救命救急センターを柱に地域医療を支える
【ありよし・こういち】 西南学院高校卒業 1991 福岡大学医学部卒業 沖縄県立中部病院インターン 外科レジデント 1993 神戸市立中央市民病院(現:神戸市立医療センター中央市民病院)救命救急センター 2005 同医長 2007佐賀大学医学部附属病院危機管理医学講座准教授 2008 同救命救急センター副センター長 同医学部救急医学講座准教授 2010 神戸市立医療センター中央市民病院救命救急センター部長2013 同救命救急センター長 2016 同臓器提供対策室長兼務
創立90余年の神戸市立医療センター中央市民病院。1995年の阪神・淡路大震災で被災、2011年に現在地に新築・移転した。
厚生労働省が発表する全国救命救急センター評価では例年高い実績を挙げている。救急医療や災害への備えについて聞いた。
―救命救急センターが高い実績を挙げました。
有吉孝一救命救急センター長(以下センター長)
今年1月に全国救命救急センター評価(2016年度)が発表され3年連続1位となりました。当院が特に高い評価をいただいた項目を知るために、兵庫県内にある9病院の救命救急センターと比較してみました。
年間に受け入れた重篤患者数が多く、2016年度は年間で2145人。大まかに言えば、他院の2倍ほど受け入れています。
他診療科で迅速に対応できる体制も、充実しています。循環器専門医、脳神経外科専門医、整形外科専門医等が、24時間365日常駐しているというのが大きな特徴の一つです。
坂田隆造院長(以下院長)
救急車での搬入患者数は年間で約9000人。神戸市内の救急車の搬送数の15%程度にあたります。1カ月で750台ほど受け入れているわけですから、その多さを理解いただけると思います。
救急救命センターと各専門診療科がコミットし、一体となることで、病院全体が救命救急センターとして機能しています。この体制により、これほど多くの患者さんを受け入れても診療の質を担保できているのだと思います。
―ハードな診療科は若い方が敬遠する傾向もあります。人材の確保に苦労は。
センター長
一晩に医師、看護師など28人が当直をしています。看護師は2交替制です。現場努力や事務方の協力もあり、人材確保はできています。
院長
初期研修医は、単位を取得するために救急医療を経験する義務がありますが、これほど多くの症例数を経験できる病院は全国でもほとんどないのではないかと思います。当院では単位取得もできますし、指導する医師も充実している点が人気です。初期研修医18人の定員に対し、昨年の応募は57人と3倍でした。
私は医師や職員の声に耳を傾けることに力を入れています。その中で、「業務が一部の人に偏ることなく、交替制で休みがきちんと取れています」という声も多いです。整った環境の中で、救急医療に深く関与できることが、やりがいにもつながっています。
センター長
今年度の救急車の受け入れ数は、1万台を超え、応需率は98%台になる見通しです。しかし、言い換えますと2%の方、つまり年間で200人程度、患者さんの受け入れをお断りしていることになります。
対策として昨年、救急病棟や精神科身体合併症病棟を増床しました。市民からの厚い信頼に応えるためにも、どうすれば、断らない救急医療を実現できるかを日頃から常に考えています。
―災害の備えは。
酒井真設備課長
阪神・淡路大震災では液状化現象による地盤沈下が起こりました。屋外受水槽の破損で水が供給できず、建物自体に大きな被害がなかったにも関わらず、初期治療程度しかできませんでした。
埋め立て地の中にあったため、神戸市中心部からは橋を渡ってくるしか交通手段がなく、患者さんも職員も病院にたどり着けないという問題もありました。
このような反省から、現病院建設に際し、災害時でも医療機能を維持し、被災者を受け入れることができる「災害に強い病院」をつくるというコンセプトを掲げました。
神戸市と連携し、陸路、水路、空路など複数のアクセスルートを確保しました。建物は、震度7程度の大震災級の地震にも対応する免震構造を採用。津波対策のため十分な地盤の高さを確保し、電気、ガス、水などライフラインだけでなく、通信も複数の手段を取り入れて多重化しています。
現在の病床数は708床ですが、災害時には300床分増床できるスペースをロビーなどに確保しています。そのうち44床は酸素・吸引アウトレットも使用可能です。
当院の取り組みを知り、病院施設関係の見学希望だけでも年間約30件。300人超が見学にお越しになります。
―現在の課題は何でしょう。
院長
最重要課題である救急医療は、ようやく実を結んできたと感じています。今後も、救急医療を柱とすることはゆるぎない方針です。
しかし、そこだけが日本一ということで満足していいのだろうかとも思います。救急部門をバックアップする他の診療科も、同様によりレベルを上げていかなければなりません。それによって、救急の質のさらなる向上につながると考えています。
- 全国救命救急センター評価とは
- 1999年、救命救急センター全体のレベルアップを目的にスタート。
2016年度は全国279センターが対象となった。評価項目は「年間に受け入れた重篤患者数(来院時)」、「消防機関から救命救急センターに対する搬送受け入れ要請への対応状況の記録と改善への取り組み」「専従医師数」、「休日および夜間勤務の適正化」などの37項目。