね。
当院の病棟は、開院から40年余りとなります。設備や水回り、電気系統などの不具合もあり、建て替えの必要性が高まっています。患者さんの療養環境としても病室などアメニティーの充実の検討が必要で、2025年の新病院開院を目標に新年度から検討会を設置し、新病院の構想を練っていきます。
現在、医学部の敷地内で教育研究棟を建設中です。これに伴い、基礎教室が新教育棟に集約され、基礎教室があった土地の一部が空きます。この空いた土地に、新病院を建設しようという計画です。
開院まで10年近くありますから、疾病構造や人口動態も変化します。それをどう読んで、生き残りを図るのか、課題は多いですね。
しかし、新病院をつくるという大きな目標ができますので、全職員が希望を持ち、一丸となって頑張れると思います。